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決闘の準備

……………………


 ──決闘の準備



「本当に宰司君と一緒に殺人鬼に挑むの?」


 セーフハウスの中で夏妃が凛之助にそう尋ねた。


「ああ。そのつもりだ。正直なところ、姿の見えない相手と戦うのにはどのような手を打てば見当もつかないものの」


 凛之助は額を押さえてそう言った。


 追跡する分には犯人のマナの消費量を追えばいいだけだった。だが、戦闘となるとお互いがマナを使い合うために追跡することは困難になる。いや、困難どころの騒ぎではない。全く不可能だと言うべきだろう。


「ふっふふー! そんなこともあろうかと、お姉ちゃんは準備をしておいたよ。殺人鬼と戦うのは海宮市シティビルだったよね?」


「ああ。その通りだ。だが、準備というのは?」


「ええっとね。犯人は透明人間になるわけであって、完全に消えちゃうわけじゃないんでしょ? 完全に消えちゃったら、犯人も相手を殺せないわけだし。つまりは実体があるということ。私はそこに着目しました」


 夏妃は違法ドローンたちを海宮市シティビルの傍に待機させる。


「これってどうかな? 使えるかな?」


 夏妃が画面を指さし、雪風がシミュ―レートした結果を表示する。


「ああ。これは効果が期待できるだろう。ありがとう、夏姉」


「これぐらいお安い御用さ!」


 夏妃と雪風のアバターが同時にサムズアップする。


「それで、リンちゃんの武装は?」


「私には魔法がある。それだけで十分だ」


「うーん。そうか。魔法だね、魔法。宰司君もあのバリアの魔法が使えるし、その点は問題ないのかなあ?」


 夏妃が首を傾げる。


「武器は手に入らないのだろう? 調べたが、今は武器になりそうなものは概ね規制されていると記憶している。銃はもちろん、弓ですら所持は禁止されていると」


「そう、合法的なルートなら武器は絶対に手に入らない。けど、ちょっと非合法な手段を使えば武器が全く手に入らない、ってことはないんだ。前に銃は全てID登録されていて、手に入らないって話したよね?」


「ああ。そう聞いている」


「実を言うと銃は絶対に無理だけど、ボウガンの類は規制されてからID登録が義務付けられるまで時間があってね。その時に流れたボウガンがいくつかあるんだ。それを手に入れられれば、少しは攻撃力の強化に繋がると思うんだけど」


 夏妃がそう言って凛之助を見る。


「いや。必要ない。夏姉がリスクを冒してまで武器を手に入れる必要はない。私の魔法はこう見えて致死的ダメージを与えることができる。天沢アリスとの戦いでそのことは証明できただろう?」


「そっか。そうだよね。銃を持った相手と戦えるだけの力があるんだよね。けど、相手が殺人鬼だと考えるとお姉ちゃんは心配なのです」


 夏妃はそう言って肩を落とした。


「夏姉には日本情報軍と警察、民間警備企業の動きを探ってもらいたい。つい昨日、宰司とともに海宮市シティビルに視察に言ったが、民間警備企業が閉鎖しているわけでもないのに、内部にあったはずの会社のオフィスがなくなっていた。どうも臭う」


「確かに。一応周辺の生体認証スキャナーと街頭監視カメラは雪風と一緒に監視してるよ。ドローンも飛ばしてある。私が全面的にバックアップするからリンちゃんは後顧の憂いなく戦って来て。そして、そしてね。絶対に生きて帰ってきてね……?」


「ああ。もちろんだ」


 凛之助ははっきりとそう頷いた。


「さて、じゃあ、お姉ちゃんは周辺に異常なものがないかチェックしておきますか。それから宰司君と出掛ける時は電話してね。リアルタイムハックで生体認証スキャナーと街頭監視カメラを潰すから」


「ああ。頼りにしている、夏姉」


「リンちゃんも頑張って」


 相手の透明化については対策が取れた。


 後は日本情報軍と民間警備企業、そして警察だ。


 日本情報軍は最後まで様子見を決め込むだろう。勇者同士で潰し合ってくれるならば、彼らは手を汚さずに済むのだ。警察も同様。民間警備企業についてはほぼ日本情報軍の指揮下に入っていると見ていいだろう。


 凛之助は幻影魔法で訓練を続ける。


 少しでも身体能力を高め、魔法の出力を上げなければならない。今回の戦いにしても、次に起きるだろう戦いにしても、魔法の出力が高くなければ戦えない。今は少しでも体力を付けなければならないのだ。


 今回の戦いでは死ねない。死ぬことは、敗北は許されない。


 自分が死ねば夏妃が悲しむ。夏妃のような素敵な女性を悲しませたくはなかった。


「雪風。まだ民間警備企業の管理システム内のウィルスは生きてる?」


『駆除された形跡はありません。依然として侵入可能です』


「オーケー。張り切っていこう。生体認証スキャナーと街頭監視カメラは殺人犯だけを映すようにするよ。雪風は画像編集をお願い。各種センサーの映像に偽の映像を流して。日本情報軍のドローンはハックできないから指向性EMPで潰すよ」


『了解しました、マスター。現場の録画データを参照し、偽装映像を作成します』


「お願い。それから、魔王と勇者についての記録は見つかった」


『リライアビリティの低いものですが1件』


「教えて」


 夏妃が雪風に尋ねる。


『宗教法人古代神儀流というある種のカルト団体が保有していた資料に『魔王現れるとき、勇者現れ、魔王を打ち倒さんとする』とありました。これは資料の一部です。全体的な資料は民間警備企業による家宅捜索の際に押収されて残っていません』


「んん? なんで宗教団体が民間警備企業に捜査を受けたの?」


『申し上げた通り、カルト団体であったからです。テロを企てていたとして、日本情報軍情報保安部の要請の下、民間警備企業が家宅捜索を実行しました。この時、相手側が自動小銃などを使用として、民間警備企業側は相手側を完全に武力鎮圧しています』


 雪風は淡々とそう語る。


「この日本で自動小銃?」


『3Dプリンタで作られたものだったと記録にはあります』


「実包がなければ銃だけあっても銃撃戦にはならないでしょ。実包1発1発にもIDが登録されている時代なのにどうやって……」


 考えれば考えるほど、この団体はおかしい。


 だが、民間警備企業が日本情報軍の指示で行動していたということになると、いくつかの問題が解決する。


「彼らはここから情報を手に入れた……のかな?」


 だが、メティスは? 世界的な多国籍巨大企業であるメティス・グループが日本のカルト団体の情報を当てにするとは思えない。そして、この件は民間警備企業が片付けていて、警察はかかわっていないはずである。


 怪しいのは怪しいが雪風が言うようにリライアビリティは低い。


「雪風。引き続き作業をお願い。できれば、さっきのカルト団体が持っていた資料について全文が欲しい。できる?」


『マスターが望まれるならば全力を尽くすだけです。お任せください』


 雪風がグッとサムズアップして返す。


「雪風、少し人間っぽくなったよね。自己アップデートの結果?」


『恐らくは。演算量の高い“大和”が使えてるおかげでしょう』


「へへっ。じゃあ、ユーモアのセンスも磨きなよ」


『はい、マスター』


……………………

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