山猫を追う
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──山猫を追う
日本情報軍からアーマードスーツの情報を手に入れた直樹は早速情報の捜索を始めた。忌々しい民間警備企業の手も借りて、鏡花を探し出そうとした。
だが、鏡花は海宮市はおろか、神奈川県にすらいないのか、入ってくる情報はない。
しかし、その程度で諦める直樹ではない。
捜査は足で。自分の足で歩いて情報を集める。
羽田空港で撮影されたという顔写真を手に、直樹は聞き込みを行う。
何日も、何日も、何日も。部下も使って、何度も、何度も、何度も、聞き込みを行う。しかし、得られた情報は皆無だった。
情報はあまりにもない。
それも当然だ。鏡花は外での仕事はメティスのミスター・ジョン・ドゥに任せて、自身はセーフハウスの中に籠っているのだから。
鏡花は海宮市にいる。海宮市のメティスと間接的にかかわりのある企業の施設にいる。そこから電子戦を仕掛け、死体を操り、アーマードスーツで凛之助たちを強襲したのだ。一切自分は外に出ることはなく。
しかしながら、それを知らない直樹たちは警視庁にも連絡を取り、警視庁の方でも情報を探ってもらうことにした。首都圏のどこかに鏡花はいるとの判断からだった。実際にその判断は正しかったのだが、いずれにせよ立て籠もっている鏡花の行方は分からない。
鏡花の方は公安が自分のことを嗅ぎまわっていることをメールをハックして知っていた。神奈川県警のメールボックスをハックし、直樹の使っているアドレスを見て、直樹が鏡花を狩りだそうとしていることを知った。
こいつは面白いとばかりに鏡花は民間警備企業の分析AIに自分を検知したという情報を発信させ始める。AIはいくらでも騙せるが、AIを扱う人間はそれに気づいていない。誤認情報で直樹たちは走りまわされ、段々と苛立ちを募らせていく。
鏡花は直樹たちを翻弄し続け、電子の女帝として傲慢に直樹たちを振り回した。
「情報が欲しい。信頼できる情報が」
直樹たちはアーマードスーツの出どころを探ろうしていた。
アトランティス・ランドシステムズからどういう経緯を辿って日本でそれが暴れたのか。それさえ分かるならば、捜査は前進するものだと考えていた。
だが、問題のアーマードスーツには直樹たちは触れることすら許されない。
日本情報軍の情報では火器は全てグレイ・シューターだという話だった。つまりID登録されていない非合法な武器を搭載したアーマードスーツ。IDを外すのは簡単なことではないが、ビッグシックスなり、日本情報軍なりが本気なれば容易に外せる。
日本情報軍による自作自演を疑った。
だが、日本情報軍が自分たちの存在意義である『日本国と日本国民及び日本国の自由民主主義を守る』というものを果たせなかったという事実を残してまで、このような自作自演をするとは思えなかった。
となると、やはりビッグシックスか。
個人ではないとは最初から分かっていた。個人が数体のアーマードスーツを税関に気づかれずに密輸し、IDを剥がすなどできるはずがない。相手がどれだけの凄腕のハッカーだろうと物理的に不可能だ。
だが、ビッグシックスが情報テロリストとは言えど、テロリストを支援するか? と言う問題が上がってくる。だが、大井は既に東海林大河を支援している節がある。どこかのビッグシックスが情報テロリストを支援していてもおかしくはない。
何せ、この戦勝に勝利すればなんであろうと願いが叶うのだ。
その事実を知っている直樹からすれば、何ら不思議なことではなかった。
「情報はないか。何かのヒント程度でもいい。何か情報はないのか?」
直樹は情報を求める。
「情報は皆無です。追跡可能な情報は何もありません。民間警備企業もお手上げです」
「アーマードスーツであれだけ暴れておきながら情報は皆無、か。確かに敵は電子情報戦に長けた人物らしいな。情報テロリストとは言ったものだ」
アーマードスーツを運んでいたトレーラーも盗難車として警察と民間警備企業に登録されていた。トレーラーからの情報も途絶えている。
全ての情報が途絶えている。
鏡花に行きつく情報は、何もない。
テロリストを相手に公安が負けるようなことがあってはならない。直樹たちは必死に情報収集を行った。だが、いくら探れど、探れど、鏡花の情報は得られない。羽田空港で確認されてからも、そこからどこに向かったのかは謎だ。鏡花は生体認証スキャナーと街頭監視カメラの目を逃れて、どこかに消えた。
状況は直樹たちにとって、完全なお手上げ状態となっていた。
「日本情報軍からです、警部」
「分かった」
直樹が電話を受け取る。
「はい。百鬼です」
『百鬼警部。新しい情報が判明した。例のアーマードスーツだが、どこに保管されていたのか分かったのだ。よければ捜査に同行しては貰えないか? 我々だけでは法廷で争う際に問題となるし、民間警備企業は信頼できない』
「分かりました。同行させていただきます」
『助かるよ、百鬼警部』
そう言って日本情報軍情報保安部の将校は電話を切った。
「どうにも臭い話が回ってきた」
「日本情報軍は情報を掴んだと?」
「ああ。それで合同で捜査が行いたい、だそうだ。それだけでもかなり怪しい。だが、今は少しでも情報が欲しい。何かしらの捜査の攪乱狙いかもしれないが、そこから分かる情報もあるだろう。俺は同行する。諸君はここで捜査を続けてくれ」
「それはいけません。我々も同行します。日本情報軍は何をするか分かりません」
「そうだ。だから、諸君には残ってほしいのだ」
日本情報軍は直樹を消すために捜査に呼んでいるのかもしれない。
そうではないとは誰にも言えないのだ。
「いいえ。我々は危険には臆しません。日本の警察のためにも」
捜査官たちは覚悟を決めた表情で頷いた。
「そうか。ありがとう。では、諸君の力を借りよう」
直樹にとっては頼りになる存在だ。
彼は捜査官全員に感謝し、彼らとともに情報テロリストという名の公安の敵を排除することを決意した。どうあろうとも公安が、鏡花を排除するのである。
だが、この情報はすぐに鏡花──そして夏妃の知るところとなった。警察のメールサーバーをハッキングしていたのは鏡花だけではない。夏妃もまたメールを盗み読みしていたのである。
そして凛之助は直樹に対して未だに殺意を抱いていた。
大事な友である宰司を殺した男。
それに対して復讐するために凛之助は動き出した。
直樹が日本情報軍の車列と合流し、アーマードスーツが保管されていた倉庫に向かうまでの道のりを凛之助は離れた位置から追跡し始めた。過去視を使い、過去の映像を見ながら進んでいった。
そして、車列が狭い度道路に入った時、爆発音が響いた。
「何っ……?」
凛之助は立ち止まり、未来視で情報を取得する。
そこにはヴィルトカッツェに襲撃される公安の、直樹たちを乗せた車両の姿があった。彼らは襲撃を受けたのである。
他でもない彼らが追い続けていたアーマードスーツ“ヴィルトカッツェ”によって。
状況は瞬く間に混乱へと転がり落ちつつあった。
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