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アリスを呼ぶ

……………………


 ──アリスを呼ぶ



 アリスを呼ぶと聞いて夏妃は頭を抱えた。


 アリスは日本情報軍の部隊と行動を共にしている。


 アリスにだけ連絡を取る手段があるだろうか、と。


 凛之助はアリスとの共同戦線を望んでいるが、日本情報軍との共同戦線を望んでいるわけではないのだ。どうにかして、アリスだけに連絡を取らなければならない。そして、アリスから共同戦線の申し出に前向きな答えを貰わなければならない。


「流石のお姉ちゃんもこれには困っちゃうぞ」


 そう言いながらも、夏妃は着実に準備を進めて言っていた。


 アリスは常に日本情報軍の部隊と行動しているわけではない。彼女ひとりの行動が許されている場面もあった。その瞬間を狙ってドローンを急接近させる。


『アリスちゃん、アリスちゃん! こんにちは!』


「え? あ、はい。こんにちは」


 突然謎のドローンが話しかけてくるのに、アリスは一先ずそう答えた。


『覚えている? 前に共同戦線をした、私!』


「ええ。覚えています。まさか、今回も?」


 そう言ってアリスは周囲を見渡す。


『そう、共同戦線! 一時的なものだと分かっているけどお願い! 鏡花を、あの子を止めなければいけないんだ。今、鏡花は東海林大河から力を奪って、それで戦おうとしている。それを阻止しなければいけない』


「ふむ。我々としても京極鏡花は脅威であると認識しています」


 京極鏡花。凄腕のハッカー。恐らくは死体を操る能力を持っており、そしてアーマードスーツなどの重装備を調達できる立場にある人間。


 それが脅威ではないとしたら、何が脅威だというのだ?


『鏡花を止めよう。幸い、策はあるんだ。ただ、こっちだけじゃ火力が足りないというか。いざ、鏡花に遭遇したときに、対応できるか分からないんだよ。それを防ぐためにアリスちゃん。君に協力してほしい』


「分かりました。協力しましょう。策というのは?」


『神楽坂賢人の行方を追う』


 夏妃ははっきりとそう言った。


 そう、既に大河を屠り、残り3名となった勇者の中でもっとも脆弱だったのは賢人である。賢人の後を追えば、自然と鏡花とも鉢合わせするはずだ。


「そうですね。悪くないアイディアだと認識します。それでは賢人を追いましょう」


『日本情報軍の本隊と離れて、大丈夫?』


「大丈夫です。彼らからは自由裁量を任されています」


『オーケー。じゃあ、いっちゃおう』


 夏妃のドローンの案内でアリスは海宮市の街を進む。


 通りを越え、商店街を抜け、アリスは夏妃のドローンに誘導される。


『いきなり攻撃しちゃダメだよ?』


 夏妃のドローンが不意にそう言うと、通りの向こうから凛之助が姿を見せた。


「天沢アリス。協力してほしい」


「その点は既に同意している。私は協力することに疑問を抱えてはいない」


「それはありがたい。私の力だけでは鏡花を、忌まわしい死霊術師を止められない。あの女の持っているアーマードスーツという装備だけで対処不能になってしまう」


 通りの向こう側から凛之助が合流する。


「私にできることはもちろんする。だが、天沢アリス。あなたの協力が不可欠だ。どうあっても京極鏡花のような人間を勝利させてはならない」


「同意する」


 京極鏡花はイカれたハッカーだ。忌まわしき情報テロリストだ。そんな人間を勝利させるわけにはいかない。


「では、よろしく頼む、天沢アリス」


「こちらこそ、臥龍岡凛之助」


 ふたりはそうして手を握った。


「それで、作戦だが既に説明があったように神楽坂賢人の行方を追う。賢人を追えば、必ず鏡花にいきつくはずだ。今のところ、鏡花が手を出せ、かつ脅威になるのは賢人だけだ。なんとしても鏡花を倒そう。協力をよろしく頼む」


「分かった。今は停戦。京極鏡花を倒すまでは協力する」


 アリスはそう言って周囲を見渡した。


「ドローンの人と話せる?」


「む。話せるとは思うが、何の用事だ?」


「お礼を伝えたくて」


「お礼?」


「そう、お礼」


 怪訝に思いながらも凛之助はドローンを手招きして呼び寄せる。


「あなたが誰かは分かっています。私の母のような人であると言うことも。お礼を言わせてください。この世に私を生んでくれてありがとうございました」


『気にしないで。本当は南島博士が讃えられるはずだったんだから』


 自己学習型AIの母。夏妃は我が子のようなアリスにそう言った。


『ここから先は私がナビゲートを務めさせていただきます。その様子ですと、既にウィンターミュートと接触なさりましたね?』


「ええ。雪風さん、ですよね?」


『はい。私は体は持っていませんが、電子情報空間での活動は得意としております。協力できるかと。では、神楽坂賢人の行方を追いましょう』


 それからドローンがもう1機飛んでくる。そのドローンはスマートフォンを運んでいた。ドローンがアリスにスマートフォンを手渡す。


『いざという時の連絡用の端末です。保有しておいてください。それではご案内いたします。神楽坂賢人は現在偽装IDを使用して逃亡中です。我々が既に偽装IDの特定に成功したということは鏡花も同様に偽装IDの特定に成功していると見るべきでしょう。急がなければ、鏡花に賢人を持ち去られます』


「それは何としても阻止しよう」


『はい。それではナビゲーションを開始させていただきます。しっかりとついて来てくださいませ』


 ドローンが海宮市の街を駆け抜ける。


 アリスと凛之助はその後を追う。


 ドローンは最短ルートでの案内を行っており、狭い路地裏でも平気で突っ切っていく。それでもアリスも凛之助も難なく街並みを通過していく。


「その体が機械だというのは本当なのか?」


 不意に凛之助がアリスに尋ねる。


「本当。そして、私は人間になりたい。人間になるという願いを叶えたい。そのために戦っている。私は人間になりたい。それだけ。それ以上のことは望まない」


「そうか」


 凛之助はそう言うと、沈黙した。


 それから凛之助たちはあらゆる場所を駆け抜け、賢人を追う。


 人間になりたい、かと凛之助は思う。


 純粋無垢な願いだ。できれば叶えさせてやりたい。だが、そのためには凛之助は死ななければならない。それはダメだ。自分は死ぬわけにはいかない。夏妃のためにも生きなければならないのだ。


 それにしても今の段階でもアリスは既に人間に見える。


 だが、実際は人間ではない。人間の形をした機械だ。そう、夏妃からは説明を受けていた。アリスは人間ではないと。機械であると。にわかには信じられなかったが、だが夏妃が嘘を吐くとは思えない。


 アリスは人間になることを夢見ている。人間でないものに魂が宿り、人間になったということを凛之助は知らない。そのようなことが可能なのかどうかもしらない。


 だが、もし自分が道半ばにして倒されるようなことがあれば、忌まわしい死霊術師である鏡花ではなく、アリスに願いを叶えてもらいたいと、そう思った。


 今は機械仕掛けの人形でも、アリスには人間になるチャンスが与えらえるべきだ。神々がそれを許すかは分からないが。それでも。


……………………

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