捜索と追跡
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──捜索と追跡
賢人の捜索が始まった。
夏妃は全ての生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像を分析にかけ、偽装IDを使って逃亡をは勝っている賢人の行方を捜索している。
「いたいた。雪風、ナビゲーション!」
『畏まりました』
そして、夏妃の探知情報に従って、『雪風』がナビゲーションを行う。
それによって凛之助たちが賢人の下へと誘導されれて行く。
だが、ここで夏妃はあることに気づいた。
同じように賢人を探している生体認証スキャナーと街頭監視カメラが賢人が通過していくごとに停止していくのである。まるで別の誰かが賢人を探しているかのようにして。まるで別の誰かが賢人を追跡しているかのようにして。
「まさか……鏡花……?」
そう、リアルタイムハックで周囲の生体認証スキャナーと街頭監視カメラを停止させながら、賢人を追いかけているのは鏡花だった。
「リンちゃん! そっちに鏡花も向かっている! 鏡花の方が早いかもしれない!」
『分かった、夏姉。善処する』
凛之助たちは速度を上げて賢人を追いかける。
凛之助たちは賢人に迫る。その隙に夏妃はドローンで生体認証スキャナーと街頭監視カメラを停止させているのが本当に鏡花なのかを確認しようとする。
ドローンは勢いよく飛び出し、目標──生体認証スキャナーと街頭監視カメラを停止させながら進んでいる、恐らくは車両を追う。
ドローンが道路を走行中の車のIDを読み込んでいく。
「ベータ・セキュリティの登録車両。当たりかな」
外国企業の車両が通過するのに、ドローンが瞬時に車両内を撮影する。
「やっぱり鏡花だ。当たりか。リンちゃんたちには急いでもらわないと」
車内にはタブレット端末を操作する鏡花の姿が映っていた。
それからも追跡は続く。
賢人は逃げ続けている。鏡花は生体認証スキャナーと街頭監視カメラで夏妃と同じようにそれを追っているのか、的確に賢人を追い込んでいっている。
賢人はただの人間だ。アンドロイドでもフィジカルブーストが使える魔王でもない。
次第にその速度は落ちていき、賢人に対して凛之助、アリス、鏡花が迫る。
そして、もう少しという距離で──。
「リンちゃん! 鏡花が賢人に追いついた!」
あともう少しという距離で鏡花が賢人を押さえた。
「見えている!」
凛之助たちも賢人を把握した。彼は後ろ手に縛られ、ステーションワゴンに放り込まれるところだった。鏡花の姿も見える。
鏡花の姿が見えるやアリスがサプレッサー付きの自動小銃を生み出し、射撃する。
鏡花はそれをひらりと交わし、ステーションワゴンに乗り込むと走り去った。
「鏡花を逃がすわけにはいかない」
「ええ。どうしますか?」
「過去視で追いかける」
凛之助は過去視でステーションワゴンが通過していった道を捜索し、追跡を始める。
ステーションワゴンは全力で逃げ去ったようだが、その程度で獲物を逃がすほど凛之助は軟なハンターではない。獲物の行動を過去に渡って追跡し続け、その行く先を突き止めようとする。
アリスを引き連れ、凛之助は鏡花と賢人を追った。
そして、気づけば、港のコンテナターミナルに到着していた。
その一角にメティスの保有するコンテナ保管庫があった。
凛之助はここに鏡花たちがやってきたことを確信した。
「この巨大な箱がある場所が連中のアジトだ。鏡花と賢人も間違いなくここにいる」
「始末しましょう」
アリスが自動小銃を手にそういう。
「ああ。忌まわしい死霊術師もこれで終わりだ」
「そして、私たちは敵同士に戻る」
「そうなるな。鏡花と賢人が死ねば、残る勇者はお前だけだ」
気まずい沈黙が流れる。
「とにかくやりましょう。鏡花は殺さなければなりません」
「ああ。そうだな」
凛之助たちは鏡花の後を追い、コンテナターミナルを進む。
「もう少しだ」
「了解」
これが終わればアリスと凛之助は殺し合う関係に戻る。
だが、その前に鏡花がアーマードスーツを再び持ち出すかもしれない。
その際はアリスを頼ることになる。
「あと少し」
コンテナターミナルの管理棟に凛之助たちは行きつく。
「ここだ。開けるぞ」
「大丈夫」
凛之助が扉を開き、アリスが室内に銃口を巡らせる。
そこには縛り上げられた賢人の姿があった。
大量のプラスチック爆弾と一緒に。
「!? 逃げて!」
アリスが凛之助遠くに突き飛ばす。
次の瞬間、管理棟が爆炎を立てて爆発し、賢人も死亡する。
「大丈夫か、アリス?」
「大丈夫……。だけど、鏡花はどこに?」
「逃げたようだ。再び車に乗ってどこかに走り去っている」
凛之助は現場を過去視してそういう。
「追跡を続けますか?」
「続けたいが、賢人が死亡した以上、鏡花が向かう先が分からない。次もこの手の罠が仕掛けられていた場合、今度は危ないかもしれない。私は誓ったんだ。夏姉のためにも生き残ると言うことを」
「そうですか……」
ウィンターミュートの思い。夏妃を傷つけないでくれという思い。
だが、アリスは人間になりたい。
「罠に気を付けながら追うしかないのだろう。追跡を続けよう。今は追い続けることぐらいしかできることはない」
「そうですね。追い続けましょう」
凛之助たちは再び鏡花を追い続ける。
鏡花を倒さなければという同じ思いから凛之助とアリスは駆ける。
そして、過去視でとらえた映像を元に鏡花の乗ったはずのステーションワゴンを追いかけていたときだ。夏妃から連絡が入る。
『リンちゃん! その車に鏡花は乗ってないよ! 鏡花はどこかで降りてる!』
「ああ。そうか。今の鏡花には大河の能力があるんだったな……!」
凛之助たちより先回りした夏妃のドローンが車内を確認したが、そこに鏡花の姿はなかった。消えてしまっていた。
そして、そこでアリスが立ち止まる。
「どうした、天沢アリス?」
「もう一緒に行動できない」
「どういうことだ」
凛之助が怪訝そうに尋ねる。
「戒厳令が布告された。海宮市は軍の管轄下におかれる。私は軍に戻らなくてはいけない。既に日本陸軍の部隊が展開を開始している」
「戒厳令だと……」
凛之助の表情が驚きに歪んた。
『待って。アリスちゃん。伝えておきたいことがあるの』
「なんですか?」
『これを頭に叩き込んで。1文字も漏らすことなく』
「……はい」
そして、何かの電子音が響く。
「今のは……」
『いざというときアリスちゃんを助けられる魔法の言葉。しっかり覚えておいて。決して忘れないように。私は助けになれると思うから』
「分かりました」
アリスは頷いた。
「それではここで別れだな。ともに行動できて光栄だった」
「私も。一緒に行動できてよかった。また今度」
「ああ。また今度」
今度会う時は鏡花が死に、アリスが凛之助を殺すときだろう。
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