アーマードスーツ乱入
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──アーマードスーツ乱入
アトランティス・ランドシステムズ製アーマードスーツ“ヴィルトカッツェ”は直樹たちの乗った車両に向けて銃弾を雨のように降り注がせた。
直樹たちの車は運転手を失い、何名もの負傷者を出し、車の中は血塗れになる。直樹は辛うじてそこから這い出し、隣の建物に続くドアのカギを銃撃し破壊し、扉を開いて安全を確認した。
「全員、こっちだ! こっちに逃げこめ!」
直樹が叫び、部下たちが建物に飛び込んでいく。通用口は人間サイズで、ヴィルトカッツェは侵入できない。そう思われていた。
だが、ヴィルトカッツェはその腕力を使って強引に突入口を作ろうしていた。
直樹たちは逃げ惑う。
またひとりの部下がヴィルトカッツェの機銃掃射の前に倒れる。
ヴィルトカッツェは入り口に体当たりし、強引の中に入ろうとする。直樹たちはすぐに建物の奥へと姿を消す。
この状況を作り上げていたのは、他でもないアリスだった。
無人のゴースト機へのレーザー通信をドローンを通じて中継し、ゴースト機を操縦していた。アリスは移動指令車の中でVRヘッドセットをつけて、リアルタイムでヴィルトカッツェの捉えた映像を見つめつつ、無人機からの情報も中継を受けて確認し、直樹たちを追撃しようとしていた。
「これで何の証拠も残さず公安の勇者を亡き者にできる。公安の勇者は情報テロリストである京極鏡花の襲撃を受けて死亡した。それで事件は丸く収まるわけだ」
土佐大佐は満足そうにそう言っていた。
実際のところ、これが本当に鏡花の襲撃に見えるかは謎であった。直樹たちを先導していた日本情報軍の車両は無事に逃げおおせ、直樹たちだけが襲撃を受ける。情報テロリストである鏡花なら真っ先に日本情報軍の車両を襲撃するだろうに。
そのようなことを思いながらもアリスは任務に当たっていた。日本情報軍のドローンが上空を飛行し、アリスが勇者としての固有能力“永劫に続く悪意”で生み出したヴィルトカッツェを使い、直樹たちを追い詰める。
まるで殺人鬼が犠牲者を追い詰めているような光景。
無力な犠牲者が殺人鬼から逃げ回る。殺人鬼は嬉々としてそれを追いかける。
嫌な気分になる。どうしてこんなことを、と。
それは自分が生き残るため。それは自分が人間になるため。
そのために罪もない公安の捜査官を追い詰めて殺す。
彼らが別の通用口に気づいた。そこから別の建物に逃げ込むつもりだ。
だが、そうはさせない。
ひとりの公安捜査官が扉を開けたとき、そこにはもう1体のヴィルトカッツェがいた。
ヴィルトカッツェは通用口を開いた公安捜査官を蜂の巣にし、距離を取ってロケット弾で通用口を破壊した。
そして、破壊された通用口からヴィルトカッツェが内部に侵入してくる。
公安捜査官たちは必死に拳銃の射撃を浴びせ、何発かがヴィルトカッツェのセンサーの一部を破壊するもヴィルトカッツェのもっとも重要な目は潰せていない。
もっとも重要な目は防弾ガラスによって守られている。対戦車ミサイルの直撃を受けても破壊することはできない。
公安捜査官たちは戦闘は無意味と悟って、非常階段を上って逃げようとしていた。だが、ヴィルトカッツェも階段くらい、容易に登れるのである。
ヴィルトカッツェは階段を登りながら、公安捜査官たちを追い詰めていく。
その間、もう1体のヴィルトカッツェが侵入し、同じように階段で公安捜査官たちを追う。外には2体のヴィルトカッツェが待機している。
つまりどうあっても直樹たちは逃げられない。
「携帯電話の通信を傍受。どうしますか?」
「妨害しろ。この付近一帯の携帯電話の通話を妨害。民間回線にはワームを流し込んで、固定電話も使用不能にしろ」
「了解」
てきぱきと物事が進んでいく。
ここにきてようやく大きな作戦が実を結ぼうとしているのだ。
公安の勇者を殺す。情報テロリストの仕業に見せかけて。
日本情報軍にとってこれほど都合がいいシナリオもない。
問題はちゃんと直樹が死んでくれるかだ。
2階、3階の戦いで、直樹たちはひたすらにヴィルトカッツェに負い続けられる。無人のテナントが破壊され、銃痕が壁に刻まれ、ロケット弾が何もかもを吹き飛ばす。
自動擲弾銃の放つグレネード弾から逃れるために直樹たちはエレべーターに乗り込んだ。彼らには何が起きているのかさっぱり分からなかった。
「一体、何が起きているんです、警部?」
「分からん。ただ、俺たちは罠に嵌められたらしい」
日本情報軍の仕業だという確証はなかった。彼らは日本情報軍の車両を見逃しているのだ。それにこのヴィルトカッツェはどこから、誰が持ち出したというのだ?
まさかアリスの能力であるということを知らない直樹たちは困惑したままだ。
「とにかく、今を生き延びなければならない。正面入口から突破しよう。表に出て、隠れられる場所を探しながら、民間警備企業でも、警察の仲間にでも助けを求める」
「了解」
ヴィルトカッツェがさらに2体存在することを知らない直樹たちはそう判断を下してしまった。そして、脱出作戦が始まる。
ヴィルトカッツェのセンサーに気づかれないように慎重に移動し、エレベーターで一気に1階まで下りる。
そして、正面入り口のシャッターを開くボタンを押した。
シャッターがガラガラと音を立てながら開いていく。
だが、そのシャッターの向こう側にはヴィルトカッツェが2体。
「しまっ──」
ヴィルトカッツェは機関銃を直樹たちに向けて掃射する。
直樹は辛うじて被弾を免れたが部下たちは銃弾を浴びて倒れる。
「逃げて! 逃げてください、警部!」
「畜生! すまない!」
直樹は負傷した部下を置いて逃げる。正面に2体。ならば通用口は開いているのではないか? とにかく今はここから外に出なくては。
それにしてもこれだけの銃声が響いているのに、民間警備企業は何をしている? これが日本情報軍による陰謀であったにせよ、情報テロリストの犯行だったにせよ、現場には駆けつけるべきだろう。警察だったそうだ。
何者かが出動に圧力をかけている?
あり得る。日本情報軍の罠ならばその可能性はまず否定できない。
民間警備企業にも、警察にも圧力をかけて、自分たちの対テロ部隊を動員し、直樹たちが宰司を始末したときのように始末する。あるいはこのままヴィルトカッツェで始末してしまい、テロリストの仕業だという。
不義理というのは自分に返ってくるものだなと直樹はしみじみと感じた。
宰司をテロリスト扱いして始末した罪を、今直樹は償わされようとしているのだ。
いや、あり得ない。日本情報軍は決して正義の執行者などではない。後ろ暗い、暗殺者たちだ。それが正義の執行者面をして、直樹に正義の審判を下す。そんなことがあってなるものか。連中の裁きなどクソくらえだ。
生き延びてやる。絶対に生き延びてやる。直樹はそう決意した。
通用口を突破し、裏に出ようとする。すると建物の3階からヴィルトカッツェが飛び降りてきた。そして、その銃口を直樹に向ける。
猛烈な射撃音。次々と銃弾が放たれ、壁に銃痕を刻む。
「畜生、畜生、畜生! 死んでなるものか!」
直樹は再び、建物内逃げ込む。
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