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神楽坂賢人

……………………


 ──神楽坂賢人



 宗教法人古代神儀流。


 それは魔術を現代の地球で再現しようという取り組みを行っていた団体だった。


 魔術などとはと笑われるような団体だったが、教祖である神楽坂浩二は現代の科学では理解できない不思議な力を使っていたという。


 彼らは教祖である浩二と同じ力を手に入れるために、日夜修行に励んでいた。


 そこには魔術への異常な憧れこそあれど、暴力や金銭の取り立ては存在しなかった。


 彼らはカルト団体と呼ばれたが、決して犯罪には手を染めていなかった。


 なのに、なのにだ。


 日本情報軍特殊作戦部隊は古代神儀流を強襲して制圧した。そして、教祖である浩二を尋問し、あの不可思議な力は何か、いったい何に備えていたのかを聞き出した。


 それが日本情報軍が勇者と魔王について知ることになる最初の出来事だった。


 古代神儀流は備えていた。勇者と魔王の誕生について。


 この世界にも近いうちにそれが訪れるという予言を得ていたのだ。


 だから、彼らは励んでいた。来るべき秘密のときに影の争いを繰り広げるべく。


 だが、それはもう行われなくなった。


 日本情報軍は関係者を全て抹殺し、証拠として文章を押収していった。


 しかしながら、情報を知っていたのは日本情報軍だけではなかった。大井も研究目的のために陰で古代神儀流を支援しており、彼らが壊滅しことが、逆に彼らの正しさを証明したということを知ったのだ。


 こうして日本情報軍と大井が壊滅した古代神儀流の代わりに、勇者と魔王の戦争を繰り広げることになる。


 古代神儀流の名は忘れ去られ、勇者と魔王の戦争においても参加することはないと思われていた。


 だが、そうではなかった。


 生き残りがいたのだ。そう、よりによって教祖である浩二の息子である神楽坂賢人が生き残っていたのである。


 彼は屈辱を味わった。


 父を殺され、修行を共にした仲間たちを殺され、勇者と魔王の戦争の秘密は奪い取られた。これに屈辱を感じずして、何に屈辱を感じるというのか。


 賢人は報復を決意した。いつか自分の魔術で日本情報軍に深刻な一撃を与えてやろうと決意していた。


 しかし、表向きは死んだことになっており、真っ当な社会生活を送れるかどうかも怪しい賢人はまず働き口を探さなければならなかった。


 そこで賢人が目に付けたのが非合法な特殊清掃の仕事だった。特殊清掃そのものは合法な仕事だ。これが非合法となるのは、警察や民間警備企業の許可を得ず、証拠を隠滅する目的で特殊清掃を行うことだ。


 賢人はこの仕事に飛びついた。


 何故ならば死者の肉体からは魔力が得られるからである。


 死者の肉体からは生前の魔力が抜き取れる。特殊な修行を積んできた賢人はその魔力をストックし、来るべき決戦の日に向けて備えてきた。


 運命は本当に気まぐれであった。


 なんと、勇者のひとりに賢人は選ばれたのだ。


 何と残酷なことか。なんと幸運なことか。なんと悲しいことか。


 本来ならば仲間たちと喜び合うその刻印が手に現れたとき、そこには師匠である父も仲間たちもいなかった。ただ、賢人には日本情報軍の妨害をするという機会に恵まれただけであった。


 賢人は非合法な特殊清掃の仕事を続け、それで得た金でアングラハッカーから情報を買っていた。彼は行っている仕事の都合上、裏社会に顔が利き、非合法な手段で獲得された情報を得ることができたのである。


 彼は日本情報軍が罪もない少年を勇者だからという理由で殺させたことを知った。正確には日本情報軍の意向を受けた警察と民間警備企業だが、賢人にとっては同じことであった。腐ったクズどもだ。


 その警察や他の勇者について彼はやはりアングラハッカーから情報を得ていた。


「臥龍岡凛之助、百鬼直樹、東海林大河」


「ああ。ここ最近起きてる揉め事の中心人物らしい。臥龍岡凛之助は特に情報はないが、百鬼直樹は公安のデカ、東海林大河は大井の飼い犬らしい」


 アングラハッカーから情報を渡されて、その情報をよく賢人は吟味する。


「臥龍岡凛之助と東海林大河についてもっと情報はないのか?」


「あいにく、それだけだ。また情報が入ったら連絡する」


「分かった。これは礼だ」


「毎度あり」


 賢人は情報を吟味する。


「臥龍岡凛之助と東海林大河は情報が少なすぎる。これでは手の出しようがない。ここで狙うならば百鬼直樹か?」


 直樹は公安警察の捜査官として表立って活動している。警察署を見張っていれば、情報を得ることも可能だろう。


 そして、その情報を読んで、日本情報軍にどうぶつけるか、あるいは始末してしまい自らが選ばれし勇者になる道を選ぶか。賢人は父と仲間たちの思いを果たすために、日本情報軍に報復するために、この戦争に勝利することを望んでいた。


 戦争に勝つためには勇者を殺さなければならない。魔王を殺さなければならない。


 勇者も魔王も、日本情報軍も等しく始末するならば迅速に行動して敵に反撃の機会を与えないと言うことも考えられた。


 少なくとも公安の勇者と日本情報軍の勇者は結託している可能性がある。これ以上、共同戦線を張られる前に各個撃破することも重要だろう。いずれ公安と日本情報軍が決裂するとしてもそれは他の勇者たちが全て倒れた後かもしれない。


 そうなる前に日本情報軍と公安の勇者を排除するべきだ。


 公安の勇者をやれば、日本情報軍の勇者も出てくる可能性がある。今、賢人に選ぶことのできる選択肢はそれぐらいだ。


 賢人にバックには誰もいない。資金提供者も、軍事的支援者もいない。彼は彼ひとりで戦わなければならないのだ。


 となれば、選択肢はどんどん限られて行く。残された選択肢はあまりにも少ない。それでもなお、賢人は戦おうとしていた。


 彼には背負っているものがあるのだ。


 日本情報軍に殺された父にして師、同胞たち。


 彼らの思いを成就させなければ死ぬにも死ねない。


 賢人は今日も非合法な特殊清掃の仕事をしながら、魔力をストックし、来るべき決戦の時に備える。決戦の時はそう遠くはないだろう。


 その時勝利するのが賢人なのか、はたまた日本情報軍なのかは分からない。


 賢人は備え続ける。情報を可能な限り集め、天敵ともいえる警察署の近くで見張りを行い、直樹が姿を見せるのを待つ。直樹は未だ姿を見せない。まさか神奈川県警を離れたのかと思い始めたが、アングラハッカーによれば直樹はまだ神奈川県警の所属だ。


 苛立ちと焦りを感じながら、賢人は待ち続ける。


 そして、仕事帰りの偵察から7日目。ようやく、賢人は直樹の姿を確認した。


 賢人は追い始める。直樹の後を。


「見ていてください、父上。今こそ、我々の大願が成し遂げられるときなのです」


 直樹の後を追いながら、賢人はそう呟いた。


 だが、彼は気づいていなかった。


 彼自身が追われている立場であると言うことに。彼自身が勇者として追跡されているということに彼は全く気付いていなかったのだ。


 それは奇しくも同じ直樹を追う人間であった。


……………………

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