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乱入者

……………………


 ──乱入者



『リンちゃん! カメラだよ! 雪風がすっごい頑張ってリアルタイムの情報を演算してるから彼女に情報を与えてあげて!』


「分かった、夏姉!」


 勝てる。


 犯人の居場所はもう丸わかりだ。勇者としての固有能力は夏妃を前にして敗れ去った。後は一方的に殴れる凛之助と宰司の方が圧倒的に有利なのはいうまでもない。凛之助はカメラを周囲に向け、大河の動きを追う。


『7時の方向から突撃してくる! リンちゃん!』


「これで終わりだ」


 最大限の魔力を込めて必殺の一撃を凛之助は大河に向けて放とうとする。


 だが、そこで突如として爆発が生じた。


 凛之助はとっさに結界を張って身を守ったが何が起きたのかが分からない。


「夏姉! 何が起きている!」


『待って! 外のドローンを……』


 夏妃は大急ぎでドローンを飛行回避命令が出ていいる圏内に飛ばす。


『嘘でしょ……。アーマードスーツ……?』


「アーマードスーツ? それは一体何なんだ、夏姉!」


『宰司君に全力で防御してもらって! リンちゃんは宰司君のバリアの中に隠れて!』


「分かった! 宰司!」


 凛之助が叫び、宰司は凛之助と自分自身を守るために結界を展開する。


「宰司。アーマードスーツとはなんだ?」


「ええっと。兵器です。装甲歩兵だったか、強襲重装殻だったか。そんな日本語で呼ばれる装甲と凄い武器を持った兵器です」


「民間警備企業か? 日本情報軍か?」


「完全な軍用品で国防軍しか装備してないはずです」


 宰司がそう答える。


『どうやら違うみたいだよ、宰司君。確認されたアーマードスーツはドイツ製のヴィルトカッツェって奴。これを装備しているのはドイツ、ポーランド、ギリシャ、スペインなどの欧州諸国。そして──カナダ軍及び王立カナダ騎馬警察とカナダに本社がある民間軍事企業(PMC)ベータ・セキュリティ』


 そう、アーマードスーツは日本国内に存在するはずのない外国製のものだった。


『それも複数! トレーラーからわらわら出て来てる! 3体、4体、5体……』


 夏妃のドローンからの映像には合計で7体のアーマードスーツが出現する様子が見えた。角ばったシルエットをした全高2メートル程度の機体。。それら全ての銃火器の銃口が──7.62x51ミリNATO弾を使用する機関銃、40ミリ自動擲弾銃、68ミリ多用途ロケットポッド──凛之助たちに向けられる。


 猛烈な鋼鉄の嵐が吹き荒れた。


 機関銃が海宮市シティビルの正面ホールのガラスを全て叩き割り、40ミリグレネード弾が次々にホール内で炸裂する。68ミリロケット弾も対戦車榴弾が放たれ、宰司の結界に圧力を加える。


「耐えられそうか、宰司!」


「やって見せます!」


 強固な結界を宰司は維持し続け機関銃弾を跳ね返し、グレネード弾を跳ね返し、ロケット弾を跳ね返す。


 宰司がここにいてくれて本当によかったと凛之助は思う。


 自分ではこんな攻撃には耐えられなかっただろう。


 鋼鉄の嵐は何もかもを薙ぎ払い、海宮市シティビルの支柱にも亀裂を生じさせつつあった。68ミリ対戦車榴弾の威力は戦車の側面装甲を抜けるほどの威力がある。そんなものがいくら耐震性能を重視した建物とは言え、何発も叩き込まれては。


『ビル! ビルが崩れる! リンちゃん、宰司君、逃げて! 逃げる方向は正面を出て、右手に! 左はアーマードスーツが待ち構えているから近づかないで!』


「分かった! 宰司、行こう!」


 宰司が結界を展開したまま海宮市シティビルから外に出る。海宮市シティビルは支柱に重大な損害を負い、傾こうとしていた。


 ビルが不穏な音を立てながら、傾き始める。


 宰司と凛之助が脱出したとき、アリスたちは傾くビルの前面のビルに陣取ったままだった。彼女たちは傾いていくビルに唖然とし、攻撃を行うアーマードスーツをドローンと自分たちの目で目視していた。


「どうするのですか!?」


「畜生! 任務は中止だ! 離脱する!」


 アリスが叫ぶのに、スポッター役の将校が第4世代の熱光学迷彩で身を隠したまま逃げようとする。そこに突如としてドローンが飛来した。夏妃のものではない。爆発物──手榴弾を搭載したドローンだ。


 それが将校の眼前で炸裂する。


「中尉! 中尉! しっかりしてください!」


 スポッター役の将校は既に死亡していた。


 そこにもう1機、手榴弾を搭載したドローンが飛来する。


 狙いはアリスだ。


 そのドローンはアリスに近づこうとして──。


 突如として墜落した。


「何が……」


『指向性EMP攻撃。天沢アリスちゃん、だよね?』


 その爆弾ドローンを撃墜したドローンから声がする。


 夏妃の声だが、アリスは分からずにいる。夏妃も分からないように音声を加工している。声紋から正体を探られるのを避けるために変声ソフトウェアを使用している。


『あのアーマードスーツの操縦者はここにいる全員を皆殺しにするつもりだよ。ここは協力しよう。アーマードスーツを撃破する。さっきからあのアーマードスーツは頻繁にレーザー通信を行っている。恐らくはいわゆるゴーストモード。日本情報軍でいう仮想分隊システム。指揮官機を倒せば全部停止するはず』


 ゴーストモード。


 自律型致死性兵器システム規制条約。いわゆるAI兵器規制条約により、兵器のトリガーを引くのは法的責任を負える人間でなくてはならないと定められた。AIによる完全自律型兵器は規制されたのである。


 その抜け道となったのが、このゴーストモードだ。


 指揮官機が他の機体にAIのアドバイスを受けて指示を出し、引き金を引く指示を出す。日本航空宇宙軍の親子戦闘機──親機の有人機と子機のドローンで編成されるシステムと同じものだ。その地上版。


 それによってたったひとりで最大32機のアーマードスーツを稼働させられるのだ。AIによる完全なバックアップで、ミスを犯すことはなく、それでいて自律型致死性兵器システム規制条約で規制されるAIが引き金を引くという状況を避けられる。


 今、稼働中のアーマードスーツはその状態にあると夏妃は読んだ。


「あなたがあのアーマードスーツの操縦者じゃないという保障は?」


『私が操縦者だったとしたら、自分を狙えって指示出すと思うっ!?』


「それもそうですね」


 だが、いきなり現れた第三者──恐らくは勇者か魔王とかかわりがある──のいうことを聞くのは賢明だろうかとアリスは考える。


 しかし、中尉が死亡した今、アリスの戦闘能力は半減している。アリスを援護してくれる兵士はいない。ならば、協力するしかないだろう。


「分かりました。協力しましょう」


『そうでなくっちゃ! 私は爆弾ドローンを撃墜しつつ、指揮官機を探すから。アリスちゃんはその対物ライフルでアーマードスーツのレーザー通信の受信機を狙って。自律モードに入って電波通信を開始すると思うけど、それでより指揮官機が探しやすくなるから。あとはこっちでもアーマードスーツを攻撃する』


「了解。援護に感謝します。ですが、協力するのは今回だけですからね」


『そんなこと言わないでよ。私はいつでも共同戦線を歓迎するよ。さあ──』


 海宮市シティビル付近で停車していた全ての車のエンジンが突如としてかかる。


『始めようか』


 そして、ふたりの戦争が始まった。


……………………

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