情報テロリスト
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──情報テロリスト
「日本情報軍も技術は高度なのにやることがワンパターン。あんなの軍の教本に載っているままの監視体制じゃない。それも、やっぱり生体認証スキャナーと街頭監視カメラ頼り。そんなの簡単に潰せるっての。マヘル、予定通り実行して」
『アイ、マム』
ハスキーな女性の声とともにスマートフォンから電子音声がする。
それと同時に電子攻撃が吹き荒れた。
民間警備企業の生体認証スキャナーと街頭監視カメラのサーバーがダウン。同時に日本情報軍の監視部隊が大規模EMP攻撃を受ける。日本情報軍の監視部隊の監視装置もドローンも一斉に落ちた。
「どうなっている?」
日本情報軍のデジタル迷彩の戦闘服を纏い、その上から第4世代の熱光学迷彩を纏い、ドイツ製の選抜射手ライフルと双眼鏡を装備した兵士と、イギリス製の狙撃銃を装備した兵士のうち、選抜射手ライフルを装備した兵士が尋ねる。
「やられました。宅配ドローンの中にEMP発生装置が搭載されていたようです。民間警備企業のサーバーもダウン。監視システムは機能不全です」
「スタンドアローン態勢に移行。警戒監視を継続せよ。敵は間違いなく仕掛けて──」
次の瞬間、日本情報軍の監視部隊に水素燃料を輸送中だったドローンが突っ込んだ。水素燃料が衝突の際のドローンの火花で爆発し、2名の監視部隊が倒れる。
「上等だ、マヘル」
『期待に沿えて光栄です、マム』
止めてあった自動車から女性が下りる。
「どれくらい現状を維持できる?」
『30分が限界かと』
「結構。30分以内に終わらせよう」
ハスキーな声をした女性は半地下のバーに入っていく。
バーの中には明らかにガラの悪そうな男たちが10名ほど屯していた。
「ハロー。皆さん。魔王の召喚を手伝ったんだって?」
「なんだ、お前? ここがどこか分かってるのか?」
「知ってるよ。ヤクザにもなれず、かといって真っ当な一般人にもなれない半端者の集まりだろ? パーティーでもしてたのかい?」
20歳前後の女性は薄ら笑いを浮かべてそう言った。
「てめえ……!」
「跪け」
次の瞬間、女性はサプレッサーが装着された自動拳銃で自分に向かってきた男の膝を撃ち抜いていた。
「ああ! 畜生! てめえ、何者だ!」
「お姉さんはちょっと過激な政治運動家ってところから。言い方を変えると──」
女性が裏口から逃げようとした男の頭を背後から撃ち抜く。
「テロリスト」
女性がナイフを抜こうとした男の腕を撃ち抜く。
「テ、テロリスト……? この日本にそんなものがいるはずが……」
「じゃあ、君たちを襲ってるお姉さんは何者なんでしょう? ちょっとサプレッサー付きの自動拳銃を持った通りすがりの一般市民? それとも金のなさそうな連中を専門で襲っている強盗犯?」
男のもう片方の膝を容赦なく女性は撃ち抜いた。
「畜生! 畜生! ただの犯罪者だろ!」
「犯罪者ってのはね。人間全てを差して人っていうようなものなんだよ。人には男もいるし、女もいるし、子供もいるし、老人もいる。犯罪者というカテゴリーであんたらと一緒に括られるのは気に入らないねえ」
女性がしゃがみこんで男の顔を見る。
「あたしは政治的信条に基づき、違法行為に手を染めているだけ。あたしを犯罪者だと指定するその法律そのものが間違っているとあたしは思っているよ。今の堅苦しい国民総監視社会なんてクソくらえだってね」
そう言いながら女性はランダムに選んだ男を射殺する。
「な、何が狙いだ……?」
「情報。情報を寄越しな。あんたたちが儀式的殺人を行った人間について」
「ぎ、儀式的殺人? なんだよ、それ──」
今度は男の肩が撃ち抜かれる。
「ああ! ああ! 殺しならやった! 少し前だ! ガキを殺した!」
「名前は? 写真は残ってる?」
「写真は消えちまった。いきなりスマホから消えたんだ。俺たちに指示した人間とのやりとりも全部消えちまった」
「ふうん。まあ、ありそうな話だ」
女性はさして驚いた様子もなく、そう呟く。
「で、名前は?」
「た、確か、臥龍岡凛之助とかいう……」
「ん? その臥龍岡って難しい読み方する漢字の?」
「そう。最初はなんて読むのか分からなかった」
「へえ。偶然ってのはあるもんだね」
女性は興味深そうにそう呟いた。
「となると、だ。日本情報軍に匹敵するかそれ以上に面倒な相手ができるわけだが。今度はあたしのゲームについてきてくれるかな、夏妃ちゃんは?」
女性はさらりと夏妃の名を口にした。
「お、俺たちの知っている情報はこれだけだ。依頼主については知らされていない。ただ、現金で5000万渡された。それで仕事を引き受けた。それだけなんだ。あんたが何のテロリストかは知らないし、知ろうともしない。だから、助け──」
男の頭に銃弾が叩き込まれた。
「あたしの崇高な抵抗運動を知ろうとしないとは。全ての日本国民のために、全ての世界の人間のために、あたしは戦っているんだ。知れ。あたしが何故戦っているのかを。あたしはこの日本情報軍が作り上げた国民総監視社会を破壊するために活動している──」
女性が怒りを込めて告げる。
「情報テロリストだ」
女性は高らかとそう宣言した。
「正確には情報解放の戦士とでも言うべきだろうねえ。まあ、あたしの崇高な抵抗運動を理解することはあんたらのような半端者には無理だろうけどね。所詮は日本情報軍の使い走りをする程度の価値しかないんだよ」
国民総監視社会の悪夢を終わらせるなんてことはあんたらには理解できないだろうさ、と女性は嘲るように言った。
「日本情報軍の靴でも舐めてな。何をしようと無駄だからね」
女性はそう言うと銃口を向けたままバーから出ていった。
「ん。宅配ドローン、じゃないね。日本情報軍のドローンはさっきのEMPで全部潰した。となると、夏妃ちゃんか。やるねえ。EMP対策済みドローン。それも宅配ドローンのIDで飛行させてるなんて」
けどね、と女性は告げる。
「夏妃ちゃんはこっちに来てくれなかった。夏妃ちゃんは今の支配体制に抗うのを止めた。今頃になって、物事をやり直そうなんてのは、ちょっと甘いんじゃないかな? いくら弟さんが大事でも、大義がないでしょう?」
女性はドローンを銃撃して撃墜する。
「マヘル。さっきのドローンの操作元の検索は?」
『不可能です。軍用防壁並みのセキュリティにぶつかりました』
「雪風か。あの子の方が未だに賢いのかね」
女性がため息を吐く。
「だけどね。今回のあたしはローンウルフ型テロリストじゃないんだ。確かなバックを持っている。夏妃ちゃんと弟さんはそれに対抗できるかな? 言っておくけど、あたしの勇者としての能力は──イカれているよ」
そう言って彼女は去った。
情報セキュリティ会社爆破事件。連続生体認証スキャナー爆破事件。民間警備企業サイバーセキュリティ担当者殺害事件。
それらに関わる“情報テロリスト”は自動車に乗って去っていった。
「さあ、夏妃ちゃん。勝負だ」
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