海宮市市街地戦
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──海宮市市街地戦
強化外骨格を装備した歩兵に援護され、指揮車に操作される30式無人戦車が無限軌道の音を響かせて、市街地のあちこちを捜索していく。既に日本陸軍は日本国内で対テロ掃討作戦を実行するつもりで、部隊を動かしていた。
実際にテロは起きていたのだ。
海宮市シティビルは爆破され、メティスのコンテナターミナルでも爆発が起きた。
軍が介入するには十二分すぎるほどの理由が揃っていたのだ。
しかも、まだ敵はアーマードスーツで武装しているという。
歩兵たちは周囲を念入りに探り、無人戦車はいつでも援護に当たれるように準備をしておく。市街地戦は比較的泥沼になりやすいが、ここは勝手知ったる日本の領土だ。
だが、それでも問題は泥沼化しつつあった。
「レーザー照射を受けている! 対戦車ミサイルに警戒!」
無人戦車のアクティブ防護システムが作動し、レーザー照射を行っている目標に狙いが定められる、目標は対戦車ミサイルで、一発目が突入しようとしていた。
無人戦車はアクティブ防護システムで1発目のミサイルを迎撃する。だが、すぐに2発目が突入しようとしていた。アクティブ防護システムが間に合わない。
そして、無人戦車のうち1両が吹き飛ばされる。爆発炎上し、無人戦車は行動不能になった。だが、他の無人戦車が対戦車ミサイルの発射場所を特定して、一斉に砲撃する。
重々しい発砲音から建物の構造物が崩壊するまでの様子が無人戦車の指揮車両に映し出される。
崩壊した建物中にはアーマードスーツ“ヴィルトカッツェ”が映っていた。
「敵アーマードスーツ、撃破」
『了解。引き続き、警戒を密にせよ』
主にアーマードスーツからの攻撃が脅威だった。ロケットポッドを対戦車ミサイルに変えたそれが、次々に攻撃を放ってくる。無人戦車は複数でそれを迎撃しながらも、確実に敵アーマードスーツを撃破して行っていた。
だが、一体鏡花は何体のアーマードスーツを持ち込んだのだろうか。次々に襲来するアーマードスーツを撃破していく度に、やがて民間人への付随的損害も発生し始めていた。アーマードスーツを撃破する際の対戦車榴弾が周囲に被害を及ぼすのだ。
日本陸軍の兵士は完全にアーマードスーツが破壊されてから救助にはいっており、今のところ死者はいない。だが、死者が出るのは時間の問題だと思われていた。
現場の焦りが司令部に伝わる。
「まだテロリストは見つからないのか。いや、アーマードスーツをゴーストモードで動かしている時点で、テロリストは仕留めているはずだ。どうなっている」
司令部で日本陸軍中将が唸ってた。
「何もテロリストがひとりだと決まってるわけではありません」
「君はテロリストの規模に心当たりが?」
「完全に、というわけではありませんが、ある程度は。敵も無尽蔵ではありませんし、このまま戦闘を進めていけば底が見えるでしょう」
「だといいのだが。日本国の軍隊が日本人を傷つけるなど本来あってはならないことだ。このような馬鹿騒ぎが早急に終わりにしたい」
日本陸軍中将はどこからどこまでがクリアになったという地図を見る。
海宮市は着実に解放されて行っている。日本の都市を解放というのもおかしな話だが、現状ではそう表現するしかない。
テロリストを掃討し、海宮市奪還に向けて少しずつ駒を進めて行っている。
これまで無人戦車6両とアーマードスーツ12体、装甲車4両、歩兵18名が失われている。彼らの犠牲を無駄にしないためにも奪還を成功させなければ。
「閣下。ドローンが京極鏡花らしき人物を捕捉」
「本当か?」
「はい。外見的特徴は一致します」
「どうにかして生体情報が照合できるといいのだが……」
日本陸軍中将が悩みながらも映像を見る。
それは確かに京極鏡花そっくりの人物だった。
「攻撃を。攻撃して見れば分かることです」
「何が分かるというのだ。無実の一般市民であったらどうする」
「いいので攻撃を。確かめましょう」
「無茶苦茶だ」
そう言いながらも日本陸軍中将は攻撃に同意した。
ドローンから小型の対戦車ミサイルが発射され、鏡花と外見的特徴が一致した人物が吹き飛び。将軍たちはその様子を見つめていた。
「後は臥龍岡凛之助だけだな」
「ええ。彼を始末しましょう」
日本情報軍少将は何でもないというようにそう言った。
「しかし、陸軍の損害は大きすぎる。これ以上、同様の抵抗にあうのであれば、一時再編のために引き上げさせざるを得ない」
「分かりました。どうぞ、お好きなように」
「ああ。好きにさせてもらうとも。君たちの部隊を代わりに投入する」
日本情報軍少将の眉が少し動いた。
「異論はないだろう。好きにしろと言ったのだ。好きにさせてもらう」
「ご命令のままに。こちらの実働部隊を動かしましょう」
そして、第401統合特殊任務部隊に命令が下った。
臥龍岡凛之助抹殺命令。
「結局はこうなってしまうのですね」
「それが勇者と魔王というものの関係だ」
アリスの眼前には凛之助が立っていた。
「残念です」
「私もだ」
アリスが銃を構え、凛之助が魔力を固めた砲弾を形成する。
ふたりが一斉に攻撃を放った時──。
アリスの体が吹き飛んだ。
「なっ……」
凛之助の攻撃ではない。
日本情報軍の32式強襲重装殻“屠龍”の射撃によるものだ。
アリスの右腕がもげ、彼女の体が崩れ落ちる。
「このっ……! ウジ虫どもめ!」
凛之助は魔力を固めた砲弾を“屠龍”に向けて放ち。屠龍が吹き飛ばされる。だが、屠龍は次々に現れて凛之助を包囲しようとする。
凛之助は辛うじてアリスの体だけを回収すると物陰に隠れた。
「そこまでだな、臥龍岡凛之助」
声が響く。土佐大佐の声だ。
「大佐……。何故……」
「分からないのか? 我々が本当にお前を人間にするためだけに戦争を進めてきたと思っているのか? おめでたいな。我々は崇高な使命がある。勇者が魔王を倒し、願いを叶える戦争で、日本情報軍による体制を永遠のものとする使命が」
土佐大佐は続ける。
「日本情報軍が存在する限り日本国は不滅だ。日本情報軍の永続こそ、日本国の永続。我々にはそれを叶える崇高な使命がある。そのためには……君にも犠牲になってもらおう、天沢アリス。人間の出来損ない」
アリスはそれを聞いて衝撃を受けていた。
日本情報軍は他の誰かの願いを叶えないために戦っていたのではないのかと。どうしてこんなことになったのだろうかと。
「勇者としての刻印を私の腕に──」
土佐大佐がそう言ってアリスの勇者の刻印を奪いそうになった時、それは起きた。
ずっと隠されていた最悪の罠が発動したのだ。
誰も予想できずに潜り込んでいた罠が、発動した。
「なっ……!」
土佐大佐の眼前に広がったのは信じられない光景であった。
“屠龍”が、日本情報軍の有するアーマードスーツが、一斉に武装解除したのである。ロケットポッドも放棄され、50口径重機関銃もパージされ、40ミリ自動擲弾銃もパージされた。そして、完全な丸腰になった。
『リンちゃん! 作戦成功だよ!』
そう、夏妃がやってのけたのだ。
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