警察へのサイバー攻撃
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──警察へのサイバー攻撃
警察内に勇者がいる。
そのことはこの間の戦闘で明らかになった。
鏡花が動員したアーマードスーツでも倒せなかった相手を、警察は始末して見せたのだ。それは警察内に特殊な力を持っている人間がいる証拠である。
「って、考えたんだけどさ、どう思う、マヘル?」
『警察内の勇者の可能性は否定できないものかと。通常なら民間警備企業が対応するはずの対テロ作戦に警察が出てきたのも怪しいですね』
鏡花はマヘルに持論を述べるとマヘルはそれに賛同した。
「そうそう、怪しいんだよ。警察に勇者がいるなら納得できる話なんだけどね」
警察の勇者をどうやって探し出すか。
「とりあえず、警察庁のサーバーをハックして情報を抜き取るか。そうして解析にかければ分かる話だろうし」
『イエス、マム。警察庁のサーバーの守りは脆弱です。以前入手した軍用ワームを使えば容易に突破できるでしょう』
「オーケー。思い立ったが吉日。善は急げだ」
鏡花は早速警察庁のサーバーに攻撃を仕掛け始めた。
「セキュリティホールは、と。熊本県警の防壁が脆弱だね。ここから仕掛けよう」
鏡花は熊本県警のサーバーから軍用ワームを仕掛け、熊本県警のサーバーから警察庁のサーバーへと攻撃を仕掛ける。流石に警察はブラックアイスの類を使っていない。セキュリティにそのようなものを使うのは、ごく限られた団体だけだ。
鏡花は順調に警察庁のサーバー内に侵入していく。日本情報軍の軍用防壁に比べれば豆腐のように脆いセキュリティを突破しながら、警察庁のデータベースにアクセスする。そして片っ端から情報を読み込んでいく。
「データベースのダウンロード完了。銃器のID付けから、発砲者を特定。人事情報から不審な人事を検索。マヘル、よろしく」
『了解しました、マム』
マヘルがデータベースを検索していく。
「何かあった?」
『事件時に発砲された銃は多数。しかしながら、対テロ部隊の所属ではない人間が発砲した記録が残っています。神奈川県警に出向中の警察庁の公安警察です』
「そいつは怪しい。疑うべき対象だ。名前は?」
『百鬼直樹。報道ドローンをハックした情報から分析しますと、事件当日にも現場に姿を見せていたようです』
「ふうむ。公安ね。あたしの天敵だ。しかし、まあ、遠慮なくぶち殺せる相手ではある。公安の捜査官を殺すのに躊躇は不要だ」
鏡花はそう言いながらエナジードリンクを飲み干した。
「ただし、こいつの身元は日本情報軍にも割れているだろう。大井の方にも割れているはずだ。民間警備企業のボスである大井が、民間警備企業とつるんで行動していた刑事の正体に気づかないはずがない」
既に鏡花は大河が大井とつるんでいることを把握していた。
というのも、先に夏妃が大井のサーバーに仕掛けて、ブラックアイスまでを解除していたからだ。その後、鏡花は大井医療技研に仕掛け、大河に軍用義肢が移植されたのを知った。連続殺人鬼と大井が結びついていることを知ったのだ。
大井もこの戦争に参加している。
鏡花の憎むべき民間警備企業のボスである大井が参戦しているという事実に、鏡花は倒すべき敵が増えたと感じていた。
日本情報軍、民間警備企業、そして公安。
それらは全て情報テロリストである鏡花の敵だ。
「夏妃ちゃんはどうする気かな? 公安の捜査官を夏妃ちゃんは殺せる? いや、殺すのは弟君か。できるかね。正義の番人とやらを殺すことをさ。まあ、あたしは余裕で殺せるけどね。ただ、今やっても日本情報軍なんかの連中を楽させてやるだけだからやらないけれど」
公安と日本情報軍で殺し合ってくれるなんて好都合じゃないかと鏡花は言う。
「問題は日本情報軍と公安は一時的にでも手を組んであたしを潰しに来ること」
『可能性としては皆無ではありません。日本情報軍、民間警備企業、公安は連続殺人鬼を捜査するのに手を組んだ痕跡があります。それぞれの思惑あってのことでしょうが、放置はできないと思われます』
「だな。となると、連中を内輪もめさせる必要があるわけだ」
何かいいアイディアがないものかねと鏡花が頭を巡らせる。
『マム。アイディアと呼べるものではありませんが、混乱を呼ぶだけならば、欺瞞情報を流すというのも手かと。マムの組んでいるメティスに協力を仰ぎ、メティスに関する欺瞞情報を流すのも手かと』
「欺瞞情報ねえ。確かに方法のひとつではあるけれど、さ。しかし、メティスが納得するかね。連中は情報テロリストである私を支援しているだけでリスクを抱えているんだ。それが欺瞞情報まで流すとなるとね」
鏡花がそう言って呻く。
「しかしまあ、メティスにも協力はしてもらわないとな。何かしらの釣り餌をたらして、獲物を釣り上げるってことだな」
『しかし、それでは日本情報軍と公安、民間警備企業の連携を防げません』
「分かってるよ。ちゃんと手は考える。しかし、しかしだ。全ての勇者が確認できたわけじゃない。それが問題だ」
そう、勇者の正確な数は分かっていないのだ。現状、把握できているのは魔王として凛之助、日本情報軍、大井、そして鏡花。一匹狼だった宰司は死亡した。だが、本当に勇者の数がこれだけだという保証はない。
勇者は5名から7名はいるという話だった。それにしてはこの数は少ない。
どこかに今も息を潜めている勇者がいる可能性がある。
「メティスの言うことを全面的に信じるわけじゃないけど、連中が嘘を吐くメリットもない。連中はあたしにこの戦争に勝利してもらい、魔法とやらが見たいみたいだからね」
メティスの要求ははっきりしていた。彼らは鏡花を支援する見返りに、魔法というものを観測する。魔法という奇跡を彼らは見たがっていた。
「残りの勇者が不安定要素になる可能性もある。今は全員の手札が出揃うまで様子見しといた方がいいかもね」
『同意しますが、このまま膠着状態が続く可能性も否定できません』
「もちろん、全く動かないわけじゃない。勇者の情報を盗み出して、アングラ界隈に流す。それで勇者同士が互いを認識して殺し合ってくれれば万々歳」
『なるほど。一理あります』
「まあ、そういう方針で行こう。可能な限りの時間稼ぎ。直接対決は避けつつ、勇者の数は着実に減らす。そういう方向で行こうじゃないか」
『イエス、マム』
鏡花はこうして様子見状態に入り、勇者たちの情報を集め始めた。
日本情報軍のサーバーにはハッキングは不可能なので、アリスの情報は手に入らない。だが、直樹の情報は手に入ったし、その捜査記録から東海林大河の情報を入手することもできた。
アングラ界隈に鏡花は勇者の情報を流す。
凛之助、直樹、大河。これらの情報が流された。
直樹と大河は顔写真もつけて、これら勇者を殺せば願いが叶うという胡散臭い情報も付け加えておく。これで下準備は完了だ。
後はこの情報を見た他の勇者がどう行動するかを見届けるだけだ。
まだ正体をつかめていない勇者が釣れれば儲けもの。そうでなくとも勇者は顔が知れ渡れば行動が困難になるはずだ。
「さあ、あたしのためにしっかりと行動してくれたまえよ、勇者諸君」
そして、この情報を見た勇者のひとりは行動に入ろうとしていた。
まだ誰も把握していない、未知の勇者が行動を起こそうとしていたのである。
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