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尾行

……………………


 ──尾行



 凛之助が賢人に気づいたのは全くの偶然からだった。


 凛之助もまた直樹を追っていたのだ。友である宰司を殺されたことの復讐をするために。だが、そこで意外なものを見つけた。


「なんだ。この魔力の濃度は……」


 これまで感じたことのないような魔力の濃度を感じる。


 いや、現道に言えばこの世界に来てからは、だ。これまでの世界ではこの程度の魔力の持ち主など大勢いた。珍しくもなんともない。


 だが、この世界では珍しすぎる。


 この世界は魔法のない世界のはずだ。それなのにこれほどの魔力の持ち主がいるのは警戒するべきこtである。魔法の存在を知っているだけでなく、使う可能性もあるのだ。


 凛之助もこれまでずっと鍛え続けて来て、かなり高度な魔法がこうしできるようになったが、敵が魔法を使うとなると分からない。魔法とは奇跡の力だ。奇跡ほど面倒なものはないのである。


 面倒なと思いつつ、凛之助は目標をマークする。


「夏姉。見えているか?」


『ええ。ばっちり。IDによれば彼は神楽坂賢人。関連する情報を探してるから、分かったら知らせるね』


「ああ。頼む、夏姉」


 その間にも神楽坂賢人は動いている。


 彼は警察署から出てきた車を追いかけ始めた。


 凛之助も気づかれぬように過去視を使いながら、賢人の後を追う。


 賢人は直樹に気づかれまいとしているようであり、一定の距離を保っている。


 途中からは自転車を使い、直樹を追っている。


 この時点で賢人がそこまで秀でた魔法使いではないのは確定していた。


 魔法使いならば使えて当然の過去視が使えていないのだ。リアルタイムで発見される恐れを犯して、相手を追いかけなければならないのだ。その魔力も実際は大したことがないのだろうと窺わせる。


 だが、直樹を追跡している時点で賢人も勇者のひとりと思われる。それならば油断はできるものではない。


 凛之助は賢人の後を慎重に、慎重に追いかけていく。


 やがて車は警察署から少し離れたマンションの前に止まり、中から直樹が降りて来て、そのまま中に入っていった。


 日本の警察は警察の未来を背負った直樹を守るのに総力を挙げていた。生体認証スキャナ-付きのマンション。マンション内部には護衛。警察はもし間違って直樹が殺されたりすることがあっては困るのだ。


 賢人はマンションに入ろうとして諦めると、とぼとぼと帰っていった。


 これで分かったが、賢人は直樹を狙っている。


 勇者同士が潰し合うのは凛之助にとっては本来望ましい状況だ。


 だが、今回は事情が異なる。


 凛之助は宰司を殺した直樹に復讐したいのだ。直樹は自分の手で始末したいのだ。他の勇者に殺されてしまうのではなく、自分の手で殺してやりたいのだ。


 勇者同士が殺し合うはのは確かに望ましい。だが、今回だけは事情が違う。


 どうするべきか?


 殺し合いたいのならば殺し合わせてやるべきだ。その上で、横から獲物をかっさらう。連中にとっては最悪のタイミングで横合いから殴りつける。


 悪くないアイディアだが、実行には困難が伴う。


 最悪のタイミングに駆けつける能力と倒れかけとは言えど2名の勇者を相手にしなければならないのだ。


 そんな幸運は早々訪れるものではない。


 やはり地道にまずは直樹を殺すことから考えなければならないかと考える。


 直樹はあのマンションに住んでいる。夏妃ならば入られるようにしてくれるだろうか? それとも流石に無理だろうか?


「夏姉。ドローンの映像が見えているか? あの建物に侵入したいのだが」


「ちょっと待ってて。うーん。ダメだね。スタンドアローンで作業している機械だ。外部からのアクセスは受け付けないよ」


「そうか。分かった」


 何はともあれ、幸運なことにひとりの勇者の正体と直樹の居場所が分かった。


 これで物事を進めやすくなる。


『リンちゃん。1回戻ってきて。神楽坂賢人について得た情報を説明するから』


「分かった」


 直樹はそう言って夏妃のセーフハウスに戻る。


「ただいま、夏姉」


「お帰り、リンちゃん」


 夏姉は本当に今の凛之助のことを実の家族のように扱ってくれている。


「それでね。神楽坂賢人について調べたんだけど、興味深い項目。彼って勇者と魔王の関係を記した書物を持っていた古代神儀流の教祖の息子だったんだよ」


「それは……。古代神儀流は完全に潰されたものだとばかり」


「そうじゃないんだ。生き残りがいた。ひとりだけ。日本情報軍がどうして彼を野放し似ているからは分からない。彼らは神楽坂賢人の存在を把握していなかったのかもしれない。それとも死亡したと判断したのか」


「……その古代神儀流とやらが、この世界に勇者と魔王の関係を伝えたのか。日本情報軍に情報を与えたのか」


「……そうなるね」


 夏妃は難しい表情をして頷いた。


「であるならば、神楽坂賢人も私の敵だ。奴は死ななくてもよかった命を死なせる原因を作った。魔王と勇者の関係について日本情報軍や他の組織が知らなければ、こんなことにはならなかったのだ。神楽坂賢人は死ぬべきだ」


 凛之助ははっきりとそう言った。


「そうかもしれない。それから連続殺人鬼の正体も掴めたよ。東海林大河。ここに顔写真もある。とはいっても姿を消す殺人鬼の行方を追うのは難しいけどね」


「その情報はどこから?」


「アングラ界隈で情報が流出しててね。リンちゃんの情報も、その、流出していた。名前だけだけど。日本情報軍がこんなことをするとは思えないから、恐らくは鏡花の仕業かな。鏡花が何を考えてこんな情報流出を引き起こしたのかはわからないけれど」


「単純だよ、夏姉。勇者たちに殺し合いをさせるためだ。勇者たちの情報を漏洩させ、勇者同士で殺し合うことを促す。そして、最後のひとりを鏡花という女が殺す。そういう筋書きだろう」


 こっちもやるべきことをやるべきだと凛之助は言う。


「天沢アリスと京極鏡花の丈夫をネットに流そう。正体が漏洩すれば、行動はしにくくなるはずだし、何よりこっちの情報だけが漏洩して、向こうの情報が漏洩していないというのは面白くないものだ」


「オーケー。やっちゃおう」


 夏妃はパソコンを操作し、天沢アリスと京極鏡花の情報をアングラ界隈に流す。タイトルは『この前の続き』と凛之助たちの情報漏洩と関連付けられたものだった。


 ネットを瞬く間に情報が拡散していく。


『これって指名手配犯じゃね?』


『情報テロリストだよな』


『デマだよ、デマ。騙されんな』


 そこで雪風のアバターが現れる。


『ネット上で不特定多数の匿名エージェントの活動を確認。京極鏡花の情報を消そうとしています。デマ、フェイクニュースなどと言って情報の信頼性を下げようとしています』


「日本情報軍はこういう時どうする?」


『彼らも匿名エージェントを動員して書き込みの流れを誘導するかと』


「じゃあ、私たちもそうしよう。雪風、情報は確かだという方向に動かして」


『分かりました』


 雪風のアバターが消え、書き込みの流れが変わっていく。


 だが、それに対抗するように大量の荒らしが現れ、騒ぎ立てては偽情報を振りまく。


「まあ、日本情報軍や公安、民間警備企業といった連中が把握してくれればそれでいいか。雪風、ほどほどでいいよ」


『畏まりました。しかし、匿名エージェントのプログラムを組んだのはマヘルですね。文章に一定の規則性を感じます』


「マヘル、か。向こうにも雪風の姉妹がいるんだよね」


 夏妃はそう言って唸った。


……………………

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