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ブラックアイス

……………………


 ──ブラックアイス



 夏妃はメティス本社へのハックを行おうとしていた。


 まずは日本支社というセキュリティホールからグループ全体のネットワークに侵入する。ここまでは素人でもできるようなことである。


 だが、ここからが問題だ。


 メティス本社への道のりは北米情報保全協定によって守られている。これを突破しなければ、メティス本社への侵入は行えない。


「レッツショータイム」


 防壁を前に夏妃がエンターキーを押す。


 日本支社にワームが放たれ、それがものすごい勢いで防壁を攻撃する。北米情報保全協定によって定められた防壁が呆気なく崩壊する。


『凄まじい勢いですね、マスター』


「まーね。軍用ワームだから。これで破れなかったら嘘だよ」


 軍用ワームは夏妃によりさらなる改良が施され、ちょっとした防壁ならば一瞬で食い破れるほどになっていた。より凶悪に、よりスマートに。そんな改良が施された軍用ワームでも日本情報軍の軍用防壁は抜けない。


 北米情報保全協定の防壁を溶かしきった軍用ワームはメティス本社のサーバーを目指す。メティス本社のサーバーの防壁は軍用防壁のレベル1からレベル2程度で、ギリギリ軍用ワームが突破できる程度であった。


「さてさて。お宝は、と」


 夏妃はまずは勇者と魔王の伝承について調べ始める。


 ヒットは1件のみ。以前、雪風が日本支社のサーバーから盗み出した情報とさして変わりない。ビッグシックスであるはずのメティスはこれだけの情報で動いているのか? とそう疑問に思わせる情報であった。


「うーん。これは収穫なしか。じゃあ、鏡花について」


 京極鏡花で検索をかけると3件のヒットがあった。


 1件はアメリカ情報軍からのテロリストに関する情報の通知。


 もう1件は北米情報保全協定からのテロリストに関する情報の通知。


 最後の1件は鏡花がメティスのCEO(最高経営責任者)であるヘレナ・J・カーウィンが会っていたという会合の情報。


「来た来たー! これだよ、これ!」


『マスター。サーバー内の防衛エージェントがワームに反応しました。駆除を開始しようとしています』


「軍用ワームは攪乱ウィルスを散布。防衛エージェントの反応を遅らせて。私はもうちょっと探ってみる」


『了解』


 夏妃はメティス本社のサーバーをじっくりと探る。


 軍用ワームはウィルスを散布しながら防衛エージェントを攪乱している。流石は軍用ワームなだけあって、こういう場面にも強い。


 防衛エージェントは軍用ワームを処理しようとするが、散布されたウィルスにリソースを取られて、対応できずにいる。ウィルスは増殖を続け、サーバーに負荷をかける。その負荷によりより防衛エージェントの活動は鈍る。


 その隙に夏妃はアーマードスーツに関連付けられている項目を探す。


「『BSが24機のASを導入。うち22機は演習中に大破。予定通り破棄されたし』ねえ。演習でそんなにぶっ壊れるはずもないから、22機のうち何機かが、鏡花に渡ったと考えるべきだろうね。BSっていうのは、ベータ・セキュリティのことかな」


『マスター。防衛エージェントの数増大。サーバーへの過負荷状態が続いています』


「分かってる、分かってる。後は鏡花を支援するのにどれだけのものが費やされているかを調べないと。このメティスのCEO(最高経営責任者)と鏡花の会談、は後回しにして。他から当たろう」


 ワームは支配の根を広げつつある。


 メティス本社のメインフレームは既に夏妃の支配下にあると言ってよく、欺瞞ウィルスや増殖したワームにより、防衛エージェントは対抗できなくなりつつある。ただ、サーバーの過負荷は夏妃にとっても情報を探しにくくなる。


 彼女は大学のメインフレームを攻撃の踏み台にしていることもあり、通信速度は不安定であった。それでも夏妃は情報を探す。凛之助の戦いに役立ちそうな情報を探し続ける。そして、その鱗片を手に入れた。


「『BSがグレイ・シューターを入手。作戦に当てる。拳銃5丁、短機関銃5丁、サブコンパクトモデルの自動小銃5丁。加えて爆発物200キログラム。全て予定通り輸送し、作戦に当てることとする』と」


 グレイ・シューター。IDタグが取り付けられていない非合法は銃のことだ。


「そこまで大量の──いや、大量ではあるんだろうけど──武器は持ち込んでないみたいだね。しかし、爆発物200キログラムかあ」


 夏妃は死体爆弾の話を思い出す。


『マスター。防衛エージェントはサーバーを過負荷で落とす作戦に出た模様。大量の防衛エージェントが動員されています。このままでは接続が途絶えます。なるはやで情報を取得してください』


「アイアイ、マム。最後はこのメティスのCEO(最高経営責任者)と鏡花の話だ」


 夏妃がそのファイルを開こうとしたときだった。


『マスター! ブラックアイスです! 接続先が全て焼き切られます!』


「全ての接続を切断! 直ちに!」


 雪風の警告とともに夏妃は全ての接続を強制切断した。


「ふう……。あっぶなかった……。ブラックアイスが仕込んであるとか、全然気づかなかった……。大学のメインフレームに損害が出てないといいけれど」


『マスター。診断しておくべきです』


「分かってるよ」


 夏妃は接続を再開して、慎重に大学のメインフレームを診断する。破損した様子はない。ギリギリで間に合ったようだ。


「ブラックアイス、か。よほど見られたくない情報だったのか。けど、私のワームでもブラックアイスを突破できなかったんだね」


『マスターのワームは自己増殖と欺瞞ウィルスの散布、そしてそれに対応する防衛エージェントの大量出現によって、過負荷な状況で活動していました。向こうのメインフレームがもう少し頑丈だったならば、ブラックアイスを突破できたかもしれません』


 ブラックアイス。防衛エージェント。


 これらは人間でいう免疫機能や医療処置に当たる。防衛エージェントは文字通り、攻撃からサーバーや情報を守るためのウィルス、ワーム駆除プログラムで、民間人でもウィルス対策ソフトをインストールすれば、その存在を確認できる。


 ブラックアイスは強力な殺し屋だ。ウィルスやワームの発生源を特定し、一瞬で対象のハードウェアを焼き切る。いわば、消毒だ。汚染源を根こそぎ排除する。膿を排除し、消毒液をぶちまけ、汚染の原因を根本的に排除する。


 ブラックアイスが導入できるような団体は限られている。というのも、本来ブラックアイスは法的にすれすれなのだ。


 ブラックアイスは他の防衛システムと異なり、侵入者に対して逆に電子攻撃を仕掛けることになる。現在開発、配備されている第3世代のブラックアイスは踏み台にしている、その先の攻撃者まで電子攻撃に晒すが、同時に踏み台も攻撃する。


 無関係な、ハッカーに利用されただけの端末を焼き切るのが適切か?


 ビッグシックスは政府に圧力をかけて、認めるように促しているが、まだ合法化されていない国もある。だが、ビッグシックスの本社がある場所──日本、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは合法化されている。


 ただ、電子攻撃は国境を越える。日本の大井を攻撃するのにロシアのコンピューターを踏み台にして攻撃を仕掛けた場合、ロシアではブラックアイスはまだ検討中の話であるので、違法と合法の合間をさまようことになる。


 それがブラックアイスが合法でない理由。


「分かったことは少ない。正直、収穫という収穫はない。また今度仕掛けてみるか。今度は別のワームを使って」


……………………

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