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追跡不可能

……………………


 ──追跡不可能



 アリスは事件の発生を聞き、現場周辺に不審なIDが検出されていないかを調べる。


 だが、ヒットはなし。


 犯人はもはや完全に姿を消すことにしたらしい。


 偽装IDすら使わず、完全に身を隠す。そこまでされてはもはや犯人は追跡不可能である。犯人を追跡することはできず、その正体も、居場所も分からない。それではこの戦争に勝利することはできない。


 アリスは別の勇者候補たちから殺害することを考える。


 百鬼直樹。今の段階で公安に手を出すのは得策か?


 坂上宰司。これは問題ないだろうが、行方不明だ。


 そして、臥龍岡凛之助。これもどこにいるのかすら分からない。


 この国民総監視社会の中にあって、ここまで姿が消せるとは。国民総監視社会が聞いて呆れる。この国が監視を強めようとすればするほど、隠れようとする人間の技術は高度になり、より発見が難しくなるのだ。


 では、どうすればいいのか。


 坂上宰司についての生体認証データは取得してある。向こうのハッカーは全ての痕跡を消したつもりのようだが、民間警備企業のデータサーバーから坂上宰司の生体認証データを入手することに成功している。


 これを恐らくはリアルタイムハックを受けている民間警備企業の分析AIとは別に日本情報軍が、というよりもアリスが独自に組んだ分析AIに解析させ、位置情報を探る。どこかでヒットするはずだ。


 とは言え、データベースもリアルタイムハックを受けていたために、過去の情報は当てにならない。今から起きることならば分かるだろうが。


「アリス。またひとり死んだ」


「もうですか?」


「どうも模倣犯らしい。見えない殺人鬼に憧れていたようだ。偽装IDを使っていたが、これまでの生体認証データとは一致しない。別人だ。とは言え、これからこの手の馬鹿が出てくるとなると、捜査がより難しくなる」


 それはその通りだ。既に今の犯人を追うことすら難しいのに、そこに模倣犯まで混じっては事件解決は、勇者の特定と排除はより困難になる。


「急がなければなりませんね」


「ああ。急がなければならない」


 土佐大佐も焦っているようだった。


 既に作戦開始からかなりの時間が経過したにもかかわらず、成果という成果は上がっていない。未だに魔王どころか、勇者のひとりも排除できていない。


 急がなければ。そう思う反面、やはりアリスは自分の願いに疑問を持っていた。


 自分も連続殺人事件の犯人と同じように子供を殺した。殺したも同然だ。そして、勇者としての刻印を手に入れたのだ。そんな自分が願いを叶えることを望んだりなどして、本当にいいのだろうか、と。


「何? その情報は確かか?」


 不意に土佐大佐が尋ねる。


 尋ねている相手は電子情報軍団から派遣されてきた将校だ。


「間違いありません。アップロード時刻は本日14時。間違いなく本人です」


「……何かの罠の可能性は?」


「ありえます。どこからアップロードされたか探りましたが、特定できませんでした。ですが、映像そのものは本人で間違いありません」


「合成された映像ではないと?」


「ええ。違います。それだけは断言できるはずです」


 慌ただしくなった指揮通信車両の中でアリスが何が起きたのか把握しようとする。


「先ほど、坂上宰司が複数の動画投稿サイトに自身の映像をアップロードした」


「本当ですか?」


「ああ。事実だ。恐らくは。罠である可能性は否定できないが、坂上宰司本人が自身の映像をアップロードした。内容は……連続殺人事件の犯人を挑発するものだ。坂上宰司が罠に掛けようとしているのは、連続殺人事件の犯人だと思われる」


 アリスも映像を見せられて、唖然とした。


 まだ中学生だろう年齢の子供が連続殺人事件の犯人に向けて、挑発するような言葉を発している。既に坂上宰司が勇者として日本情報軍に狙われ、その姿を隠していることから考えるに驚くべきことだ。


「問題は相手がこの罠に乗るかどうかだ。罠に乗って勇者同士で潰し合ってくれるならいうことはない。完璧だ。だが、乗らなかった場合、我々が坂上宰司を殺さなければならない。居場所を特定しようと電子情報軍団が躍起になっているが、今のところ動画から得られる情報はない」


 電子情報軍団のスペシャリストたちでも居場所が分からないということは、相当高度な手段を使ったものと思われる。


 しかし、中学生くらいの年齢の子供がアップロードした動画から居場所を特定できないとは。国民総監視社会は大したことはないのかもしれない。国民大体総監視社会とでもいうべきか。アリスの皮肉.exeがそう呟く。


「相手には電子戦のプロがいる」


 そこで土佐大佐がそう言う。


「アングラハッカーの可能性は未だに否定できない。だが、どうしてアングラハッカーとついこの間まで不登校だった男子中学生との間にコネクションが生まれたかだ。普通であれば考えられない。何か普通ではないことが起きた」


 あるいは、と土佐大佐は続ける。


「勇者のひとりがアングラハッカーであるのか。既に我々の諜報網には例の情報テロリスト京極鏡花が日本に数年振りに帰国したとの情報を得ている。あの女ならば、この手のことはお手のものだろう。ただし、どこで勇者と魔王の関係を知ったか、だ」


「我々と同じ情報ソースの可能性は?」


「あり得ない。我々の情報ソースは“滅菌”済みだ。外部に情報が漏洩することなど考えられない。だが、どこかから情報が渡った」


 日本情報軍の情報ソースについて、ようやくアリスは完璧な開示を受けていた。


「ですが、警察も、情報テロリストも知っていている情報です。情報が漏洩した可能性を考えるべきです」


「ふうむ。しかし、それが分かったところでどうなる?」


「向こうの把握していない情報、向こうだけが把握している情報について明らかにすることで情報戦において優位に立てます」


「なるほど。確かにその通りではあるな……」


 土佐大佐が考え込む。


「“滅菌”が確かだったかを確かめさせよう。不確かだった可能性も出てきた。それから各情報軍団に魔王と勇者の伝承について、明確なフィクションでないものの調査を」


 我々にできるのはここまでだと土佐大佐は言った。


「我々は情報戦を軽視しない。旧軍と同じ失敗を起こさない。そのための情報軍なのだ。我々は情報の世界で戦う軍隊だ。暗殺だけが仕事ではない。確かに君の言う通り、情報は確認すべきだろう」


「理解していただいて光栄です」


 アリスはただそう言って頷いた。


「だが、我々の第一目標はクラウン作戦の成功だ。勇者と魔王の抹殺だ。情報テロリストが戦争に勝利して何を望むかなど──ぞっとする」


 土佐大佐はそう言って詳細不明の日本情報軍少将に連絡を取り始めた。


 その土佐大佐の言葉を聞いて、アリスがふと疑問に思った。


 では、自分の願いを果たすことは日本情報軍に許容されているのだろうか、と。


 アリスの願いはただ人間になりたいというだけのものだ。日本国の国益を損ねるようなものではない。それに日本情報軍は何かの願いを叶えるということよりも、自分たちに以外の人間──鏡花のようなテロリストが願いを叶えることを阻止したがっている。


 何も問題はないはずだ。


 アリスはそう思った。


……………………

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