戦闘現場の現場検証
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──戦闘現場の現場検証
直樹が死んだ。
日本情報軍は直樹に死んでもらうつもりで、ここでの戦闘を繰り広げたが、予想外のことがあまりにも多かった。
賢人と大河の乱入。そして、何より凛之助の乱入。
民間警備企業も参加して現場検証が行われる。
しかし、それはどうして直樹が死んだのかではなく、行方をくらませた賢人と凛之助の行方を追跡するものであった。
生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像をと思われたが、どういうわけか該当する時間帯に生体認証スキャナーと街頭監視カメラが機能を停止していた。賢人の行方も、凛之助の行方も分からない。
そして、なおのこと謎だったのは、大河が行方不明になっていたことだ。
大河は死亡したものと思われていた。それが姿を消した。
自力で脱出したのか、それとも大井に助けられたのか。
今回は民間警備企業の動きにも注意を払っていた日本情報軍だが、情報を得るには至らなかった。大河まで姿を消したのだ。
民間警備企業も必死に大河を探していた。
彼らのボスは大井であり、大井の支援している大河を助けるのは任務であった。
だが、彼らの積極的な捜索にもかかわらず、大河は見つからない。
大河はどこに消えた?
民間警備企業が必死に大河を探す中、日本情報軍と公安は賢人と凛之助を探していた。賢人も凛之助もテロリストというわけではないが、重要参考人という立場で行方を探されていた。
ヴィルトカッツェの刻んだ銃痕の跡を見ながら、日本情報軍第401統合特殊任務部隊は軍用犬も動員して捜索を行う。警察はそれを異様な目で見ていた。まず現場をよく把握するべきなのにもう犯人の追跡を? と。
だが、日本情報軍にとって現場に見る価値はなかった。公安警察が頭を悩ませている銃痕の後はヴィルトカッツェが刻んだものだと日本情報軍は知っている。どうしてドイツ製の兵器が使われたかを、日本情報軍は知っているのだ。
彼らのやるべきことが現場の調査でないことは間違いない。
賢人及び凛之助、そして大河を捜索する。
日本情報軍から放たれた追手は臭いを追跡する。映像が使えない以上、臭いを辿るしかない。しかし、このご時世軍用犬対策は容易だ。犬の嗅覚をマヒさせる特殊な臭いを使い、それで追跡を回避する。
これで3名全員が姿を完全に消した。
日本情報軍としては困惑するしかなかった。
しかし、困惑していたのは日本情報軍や民間警備企業だけではなかった。
凛之助たちもまた困惑していた。
「ここのログ。削除された形跡がある。復元はできない。私もリンちゃんのログを消してたけど、これは消した覚えはない。ここにあったのは大河──連続殺人鬼の映像のはず。誰かが、恐らくは大井が削除したと見ている」
『ですが、削除には攻勢ウィルスが使用された可能性があります。その痕跡が少しですが残っています。消したのが大井の場合、わざわざ攻勢ウィルスを使用する必要性などあるでしょうか?』
「うーん。それは確かに」
ログの削除は外部から侵入したウィルスによって行われた形跡があった。
防衛エージェントもある種のウィルスだ。ただ、防衛のためにワームを攻撃するというだけで、攻撃目標を変えればそれはウィルスと同じ仕組みなのだ。侵入者を焼き尽くすブラックアイスならば侵入者にとってはウィルスとなる。
攻勢ウィルスと呼ばれるものは、防衛エージェントと対になるものだ。
その攻勢ウィルスが民間警備企業のログを削除した痕跡を残してる。大井が映像を消した犯人だとして、ただ、映像を削除するだけならば、民間警備企業に命じて削除すればいいだけだ。
攻勢ウィルスが使用されたということは、外部からの攻撃を受けたということだ。
『民間警備企業が東海林大河の行方を追っています。明らかに彼らは東海林大河を見失っています。情報が削除されたこともそれの原因かと』
「ふむふむ。民間警備企業は確かに大河を追っているね。大井が大河のバックに付いたのなら無理もない話だ。だけど、誰かが大河をらちしたということ? あるいは死体を持ち去った? 誰が?」
『それについて凛之助様にご相談が。勇者の刻印は他人に移せるという話ですが、同じ人間がふたつの刻印を持つことも可能なのでしょうか?』
雪風のアバターが凛之助を見る。
「可能だ。やり方さえ間違えなければ同じ能力すら手に入る。まさか……」
『はい。勇者のうちの誰か。いや、鏡花が勇者の刻印を手に入れるために、大河を拉致したものと思われます。攻撃に使われた攻勢ウィルスの痕跡は、鏡花が以前使用していたウィルスのパターンと酷似しています』
「なるほど。ただの犯罪者だと思っていたが、背後にビッグシックスとやらがついているせいで、この戦争のルールを急速に理解している。刻印を移すことまで考えるとは。もし、勇者としての刻印をふたつ持ったならば、脅威は増大する」
凛之助が雪風の言葉に考え込む。
「雪風。攻勢ウィルスの侵入ルートは?」
『特定中……。民間企業、情報セキュリティ企業のサーバーを複数経由して攻撃を仕掛けています。攻撃元の特定は困難かと』
「ブラックアイスにぶち当たっても情報セキュリティ企業のサーバーが焼かれるだけ。確かに鏡花っぽいやり方だ。これ以上ないってほどに」
夏妃がそう唸る。
「ここでこうしていてもしょうがない。行動するべきではないか? 私が過去視を使えば大河の居場所は特定できる。それで位置を特定しよう」
「だけど、リンちゃん。現場は日本情報軍と民間警備企業が封鎖していて連中のドローンが飛び回っている。報道陣だって詰め寄せている。そこに近づいて過去視をするのは難しいんじゃないかな?」
「む。確かにそれもそうだが……」
「大丈夫。既に東海林大河の生体情報なら入手しているから、これを使って、民間警備企業から情報を盗み出し、分析にかければオーケーよ」
「そうであるならばいいのだが。しかし、大井というビッグシックスが何の考えもなしに殺人鬼を野に放つものだろうか?」
「……追跡ナノマシン!」
「そのような技術はあるのだろう?」
「あるはずだし、使われているはずだけど、民間警備企業は必死に大河を探している。鏡花が無力化した可能性があるね」
「無力化できるのか」
鏡花と民間警備企業が鉢合わせする可能性は低くなった。
「追跡ナノマシンは特殊なフェロモンを分泌させて、それによって追跡することができるようにするナノマシンなんだけど、ナノマシンそのものを排出させられたら、それで終わり。追跡は不可能になる」
夏妃はそう言って肩をすくめた。
「では、夏姉。どうにかして大河が通った場所を探し出してくれ。鏡花でもいい。私はその現場の近くに言って過去視で情報を集める。頼む、夏姉」
「任せて! お姉ちゃんが居場所を探り出しちゃうよ。何があってもね」
夏妃は復帰した民間警備企業の生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像をハックして取得しつつ、それらを夏妃個人の分析AIに分析させる。偽装IDを使っていてもこれならば意味がない。
海宮市に設置された何十万台という生体認証スキャナーと街頭監視カメラの映像を夏妃のパソコンと雪風が処理していく。
そして──。
「みつけた。みつけたよ、リンちゃん。まだ鏡花たちは海宮市にいる。この場所を通って姿を消した。追跡をお願い。気を付けてね」
「ああ。十二分に気を付けよう」
凛之助は頷き、海宮市の指定されたポイントに向かった。
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