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いじめの事実

……………………


 ──いじめの事実



 大島桜花は宰司に対するいじめの主犯だった。


 彼女が最初に宰司のことを『キモイ』と言い、それからいじめが始まった。


 それから宰司に対するいわれなき誹謗中傷が起き、桜花たちのグループは宰司を追い詰めていった。宰司たちが中学2年の冬までは何もなかったのに、それは突如として始まったのである。


 海宮市市立第一中学校はそこまで厳格な校則のある学校ではない。どちらかと言えば緩いぐらいだ。未だにスマートフォンを学校に持ち込むことを許さないような学校と比較すれば、の話であるが。


 桜花はいわゆる陽キャという性格で活動的で明るいタイプの人間だった。


 それに対して宰司はどちらかと言えば、あまり活動的ではないタイプだった。だが、性格が暗いだとか人付き合いが悪いということはなく、普通の生徒と変わらない生活を送っていた。だが、いじめのターゲットにされた。


 思うに桜花たちは活動的なあまり、学校という堅苦しい環境にストレスを感じていたのだろう。そして、そのストレスのはけ口として、宰司をいじめるという行為に及んだ。


 過失は常にいじめる側にあるというが、この場合は疑いようもない。


 桜花たちにとって宰司はストレスのはけ口であり、玩具だった。


 物を隠したり、グループ分けで仲間外れにしたり、あるいはクラス全員で無視したり。彼女たちは明確な証拠が残らず、それでいて確実な嫌がらせを宰司に対して行った。桜花たちはクラスのリーダー的役割を担っており、そのことも宰司を責め立てるのに活用されていたのだった。


「では、我々の子供が悪いというのですか? その子供をいじめていると? 本当にそんな証拠があるのですか? あるなら見せてもらいましょう」


「複数の生徒がいじめはあったとアンケートに回答しておりまして……」


「アンケートぐらいで疑われてはたまりませんね。私たちの子供は何もしてはおりません。そちらの被害妄想です。このような場がふざけていますよ」


 一度いじめの事実が確認されたとき、学校は桜花たちの両親も学校に呼び出した。桜花の両親は娘がそんなことをするはずがないと反発。桜花たちもいじめの事実を否定した。宰司の両親は会議には応じず、宰司自身も沈黙を貫いたため、いじめ問題は有耶無耶になってしまった。


「情けないの、先公にチクって」


「助けて、先生ってか。ふざけんなよ、てめえ」


「次にこういうことしたら分かってるよな?」


 だが、桜花たちは宰司がこの件について教師に告発したのだと考え、宰司に対してより悪質で、陰湿ないじめを繰り返すようになった。宰司は何も言わなかったが、またしてもいじめの事実があると判断した学校運営教員とスクールカウンセラー、ソーシャルワーカーの勧め──というより半ば強制的に宰司はVR環境で授業を受けることになった。


『死亡したのは中学3年生の女子生徒で警察は──』


 いじめを行ってきた桜花たちを宰司が憎く思うかと言えば、少しは憎く思うだろう。少なくとも好感は抱かない。だが、殺したいほど憎いとは宰司は思わなかった。


 それは宰司がお人よしだからと言ってしまえばそれまでだ。確かに宰司はお人よしだった。だが、それだけではない。宰司はちゃんと知っていたのだ。いじめの実行者に下される罰というものを。


 いじめへの厳罰というのはいじめの問題が深刻化すると同時に、学校教育の在り方について政府が方針を新たに策定したことで決まった。


 そう、いじめの問題はテロの脅威と同じくらいに問題になっていた。政府による無分別な子育て支援によりファッション感覚で子度を持つようになった世代。この世代の子供はあまりにも無責任かつ無計画に出産されたため、多くの自称専門家がいうようにちゃんとした躾を受けていなかった。


 親世代の責任感のなさは深刻で、その負担は学校に回ってきた。


 だが、学校は躾をする場ではないと明確に政府は打ち出していた。学校はあくまで教育機関であり教員が教育を行うためだけに存在する。長年の渡る教員への過度な負担を減らすために政府はそう明確に示した。


 何があろうと『ご家庭の問題はご家庭で。必要最低限の躾はしてください』と学校は返すことができるようになったのだ。


 だが、無責任な親たちは子供を甘やかすだけ甘やかして、無責任に放置した。


 その結果がいじめの蔓延。


 政府は深刻化するいじめ問題を解決するために、いじめの厳罰化を打ち出した。


 いじめが軽度な場合は両者の話し合いとするが、いじめが長期的かつ深刻な場合、いじめの実行者は中学生までの場合は高校への進学取り消し、高校生の場合は退学処分。さらに悪質であると判断された場合、刑事罰を加えることも盛り込んだ、新しいいじめ対策の法案が国会を通過していた。


 桜花たちの場合、既に話し合いのフェーズは終わった。これ以上となり、宰司が申告するならば高校への進学取り消しは確実にあり得ただろう。


 だが、宰司は申告しなかったし、いじめの事実を認めなかった。


 それはやはり彼がお人よしだったからなのかもしれない。


 その桜花が死んだ。殺された。恐らくは宰司と同じ勇者という存在の手によって。


 宰司はショックを受けていた。


 世界がひっくり返ったかのような、足元が崩れ落ちたような、そんな感触だった。


 連続殺人事件と言っても自分たちが犯人を追うだけで、犯人は無関係の人々を殺し続けるのだとばかり思っていた。どこか半分は他人事のような気分だった。自分の力で他人を守るのだという小学生のような正義感を覚えていた。


 しかし、全てはひっくり返った。


  ふざけていたのだ。真面目になっていなかったのだ。もっと力を入れて取り組むべきだったのだ。こう後悔するぐらいもっとやれることはあったはずなのだ。


 だが、何もかももう遅い。


 桜花は死んだ。もう生き返らない。


 突如として自分たちの世界に化け物が現れたかのような気分だった。


「これぐらいで、諦めたらダメだ」


 宰司が自分に言い聞かせる。


 確かに化け物は怖い。迷宮の中でミノタウロスに出くわしたら誰だって悲鳴を上げるはずだ。だが、そこで逃げ出すか、立ち向かうかが運命の境界線だ。


 宰司は逃げない。


 思えばこれまで逃げ続けてきた。本当に桜花たちのことを思うならば、言ってやるべきだったのだ。いじめはやめろと、これ以上続ければそちらに身が危うくなるぞと。そう言って立ち向かうべきだったのだ。


 何が誰かを助けたいだ。それならまず自分の周りの人を助けろ。


 宰司は歯を食いしばって屈辱に耐える。


「やってやる。そんなに殺しが続けたいなら、やってやる」


 宰司は自分自身に喝を入れる。


「雪風さん」


『はい、何でしょうか?』


「あなたはパソコンのことをいろいろと知っているんですよね?」


『はい。多用途AIとして人間の電子端末での作業を補助することも私の役目です』


「では、お願いがあります」


『何でしょう?』


 宰司が告げる。


「動画を作りたいんです」


……………………

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