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刻印の継承

……………………


 ──刻印の継承



 大河が気づいたとき、彼はベッドに縛り付けられていた。


 彼は義肢を使って抜け出そうとしたが、義肢は存在せず、片腕は喪失していた。


 何が起きた? どうして自分の左腕がないんだ?


 大河が混乱しながら、ベッドの校則から抜け出そうとするのに、扉の開く音がした。


「サプラーイズ! 初めまして、キチンな殺人鬼君。いや、それとも東海林大河ちゃんと呼んだ方がいいのかな?」


 そして、現れたのは鏡花だった。


「ここはどこだ? 俺を解放しろ」


「おいおい。この戦争のルールを分かってないのか? 同じ刻印を持つものは殺せ。殺し続けて最後まで生き延びた奴が勝者。それなのにわざわざ捕まえたあんたのことを逃がすと思うってのかい?」


 鏡花がそう言って鼻で笑うのに、大河は恐ろしくなり始めた。


 大河の運命は鏡花に握られているのだ。彼女が大河を殺そうと思えば殺せるし、そうでないとしても拷問することだってできる。


「あんたは死ぬよ。残念とも思わないけれど。その代わり、あんたの死は無駄にはしないさ。あたしがこの戦争を戦い抜くための糧になってもらう」


 そこで白衣の男たちが入ってきた。


「始めますか?」


「始めよう」


 白衣と男たちの問いかけに鏡花があっさりとそう答えた。


「やめろ。何をするつもりだ。やめろっ!」


「あんたはそう言った被害者のことを殺さずにおいてやったのかい? 殺したんだろ。あたしもあんたを殺すよ。それが必要なことだから」


 白衣の男たちが大河の右腕をアルコール消毒していく。


「では、いざ参らん」


 それから鏡花の左手が大河の刻印を掴み、大河の右腕に激痛が走る。


「──っ!」


 獣のような叫びを上げて大河は苦痛から逃れようとするが、そうはいかない。


「転写完了です」


「これでこいつの力はあたしのものってことだな」


「その通りです」


 そして、白衣の男が大河を見る。


「この男はどうしますか?」


「んー。殺しておこう。殺せばあたしの駒にできる。顔は広げてあるから、何かしらの誘導に使えるだろう。とりあえず、殺してキープ」


「了解」


 廃人となった大河を白衣の男たちが医療処置で殺していく。


「さて、これで日本情報軍とやり合えるってものだ。まあ、戦争もいいけれど、あたしはあたしの役割を果たさなくちゃね。情報テロリストって役割を」


 鏡花はそういうと姿を消した。


 鏡花の姿は完全に消えてなくなり、大河の同じ能力を得たことが示された。


 だが、この場に迫るものがいた。


 凛之助である。


 凛之助は最後に鏡花と大河が目撃された地点から過去視を使って鏡花のいる場所まで迫りつつあった。彼としては最大限の備えをしたつもりだ。体を鍛え、魔法もより強力なものが使えるようにと努力した。それによって貧弱だった凛之助の体は鍛えられ、もう銃弾程度ならば何発でも跳ね返せる強さを手に入れた。


 そして、彼は大河が鏡花によって連れ込まれた建物に辿り着いた。


「夏姉。鏡花と大河がいると思われる場所に到着した」


『ふむふむ。メティスの日本支社の施設だね。今、施設を特定するから待ってて』


 夏妃がそう言うとまずは監視カメラが停止し、それから電子キーが開いた。


『施設の掌握完了! でも、気を付けてねリンちゃん。鏡花はどこまでも危険だから』


「ああ。分かっている」


 相手はテロリストという名の恐怖で物事を変えようとする人間だ。まともではない。そのような人間とも対峙し、勝利しなければ凛之助は自身の身を、そして夏妃の身を守ることはできないのだ。


 何かを守るために戦う。それはこれまでなかった戦いだ。


 いや、魔王としての凛之助も最初のころは自分を守るために戦っていた。だが、次第に疲れていき、なすがままに任せるようになった。


 だが、今回は、今回だけは負けることはできない。


 夏妃を傷つけたくはない。凛之助が死ぬことによってでも、夏妃が直接傷つけられることによっても、両方の脅威から夏妃を守りたい。


 夏妃が施設のセキュリティシステムを把握してシャットダウンしていく。


『この先に用途不明の部屋がございます。どうかご確認を』


「分かった、雪風」


 雪風も最大限のバックアップを行っていた。


 メティスに施設のセキュリティがジャックされているとは思わせず、平常通りに稼働していると思わせている。このおかげでメティスのアラームが鳴り響くことはない。


「この部屋だな」


『はい。その部屋でございます。セキュリティカメラも存在しません。お気をつけて』


「分かった」


 凛之助は未来視であるものを見て、部屋の扉を開いた。


「東海林大河……」


 凛之助が殺してやると誓ったひとりは死んでいた。


 人工的な心臓麻痺によって。


 凛之助は部屋のさらに奥へと進む。


「これは……」


 そこにあったのは大量の死体だった。


 死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。


 全てが物言わぬ躯であり、冷凍保存されていた。


『リンちゃん。何か見つけた?』


「死体だ。大量の死体を見つけた。眠るように死んでいる」


『……雪風に顔の画像を見せて、彼女がIDで検索してくれる』


「分かった」


 雪風に変わると、凛之助が死体の顔の画像をひとつひとつ雪風に見せた。


『ID認証完了。どれも海宮市で行方不明になっている人物です。メティスは彼らを拉致し、死亡させ、ここに保存していたものと思われます』


「クズどもめ。反吐が出る」


 死体は恐らく鏡花が使用するためのものだ。鏡花の勇者としての能力は、死体なしには発動しない。彼女のために死体を確保していたと見て間違いないだろう。


「雪風。この施設で火災は起こせるか?」


『可能です。ここで火災を発生させますか?』


「頼む」


『それでは火災発生シーケンスに移行します。すぐにここを離れてください』


 凛之助は施設を飛び出る。


 それと同時に施設から黒煙が立ち上り始めた。


『火災発生完了。火災報知器などは停止させてあります。幸い、施設には人間はいません。被害は死体だけで済むでしょう』


「できれば、家族の下に返してやりたかったが」


『そこまで我々は万能ではないので仕方ありません』


 ただ、鏡花のようなテロリストに利用されなかっただけ良しとしましょうと雪風は言う。凛之助もその意見に同意だった。


「それで、鏡花は、あの女はどこに姿を消した?」


『不明です。今の状況では判断しかねます』


「そうか。夏姉に代わってくれ」


『畏まりました』


 スマートフォンの通話相手が夏妃に代わる。


『リンちゃん? どうかしたの?』


「夏姉。連絡を取ってもらいたい人物がいる。その人物との共同戦線を提案したい」


『ふむふむ。でも、誰と?』


 大河は死亡。賢人は行方不明。残るは──。


「天沢アリス。彼女との共同戦線を提案したい。日本情報軍は抜きにして。そうしなければ、この戦争で勝利するべきではない人間が勝利してしまう」


 凛之助ははっきりとそう言った。


……………………

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