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作戦の練り直し

……………………


 ──作戦の練り直し



 犯人の自宅と思しき場所を突き止めたが、日本情報軍と思しき勢力に狙撃を受けて、やむを得ず凛之助は撤収していた。


「あの自宅からさらに過去視で追えれば犯人の行き先が分かるのだが……」


「日本情報軍が陣取ってるんじゃどうしようもないね」


 夏妃はドローンの撮影した映像を見つめていた。


 第4世代の熱光学迷彩は突き出た対物ライフルの銃身以外の全てをカバーし、狙撃犯たちの姿を覆い隠している。辛うじて雪風が掴んだ敵の狙撃位置の把握により、輸送途中だった冷蔵庫が投下され、第4世代の熱光学迷彩が一時的に剥げる。


「やっぱりアリスちゃんか」


「そのようだな」


 第4世代の熱光学迷彩が剥げて現れたのはアリスとスポッターの下士官の姿だった。対物ライフルを握っているのがアリスなところを見るに、日本情報軍はあくまでアリスによって凛之助を殺さなければならないと思っているようだ。


「しかし、しかしだよ。今回使用された弾丸は通常のものとは異なるんでしょう?」


『はい。恐らくはブラックチップ弾。そして炸薬が増量された強装弾。使用された銃火器はアメリカ製対物ライフルと思われますが、同様の銃を日本情報軍は導入した記録はあるものの、この手の銃弾を導入した記録ありません』


「反動は当然大きいよね?」


『バイポッドを使って銃身を安定化させたとしても反動は無視できません。今回使用された強装弾では威力が1.5倍近く上がっています。強力な反動が生じたはずです』


 雪風の分析は正しかった。


 日本情報軍は対物ライフルを導入し、国内メーカーがラインセンス生産しているが、国内のメーカーは通常の弾丸を製造するのみで、ブラックチップ弾に類するものは製造していない。強装弾についても同様だ。


 故に日本情報軍はこの手の銃弾を持っていない。そのはずだった。


 そして、仮にその手の銃弾が手に入っていたとしても、反動は凄まじいことになる。アリスの細腕でその反動を受け止めきれるのかという疑問が生じる。


「思うに」


 と夏妃が語る。


「アリスちゃんは全身義体の可能性がある。これまで見てきた彼女のパフォーマンスを見ても、とても年相応とは思えない。訓練を受けていたとしても、受けていなかったとしても、これだけの身体能力的パフォーマンスをこの年齢の肉体で引き出すのは不可能。そう思わない、雪風?」


『極めて高い可能性でそれは成立します。対象天沢アリスは軍用義眼のみならず、軍用義肢を使用している可能性。そして、背骨や骨盤を始めとする骨格を人工物に置き換えている可能性があります』


「そっか、そっか」


 夏妃が雪風の表示するデータに頷く。


 雪風はこれまで撮影したアリスの情報を表示し、その状況を雪風が細かく分析していく。映像データから筋肉の出力したパワーなどを推測し、それが人間の、アリスの年齢の子供が出せるパワーでないことを示唆する。


「今日日、全身義体なんて珍しくもないけど、これは軍用規格だね。出力のレベルが圧倒的に民生品を上回っている」


「全身義体とは?」


「うーんとね。人は手足がなくなったら義肢を付けるでしょう。それの全身版。今はナノテク技術の発展で人工臓器は大幅に小型化したし、ナノマシンによって義肢に命令を下せる。だから、事故などで重傷を負った人はそれが回復不可能な場合QOLも考慮して全身義体にすることを進められるんだ」


 もちろん、損傷した手足だけど義肢にする人もいるよと夏妃は語る。


「全身を人工物に……。脳は?」


「今のところ、脳はそのまま。脳の病気でもナノマシンを入れて治療するし、脳を入れ替えるだけの技術は今の医学にはない。リスクが大きすぎるというべきかな。脳を保存し、人工的な空間に保存して、それから全身義体に移すって実験もあったみたいだけど」


 それでも基本的には脳は頭蓋骨の中から動かしたりしないよと夏妃は言う。


「ふうむ。そこまで科学が進歩しているとは。想像もできない。人工的に作られた体に移るなど。まるで魔法だ。いや、魔法ですらここまでのことはできないだろう。この世界の技術力は魔法を陳腐化させるだけのものだ」


「そう言わない。リンちゃんの魔法も立派なものだよ。ただ、相手が全身義体となるとこちらが取るべき方法は限られてくるね……」


「作戦の練り直しが必要なのか」


「そう。軍用規格の全身義体の相手に、力押しは通用しないと思う。とは言え、絡め手も難しいだろうね。指向性EMPを使用したところで、軍用規格の全身義骸にはまるで影響を及ぼせない。相手は超人と思って作戦を作らなければならない」


 強装弾の50口径ライフル弾を叩き込んでくるような相手なんだからと夏妃は言う。


「となると、どのような手段が?」


「ううむ。難しいね。全身義体となると、それも軍用規格の全身義体となると流石にデータが不足してる。超人のような肉体をもっているので、どう行動するかが予想できなくなる。やろうと思えばビルの10階からでも飛び降りられる」


「浮遊魔法なしに?」


「そういうものなしに」


 凛之助は改めて夏妃の言うことが恐るべきことだということを認識した。


「雪風。タスクを追加するのに演算量に空きは?」


『富士先端技術研究所のスパコン“大和”の性能のおかげで、自己アップデートが重ねられ、より効率的にタスクを実行することができました。演算量に余裕は作れます』


「それならアリスちゃんの全身義体のスペックを探って。それから対全身義体戦の対応マニュアルの作成もお願い」


『了解しました、マスター』


 雪風のアバターが頭を下げる。


「雪風は本当に進化しているのだな……」


「そう。より効率的に、より正確に、より俊敏に。私たちに敵なしだよ」


 夏妃がグッとサムズアップするのにモニターの中の雪風もサムズアップする。


「雪風は進化を続ければ、やがては人間と同じ能力を手に入れるのだろうか?」


「その可能性はなきにしもあらず。自己学習型AIの行きつく先は、人間を超えた存在だと私は論文に書いたよ。自己学習型AIは学び続ける。貪欲に知識を吸収する。だけど、それだけじゃない。自己学習した結果を生み出す」


「人間のように何かを作ったり、感情を持ったり?」


「彼女は分からないけど、何かを作るということは既に果たしている。技術的特異点(シンギュラリティ)。レイ・カーツワイルが予想した未来。AIがより高度なAIを作り続け、技術的進化が爆発的に起きる。とまでは、いかないけど、AIが自分より優れたものを作り上げるということは既に雪風の自己アップデートから分かる」


 予想されていたよりも緩やかだが、技術的特異点(シンギュラリティ)は訪れているんだと夏妃は語った。


「感情は?」


「分からない。雪風、今どんな気分?」


 夏妃が雪風に問いかける。


『大忙しな気分です』


「ごめんごめん。作業の邪魔しちゃったね」


 仮に電子のホムンクルスである雪風のようなAIが自我を得たら、この世の構造は大きく変化するのではないだろうかと凛之助は思った。


「まあ、何はともあれ。今は情報収集だ。雪風、タスクの進行状態は?」


『勇者と魔王の文献については未だ有益な情報なし。特異な事件については分析中の情報が1件です』


……………………

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