敵の固有能力の解析
本日2回目の更新です。
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──敵の固有能力の解析
あれから凛之助はセーフハウスに帰還し、夏妃と今後の作戦ついて話し合っていた。
「敵の固有能力は何かしらの武器を生み出すものらしい。この世界には銃という武器があることは知っているが、あれは事前に準備されたものではなく、明らかに固有能力で生み出されたものだった」
「お姉ちゃんも確認してるよ。いきなり銃が現れたのは。この子が使ったスモークグレネードだって武器の範疇に入っているのかも」
夏妃はドローンが撮影した映像を解析している。
アリスの右手の甲が光ったと同時にどこからともなくサブコンパクトモデルのカービン銃が現れる。既に夏妃は具体的な装備の名称やスペックについても調べていた。凛之助にはよく分からなかったが、それは日本情報軍が使用する銃と同じものらしい。
「この銃、確かに日本情報軍が使用するものだけどね。これは特殊作戦仕様だって。私もこういうことには詳しくないから雪風に分析を任せてるけど、これの手の銃とそのアタッチメントを装備しているのは日本情報軍の中でも特殊作戦部隊だけだって」
「特殊作戦部隊とは?」
「うーんとね。テロリストを少人数の部隊で襲撃して暗殺したり、特殊な情報収集活動に従事したりと、少人数でありながら大きな戦果を上げる部隊を指す、でいいのかな。どう思う、雪風?」
夏妃が雪風に尋ねる。
『概ね間違いありません。日本情報軍の場合、暗殺、人的情報収集、破壊工作、内乱の扇動などに従事していると言われています』
「サンキュー、雪風」
夏妃がモニターに付いたカメラに向けてサムズアップする。
「勇者たちもある意味ではそうだったな。もっとも、勇者たちの出身国である国の騎士団などが露払いをしていたが。そのものたちも一度勇者が魔王を討ちとれば、殺し合いに参加だ。全く以て不毛な戦いだった」
「だけど、今回は私がリンちゃんを勝たせるよ。勇者って条件あるの?」
「30歳以下の人間。そこからランダムに選ばれる。そのはずだ」
「ちょっと該当者が多すぎるね」
夏妃はそう言いながら、何度もアリスとの戦闘シーンを再生している。
「やっぱりおかしい。この子、見えないはずの攻撃を避けてる」
「空気の流れを読んだのだろう。不思議なことではない」
「それはリンちゃんの世界には魔法があるからそういうことも可能かもしれないけど、普通の人間にそういうことはできないからね?」
夏妃は画像を雪風に解析させる。特にアリスの瞳について細かい解析を行っていた。
「雪風。眼球の動きを義眼の動きと比較して」
『96%の割合で、軍用義眼の動きと一致しています。残り4%は軍用義眼の世代進化によってデータ不足のためと推測します』
「この歳で軍用義眼、か」
夏妃が唸る。
「そもそもおかしいんだよね。日本情報軍がどうして彼女を前線に投入しているのか。話を聞く限り、魔王が倒されれば、後は勇者同士で決着を付けるだけなんでしょ?」
「ああ。その通りだ。だが、魔王が強力であるために勇者が戦ってきた」
「だけど、今回の相手は日本情報軍。そんじょそこらのチンピラとは全く異なる相手。軍隊だよ、軍隊。彼らの装備を考えれば、考えるほど、どうしてこの子が勇者の刻印を持っているからという理由で戦うのかが理解できない」
「もしかすると、彼らはルールを理解していないのかもしれない」
「ん? ああ。確かに日本情報軍が魔王を巡る戦争の全てを知っていると考えるのは早計だったね。日本情報軍はこれまで魔王を倒せば願い叶う仕組みについて完全に理解しているという前提で考えてた。だけど、彼らが部分的にしか情報を持っていなければ」
そうなれば、勇者が魔王を殺さないといけないと思い込んでいるかもと夏妃は言った。確かにその通りだ。日本情報軍は魔王を巡る戦争について断片的な情報しか手に入れていないのである。
「この世界に魔法は存在しなかったし、魔王と勇者の戦いについても存在しなかった。だが、彼らは知っていた。どこかで情報を得たはずだ。だが、それがどこなのか。そして、その何者かが日本情報軍に協力しているのか」
「そこだね。この国にも勇者と魔王の物語はあるけど、全てフィクション。本当のことだと思っている人間はいない。だが、この地球の誰かが、勇者と魔王の関係について知っていた。それが日本情報軍の情報ソースになっている」
だけど、そんなおとぎ話めいた話を信じてる人たちなんているかなあと夏妃が言う。
「とりあえず、それっぽい話をしている人を検索しておこう。雪風、タスク。魔王と勇者の関係に関することに言及しているネットワーク上のデータを探して。ただし、フィクションと明白に取れる話は除外」
『了解しました、マスター』
雪風が早速検索を始める。
「しかし、義眼の少女か。それもかなりの運動神経を持っている。ただの人かな? 特殊作戦部隊としては非常識なほどに若すぎる」
若い軍人が特殊作戦部隊に配属されるはずはないし、それどころか軍に入隊できるかすらも怪しいしと夏妃は愚痴る。
「この手の技術を会得するにはどれほどの時間が必要なのだ?」
「雪風、特殊作戦部隊の兵士の育成時間」
夏妃が雪風に問いかける。
『半年から1年で訓練終了。実戦配備になるのはその後すぐですが、日本情報軍の場合養成に1年以上かけています』
「つまり、リンちゃんがこの世にあらわれる前から準備をしてきたってことか」
夏妃がどうも納得いかないところがあって、首をひねる。
「相手は最初からアリスを勇者にするつもりだった。その可能性がある」
「待って。けど、勇者ってランダムに選ばれるんでしょう?」
「勇者の刻印は奪うことができる。手の甲から手の甲に移せる。──死体からでも」
「なるほどねえ。それで日本情報軍は事前に訓練を施したアリスちゃんを勇者にすることができたってわけだ」
「おかしいのはどうして他の屈強な戦士ではなく、アリスという少女を選んだのか、だろうな。こればかりはどう考えてもおかしい」
「確かに変だよ。勇者にするならもっと経験豊富な兵士を選ぶはず」
何故だろうと夏妃は首を傾げる。
「謎は多いがやることはシンプルだ。アリスを倒し、他の勇者たちも倒す。そうしてこの戦争に勝利する。それがやるべきことだ」
「そうだね。やることは決まってる。お姉ちゃんもできることをするよ」
「だが、慎重に動かなければ。今回の件でこの街の官憲たちが騒がしくなっただろう」
「民間警備企業。そう、彼らの活動も活発化してる。一筋縄ではいかないかも」
今はまだ偽装IDが使えているが、そのうち不審に思い出すかもしれない。生体認証スキャナーは騙せるが、人間を騙すのは難しい。凛之助の洗脳魔法で一時的に記憶を操作して、追い払えるかもしれないが、本格的な取り締まりが始まると難しい。
「今は情報収集に専念しておこう。そのうち奥村さんとも合流したいし」
「奥村さんを巻き込むのは……」
「きっと進んで協力してくれるよ。正義感のある人だから」
「そうなのか」
「そうなのです」
協力者は多いほどいいが、凛之助には奥村を巻き込むのは本当に正しいことだろうかという思いもあった。
だが、現状夏妃以外にも動ける仲間は欲しい。
そうでなければ日本情報軍には対抗できない。
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