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狙撃

……………………


 ──狙撃



 実を言えば、先に犯人の自宅を発見していたのは日本情報軍だった。


 民間警備企業によって始まったローラー作戦と並行して、日本情報軍情報保安部が実行した捜査により、犯人の自宅は明らかになっていた。


 彼らは姿の消える殺人鬼を軍事用の製品である第4世代の熱光学迷彩だと判断した。そして、犯人が姿を消すタイミングと姿を現すタイミングを探った。


 膨大な量の生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像が分析され、不自然に消えた人間が探り出された。どこかで突然消えたのに、いつの間にか何食わぬ顔で姿を見せる犯人の映像が検索に掛けられ、日本情報軍情報保安部は探り当てた。


 行き止まりの路地裏で消え、生体認証スキャナーと街頭監視カメラの死角であるそこで、姿を現し、姿を消した犯人の姿を。


 生体認証スキャナーは相変わらず偽装IDが使用されていて、半ば役に立たないが、犯人の足取りを追うことは可能だった。いくつもの生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像をリレーしながら、目標をトレースする。


 そして、自宅がヒットした。


 このことは直ちに第401統合特殊任務部隊(JSTF)に伝えられ、指揮下にある特殊作戦部隊とアリスが自宅に突入した。


 だが、中は空っぽだった。


 犯人は既に別の根城に移っていたのだ。


 しかも、賃貸の名義まで偽装IDであった。取引は電子的に行われ、不動産業者は諸手続きをAI任せにしており、そのAIは見事に騙されていた。存在しない人物の名義と保証人の手で、支払いが完了すると犯人はこの物件を賃貸したのだった。


 それからは完全に犯人は姿を消しており、未だに居所が分からない。


 だが、これは使えるのではないかという考えが日本情報軍の中にあった。


 これを餌に他の勇者か魔王を引き付けられるのではないかと。


 半グレ集団のアジトを襲撃させたときと同じことだ。アングラ界隈を経由して情報をリークし、勇者たちに、そして魔王に情報を伝える。そして、釣れた勇者か魔王を今度は殺害する。それを狙った。


 予想外だったのはネットに情報を上げる前に、凛之助がこの住所を特定したことだ。


 彼には予想外の力があると誰もが認識しつつ、その心配をするのもこれまでだと思った。凛之助は狙撃によって死ぬのだ。日本情報軍が導入しているアメリカ製で日本でライセンス生産されてる対物ライフルによって。


 この手の対物ライフルは過剰評価されている節がある。確かに50口径のライフル弾は大抵のものは貫ける。だが、オーバーキルだ。日本情報軍が主に使っている狙撃銃の銃弾は人を殺傷するのに十分な.338ラプア・マグナム弾だ。これまでの経験上、50口径のライフル弾を使用しなくても、この銃弾で十分に任務は行えていた。


 だが、今回の相手は普通の人間ではない。


 勇者として、魔王として、固有能力を有している連中だ。それが相手なのだ。当然ながら、その対策を取らなければならない。


 そこでこの対物ライフルが持ち出されたのである。


「弾かれました」


「撃ち続けろ。以前の戦闘では結界を破壊することに成功している。そのためのこの馬鹿デカい対物ライフルなのだ。確実に目標を撃ち抜け」


「了解」


 アリスはスポッターとして選抜射手ライフルを背負い、レーザーレンジファインダー搭載の双眼鏡で凛之助を監視している日本情報軍特殊作戦部隊の下士官の助言の下、再び発砲する。サプレッサーを使用しているものの、50口径のライフル弾が放たれる音は完全には消せない。だが、問題はない。この日のための近くで水道に関する道路工事が行われているのである。


 銃声は工事の音に紛れる。


 再び放たれた銃弾も結界に阻まれた。だが、凛之助は慌てて身を隠そうとしている。


「無駄なことを。コンクリートごと撃ち抜け」


「了解」


 今回使用されている12.7x99ミリNATO弾は特に特別なもので、ブラックチップ弾と呼ばれるタングステンを使用した銃弾であることに加え、炸薬がより強力なものに変えられている。強力な炸薬は対物ライフルの寿命を削ることになるが、それよりも目標を撃破することが最優先であった。


 この弾丸ならばコンクリートすら余裕で貫ける。


 アリスは狙撃を継続する。


 アリスたちの姿は第4世代の熱光学迷彩によって隠されてるが、どうしても銃身だけは露出させざるを得ない。


 だが、この程度のカバーでも意外とバレないものだ。


 通常の場合ならば。


『リンちゃん! 大丈夫!?』


「大丈夫だ。それより遠方から狙われている。狙撃だ。どう対処したらいいだろうか」


『分かった。雪風、出番だよ!』


 夏妃の言葉で雪風のアバターが凛之助のスマートフォンに現れる。


『凛之助様。弾道計算を行いまずので、銃声を録音してください。それからカメラ機能も利用可能なように』


「分かった」


 凛之助は雪風の言う通りに録音とカメラ機能をオンにする。


 そして、次の狙撃が襲い掛かった。


「クソ。まだ魔力の出力が不安定だ。体をもっと鍛えておくべきだった」


『弾道計算完了。狙撃手の位置を割り出しました』


「本当か?」


『はい。マスターが既に妨害に動いています』


 夏妃任せとは情けないが、今のところ凛之助は長射程を誇る対物ライフルへの反撃手段を有していない。それどころが、防御能力すらも次第にすり減りつつある。


『マスターは30秒後に攻撃を開始します。30セカンド、20セカンド、10セカンド、3セカンド、2、1、今』


 この時アリスたちの頭上を飛行していた大型宅配ドローンが冷蔵庫の入った箱をアリスたちに向けて投下した。スポッターの下士官が呻き声を上げ、アリスもバランスを崩す。狙撃は一時的にだが、行えなくなった。


『逃げるなら今だよ、リンちゃん!』


「分かった。逃げさせてもらう」


 アリスが狙撃を行えなくなった隙を狙って凛之助は逃亡する。


 敵に背中を見せることは恥ではない。撤退も戦略、戦術のひとつだ。そして、撤退の腕前こそが予備兵力の投入のタイミングと並んで名将を名将たらしめる要素なのである。


 そう、軍で最も損害が発生するのは戦闘時ではなく、退却時なのだ。上手く重装備や兵員を脱出させられる司令官はそれゆえに名将なのだ。


 だが、今の凛之助はただ逃げるだけだ。


 あの煙を巻く装置があればいいがと凛之助は思ったものの、普通のスモークグレネードでは赤外線モードに照準を切り替えることによって狙い撃ちにされる。高度な軍用のスモークグレネードならばレーザー誘導から赤外線センサーまで潰せる。


 だが、そんなものが一般人に手に入るはずがない。


 凛之助は遮蔽物に隠れながら、必死に逃走した。


『こちら司令部。作戦はどうなった?』


「失敗です。負傷者1名。目標は所在不明」


『了解。救護と交代要員を送る。見張り続けろ。何かしらの戦果が得られるかもしれない。他の勇者でも殺せれば御の字だ』


「了解」


 アリスが土佐大佐に連絡してから救護部隊がやってきて負傷した下士官を回収し、代わりの下士官が配置につく。双眼鏡を覗き込み、獲物が近づくのを待つ。


「クソ。なかなか引っかからないな」


「ええ」


 今回の狩りは長くなるだろうとアリスは思った。


……………………

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