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ハンティング

……………………


 ──ハンティング



 アリスはかなりの自由裁量とバックアップが与えられた状態で行動し始めた。


 日本情報軍はアリスが街中で銃撃戦を繰り広げようと揉み消すだろうし、事実一度は揉み消してる。だが、騒ぎが起きるのは望ましいことではない。少なくとも今の、誰が勇者で、誰が魔王なのかもはっきりしていない状況では。


 情報が必要だった。少なくとも凛之助が魔王であるかどうかを確定させたい。


 アリスは奥村探偵事務所に向かう。


 依頼は継続中だった。


 央樹はアリスの作った架空の住所の周りを調べている。凛之助の姿は見えない。


 これまでの事件解決率の高さの原因は凛之助にあると日本情報軍は考えている。特異な力が行使され、その結果として高い事件解決率が維持できたのだと。日本情報軍第401統合特殊任務部隊(JSTF)の分析官はそう判断している。


 日本情報軍の上層部としても同じ考えらしく、央樹から凛之助の居場所を聞き出すようにとアリスを急かしている。土佐大佐も急かされている。


 拷問しても構わないとまで言われているが、そのためには拉致しなければならないし、日本国外ならともかく、日本国内でその手の無茶をやるのはリスクが大きい。


 それが理解できないほどに上は焦っているということなのだろう。


 上の焦りは現場のアリスたちには通用しないし、アリスたちの直接のボスである詳細不明の日本情報軍少将はそこまでことを急いでいない。慎重に、外科出術のような正確さを以てして、獲物を追い詰めることを求めていた。


 とはいっても、それも土佐大佐から聞いた話だが。


 アリスの存在は日本情報軍内でもアクセスできる人間が非常に限られている。大勢には知らせない。情報管理の鉄則が徹底されている。アリスの存在は秘匿されてなければならないという明確な意志があった。


 アリスは奥村探偵事務所のチャイムを鳴らす。


『はい、奥村探偵事務所』


「天沢アリスです。依頼の件でお話が」


『どうぞ』


 ここでは声紋認証が行われていることをアリスは知っていた。


 依頼人を騙って中に入り込み、関連データを盗み出そうとする人間を阻止するためだということも分かってる。だが、こうもあちこちに生体認証スキャナーが設置されているのでは、市民の自由などあってないようなものだ。


 それでも日本情報軍は自由民主主義を守るためだと言い張る。


 滑稽な話だとアリスは思っていた。アリスの脳に“皮肉.exe”というファイルがあればそれが作動していただろう。


 日本情報軍は守るべきもののために、守るべきものを犠牲にさせているのだ。


 いや、今の日本全体がそうなのか。


 国民総監視社会。国家という名の監獄。日本情報軍情報保安部という名の秘密警察。


 かつての歴史では忌み嫌われたものが対テロ、犯罪対策の名の下に正当化され、現代に復活している。それもかつてより高度なテクノロジーを用いて。生体認証スキャナーがない都市などないし、街頭監視カメラのない都市などない。


 日本情報軍は手に入る限りのあらゆる情報を分析AIに分析させ、自分たちが守るべき国民がいつ、どのような通信を行い、それがテロ行為へと結びつかないか監視している。そして、そのような日本情報軍の活動に否定的な団体や個人は徹底的に叩き潰してきた。


 この国には自由も民主主義も形だけしか存在しない。


「失礼します」


 アリスの演算量は膨大だ。アリスのプロセッサと記録領域は人間に近づけるために人間の脳を参考にしているが、その容量も、演算能力も、正確さも人間とは比べ物にならない。スーパーコンピューターとまでは言わないまでも、アリスにはアリスにしかできないことがある。


「こんにちは、奥村さん」


 人間のR(レプリカ)として振る舞うこと。


「こんにちは、天沢さん。あれから被害はどうですか?」


「減ってはいるようなのですが、完全になくなったようではなくて」


「こう言っては何ですが、早期に警察に相談に行かれた方がいいと思います。この事務所には法的手続きを行う権限はありませんから。早期に警察に行かれた方が、被害が未然に防ぐことができるかと思います」


 央樹では演技ではなく、本当にアリスを心配してそう言っているようだった。


 つまり、凛之助からは何も聞かされていないということを意味する。


 央樹から凛之助を辿るのは難しいかとアリスは見当をつけた。


「ありがとうございます。ところで、以前ここで働かれていた方は?」


「ああ。臥龍岡君ですか。彼は休職中です。何か理由があるみたいですけど、その理由までは知らされていないのでなんとも」


 警察は嘘を吐く能力に長けた人間を刑事にするというが、央樹も元刑事だ。


 今のところ、央樹の様子からは嘘を言っている気配はない。尋問の技術については日本情報軍でしっかりと教わっている。アリスは視線や唇、その他の体動で嘘を見抜く術を叩き込まれているが、央樹は凛之助について本当に何も知らないようだった。


 となると、彼の姉を探さなければならないなとアリスは思う。


「それでは失礼します。この度はお世話になりました」


「いえいえ。お力になれず申し訳ない」


 央樹は本気でそう言っているようだった。


 彼をこれ以上探ることに意味を感じないとアリスは判断した。


 リソースは限られている。日本情報軍も、日本情報軍第401統合特殊任務部隊(JSTF)も、アリス自身も。限られたリソースの中で目標を追わなければならないのだ。余計なことに首を突っ込んでいる余裕はない。


 アリスは奥村探偵事務所を出ると、凛之助の自宅に向かう。


 凛之助の自宅は既に清掃業者を装った日本情報軍の特殊作戦部隊が突入して調べ終えている。彼らが見落とした点はないかをアリスは探ることになる。


 鍵は開いていた。


 ドアノブを捻り、中に入る。


 凛之助の自宅は広々とした部屋だった。姉の収入だけで食べていたはずだが、これだけセキュリティが整い、そして居住性も問題のないマンションで生活できていたというのは、姉の収入はアリスが想像していたより多いらしい。


 それだけ技術力もあったということではないかとアリスは思うが、日本情報軍の分析官は単なる在宅プログラマーで中程度の技術力と判断した。


 まさか自分を生み出した理論を作った人間が、夏妃であるとはアリスは思っても見なかった。南島博士の研究記録は全て日本情報軍によって押収され、封印されている。誰も中身を解析しようともしないし、できない。


 日本情報軍は専門知識のある人間にアリスの情報を解読させて、進行中の作戦──クラウン作戦に支障がでることを恐れているのである。


「デスクトップパソコンは完全に破壊されている。テルミットでも使った?」


 日本情報軍は放置されていた夏妃のデスクトップパソコンから何の情報も持ち出せんかった。夏妃はこういうときのために用意しておいた手製のテルミット──焼夷手榴弾を使ってパソコンのハードウェアを完全に破壊していたのだ。


「電子情報からは辿れない、か。長い狩りになりそう」


 既に夏妃や凛之助のSNSは電子情報軍団が調査しているが、行方をくらました日からぷつりと糸が途絶えている。流石に潜伏している状態で暢気にSNSをやるような間抜けではないということだ。


「だが、どこかに追うべき目標があるはず」


……………………

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