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挑発

……………………


 ──挑発



『危険だと思われます。せめて顔の映像を加工して本人だと分からないようにするべきです。そうしなければ、このセーフハウスの位置すらも特定される可能性があります』


「それではダメなんだ、雪風さん。これは犯人に対する宣戦布告なんだ。俺がやらなければいけないことなんだ。今も姿を隠して、殺人を続けているあの卑怯者を引きずり出すために俺がやらなければいけないことなんだ」


 雪風のアバターが困った顔をしていうのに、宰司はそう言った。


『……分かりました。協力いたします。あなたの判断はリスク回避という点においては全く評価できません。この戦争を生き残ることが目的であるならば完全に間違っているとすら言えます。ですが──』


 雪風のアバターが宰司の目を見つめる。


『ひとりの正義感ある人間としては最善の選択です。私はあなたの判断を尊重します』


 サムズアップしてそういう雪風に宰司はほっと息をついた。


「ありがとう、雪風さん」


『いえ。では、早速作業を始めましょう。まずはモニター上部についているカメラをしっかりと確認してください』


 雪風がアドバイスを始め、動画作成が始まった。


 宰司は言葉を発する。犯人に向けて。卑怯な犯人に向けて。今も隠れ潜んで、次の殺人を計画しているだろう犯人に向けて。


 激しい言葉を発する。汚い言葉だって使う。クソ野郎。クズ。卑怯者。


 雪風はデータを録画し続け、セーフハウスの位置を特定可能な環境音や背景を削除していき、動画の明度や彩度を調整する。しっかりとメッセージが伝わるように字幕をつけることも忘れない。


「動画、できました?」


『はい。動画は完成です。どこにアップロードしますか?』


「主要な動画サイト、全てに。なるべく目立つように」


『分かりました。このセーフハウスの位置が特定できないようにアップロードを実行します。主要な動画サイトのアクセス数を分析し、最高の効果が期待できるタイトルとサムネイルを設定。偽装IDでアカウントを作成。動画アップロード開始』


 雪風が動画をアップロードしていく。


『アップロードを完了しました。結果に期待しましょう』


 雪風はそう言って入れたお茶を飲み始めた。


「どれくらい反応に時間がかかりますか?」


『そう長くはありません。ひとつの動画サイトでは既に反応があるはずです』


 そこでピコンと雪風の上に通知を知らせるアイコンが瞬いた。


『反応がありました』


「見てみよう」


 雪風が表示する動画のコメント欄を見る。


『こいつ、マジで連続殺人鬼に喧嘩売ってるの?』


『すげー。勇気あるじゃん。別名馬鹿ともいうだけど』


『ただの目立ちたがり屋だろ。馬鹿らしい』


『だけど、完全に犯人馬鹿にされてて吹く』


『連続殺人鬼の方がこんな目立ちたがり野郎より偉大だし』


『↑連続殺人鬼擁護とか。お前が刑務所に入れよ。もしかして犯人?』


『犯人顔真っ赤』


 次第にコメント欄は犯人を非難し、馬鹿にする方向に向かっていく。


『こちらで匿名エージェントを使い、コメントをある程度自動生成し、流れをコントロールしています。理想的な結果がでるものと確信しております』


「なんだか分からないけど……。だけど、犯人がこれを見たら、何か行動を起こすはず。そして、奴が現れたところを捕まえる」


『それが次の殺人に繋がる可能性もあります』


「そうはさせない。そのためのこの“果たし状”だ」


 そう、宰司が作成した動画は犯人を呼び出し、決闘を要求するものだった。


『海宮市シティビルってここ? →リンク』


『そこだな。空きテナントばっかりの幽霊ビルだったはず』


『もし、犯人が現れたら、警察が捕まえるチャンスなんじゃね?』


『警察無能だからな』


『民間警備企業の対テロ特殊作戦部隊投入だ』


『マジでそれぐらいしてほしいぜ』


『クズな犯人が一刻も早く死にますように』


 果たし状に指定された決闘の場所は海宮市シティビル。


 アジアの戦争前に再開発事業で建てられるも、アジアの戦争による経済的混乱の影響で本来のテナント数が確保できず、空きオフィスが目立つ幽霊ビルだ。その広い1階フロアを宰司は決闘の場所に指定した。


 だが、無謀なことは事実だった。


『宰司君、宰司君! 雪風に動画作らせた!?』


「はい、夏妃さん。すみません。勝手に行動して」


『いや、確かにそうだけど。それより本気? 本気で決闘に行くの?』


「俺は本気です。最初からこうしていればよかったんだって思ってます」


『そっかー。そっちにリンちゃんが行ったから作戦を説明してあげて。──もちろん、作戦はあるんだよね?』


「あります」


 とは言っても作戦らしい作戦はない。


「宰司。あの動画はどういうことなんだ?」


 それから1時間後、凛之助が宰司のセーフハウスにやってきた。


「あのまんまです。犯人の行方は追えない。なら、犯人の方から出て来ざるを得ない状況を作り出すまでです。あの動画で犯人を呼び出して、そして犯人を叩きます。凛之助さんも協力出来たら、協力してください」


「君を狙ってるのが殺人犯だけとは限らないんだぞ?」


「分かっています。ですが、日本情報軍にせよ、警察にせよ、犯人は捕まえたいはずです。そして、勇者同士が潰し合うのも望ましい。そう考えれば、俺が犯人を倒すまでは日本情報軍も、警察も、介入はしてこないはずです」


「そこまで考えていたのか……」


 凛之助が唸る。


「だが、危険であることには変わりない」


「それでもやらないとまた誰かが殺されるんです!」


 凛之助が諭すのに宰司が叫んだ。


「確かに危険です。犯人を倒した後に俺は日本情報軍に殺されるかもしれない。それでもやらないといけないんです。もう誰かが殺されたりしないように。勇者と魔王の戦いで勇者と魔王が死ぬことはあっても、他の人間を巻き込んだらダメでしょう……?」


「無論、それが理想ではあるが……」


 だが、これまでの戦いの中で一般市民の血が流されなかったことなどなかったとは凛之助はいうことはできなかった。


『凛之助様。勝算はあります』


 そこで雪風がそう言った。


「どういうことだ?」


『マスターが新しいプログラムを作られました。見えない相手を探し出す分析AIです。それを使えば高い確率で私が凛之助様方の戦いを支援できると思われます』


「夏姉が……」


 そう言えばここ最近、何かに夢中になって取り組んでる様子だったが。


『日本情報軍の介入についても周辺空域へのドローンの配備と“ちょっとした混乱”を引き起こせば防げるはずです。必ずしも理想的な結果で物事が終わるとは限りません。ですが、宰司様が示された通り、行動しなければ勝利はないのです』


 そこで雪風のアバターがお茶を差し出す仕草をした。


 湯呑には“勝利”と書かれている。


「分かった。負けたよ、宰司。君の作戦に乗ろう。私も強力する。ふたりで犯人を仕留めよう。ただし、作戦が失敗に終わる可能性が高いと判断されたら、そこで終わりだ。夏姉の支援を受けて全力で脱出する」


「ええ。それで構いません。やって見せましょう」


「ああ。やって見せよう」


 そして、魔王と勇者はともに戦いに赴くことになる。


 指定された日時は7日後。


 それまでに犯人が動画の存在に気づかなければならない。


……………………

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