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犯人の痕跡を追う

……………………


 ──犯人の痕跡を追う



 アリスが新しい捜査方法を試みていたときに、凛之助たちも調査を始めていた。


 凛之助たちはひとつ前の事件現場に来ていた。


「ここで子供とその母親が殺されたそうだ。子供の方は滅多刺しにされて」


「酷い。犯人は何としても捕まえないと」


「ああ。勇者である以前の問題だ」


 人間として許せない相手。人間として許してはならない相手。


 それがいるとすればこの連続猟奇殺人事件の犯人だろう。


「これからマナの量を過去視で見ながら進む。雪風、ここでの犯行はいつ行われた?」


『74時間34分前です』


「分かった」


 時間を74時間34分前に引き戻す。


 現場の映像が見えた。扉を開けた女性が腎臓を滅多刺しにされている。


 それからマナは室内に伸びていく。


 凛之助はさらに時間を進め、犯人が出てくるのを待つ。


 扉が開き犯人が出てきたようだが、姿は見えない。


 そこからマナの流れを追っていく。


 消費されたマナの流れを着実に追っていく。


 犯人はマンションを出て、生体認証スキャナーと街頭監視カメラをあざ笑うかのように大通りを進み、マナの紛れやすい場所に来ていた。


「これだけ人通りがあると難しいな……」


 この世界に魔法はないが、人々は人知れずマナを吸収し、微弱に消費する。それは勇者のそれとは異なるが、これだけの人通りがあれば、犯人の消費したマナが紛れるには十分であった。


「どうします……?」


「概ねの方向性に見当をつけて、そして進むしかない。どこかでこの人通りも途切れるはずだ。それを狙って進むしかないだろう。流石に姿が見えないのでは、夏姉に頼むこともできない」


 確かにこの状況で夏妃にできることは凛之助たちの身元を隠すためのリアルタイムハックぐらいのものである。犯人そのものにはたどり着けない。


 凛之助がやるしかないのである。


「こっちだ」


 凛之助がマナの動きを読み取り、その痕跡を追跡する。


 僅かに、本当に僅かにだが、他より多くマナが消費された部位がある。そこを狙って凛之助たちは進む。しかし、あまりにも細い糸であるがために、簡単に途切れてしまう。その度に凛之助たちは犯人の行方に予想を付けなければならなかった。


 そして、段々と人通りの少ない場所に出る。


「まだ痕跡は繋がっています?」


「繋がっている。大丈夫だ」


 凛之助は根気で犯人の行方を追った。


「凛之助さんってところで高校生ですか?」


「いや。高校は辞めた。今は探偵事務所で働いて……いた、だな」


「ちなみにおいくつです?」


「記憶には今年で17歳とある」


「俺より3歳、歳上ですね」


「誤差のようなものだな。そこまで年齢は離れていない」


「俺たちのような若い世代で3歳は大きな差ですって」


「そうなのか?」


「そうですよ。俺はまだ14年しか生きてないってことなんですから」


 だから、心配なんですと宰司は語る。


「俺、不登校で学校にも行ってなくて。VRで授業を受けてるんですけど、それまではいじめられてて。それでもこの力が手に入った時は嬉しかったんです。これで誰かを助けられる。自分の存在意義ができたって」


「……その心意気ならば、これからどんなことに出くわそうと乗り切れるだろう」


「だと、いいですけど」


 それよりも犯人を追わなければなりませんねと宰司は慌ててそう言った。


「何かあれば相談してくれ。力になれないこともあるだろうが、こう見えてもより多くの時間を過ごしている。魔王が勇者の力になるというも奇妙な話ではあるが、今は相互に協力し合っている関係だ」


「ええ。お願いします」


 凛之助と宰司はそう言葉を交わすと、犯人の追跡を続けた。


 犯人が再び行き止まりの路地裏に入る。


「そろそろ犯人が姿を見せる」


「どこです?」


「視覚を共有しよう」


 凛之助が宰司の額を触る。


 そこで凛之助の過去視の映像を宰司も見ることになった。


 いつものマスクとフード姿の男が、路地裏から出てくる光景を。


「これが犯人なんですね」


「そうだ。これが犯人だ。こいつを追うことになる」


 そこで凛之助は宰司との視覚共有を解除した。


「ここから先は日本情報軍に先回りされている可能性もある。十分に注意してくれ。敵は狙撃を行って来ることもある。いつでも固有能力を使えるように。一応私の方でふたり分の結界は張っておくが、強力な攻撃を受ければ、突破される可能性もある」


「分かりました」


 宰司は気合を入れてそう言った。


「では、進もう」


 また日本情報軍が待ち伏せている可能性は否定できなかった。彼らはどういうわけか連続猟奇殺人事件の犯人の仮の住まいを見つけだしたのだ。今回もそうではないと誰が断言できるというのだ?


「夏姉。この付近に日本情報軍の姿は?」


『ないよ。けど、気を付けて。民間人に紛れている可能性もあるから』


 それから第4世代の熱光学迷彩を使っている可能性もと夏妃は付け加える。


「安全、とは言えないようだが、少なくとも待ち伏せされてるわけではなさそうだ」


「行きますか?」


「行こう」


 凛之助と宰司は犯人の姿を追い続ける。


『リンちゃん! 気を付けて! アリスちゃんが近づいている!』


「くっ。先回りされたか」


 だが、どうやって日本情報軍は犯人の行方を追ったのだ?


 相手は生体認証スキャナーと街頭監視カメラの両方を騙せる偽装IDを持っているというのに。その上、完全に姿を消すことすらできるのだ。文字通り、何の痕跡も残さない相手を日本情報軍はどうやって追い詰めた?


 考えても仕方がないと凛之助は思う。


 勇者同士で潰し合ってくれるなら、それを受け入れよう。それは戦争の早期終結と凛之助たちの身の安全に繋がるのだ。


『どうも変だね。犯人の姿を追えていたわけではないのかな?』


「どうしたのだ、夏姉?」


『日本情報軍はアパートの部屋を片っ端から調べている。どの部屋に犯人がいるのか特定できていないみたい。犯人の家なのかな、本当に』


「近づけるだろうか?」


『もうちょっと待って。日本情報軍の戦術級小型ドローンが活動しているから』


 日本情報軍の戦術級小型ドローンは熱光学迷彩によって姿を消しているが、自動的に宅配ドローンなどに飛行迂回命令を出すようになっているので、その姿が浮かび上がってくるのである。


『おっと。当たりを引いたみたいだね。中を調べている』


「犯人が見つかったのか?」


『そうではないみたいだけど、犯人の居場所だったみたいだね。鑑識が来てる』


 民間警備企業の軍用四輪駆動車とトラックが止まり、中から鑑識チームが下りてきて、部屋の捜査を始めていた。


『日本情報軍は今度こそ、犯人を見つけるかもしれない』


「少なくとも我々は引いた方がいいな。危険がある」


『そうだね。迂闊にうろうろすると日本情報軍に出くわすかも』


 生体認証スキャナーと街頭監視カメラは復帰している。恐らくは今回はバックアップのデータは日本情報軍が握っていただろう。よって、全ての履歴を削除するのは不可能だ。これまでの足取りを追われ、凛之助、夏妃、宰司の居場所が漏れるのは困る。


 行動は慎重に、だ。


「凛之助さん。過去は見れるけど、未来は見れないんですか?」


「一応見ることはできる。だが、過去視と違って未来は未来を見たことによる変動だ生じる。それなので100%完璧な未来は見ることができない」


「じゃあ、ここで待っていて、日本情報軍に攻撃されるかどうかは分かるんですか?」


「分かるだろう」


 凛之助が答える。


「じゃあ、もう少し粘りませんか? ここまで来て引くなんて」


……………………

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