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竜退治

最終話です

 俺達は赤い竜が眠る山を目指した。途中で何匹かモンスターに遭遇したが、勉子と無道が簡単に倒してしまった。


 織田はナナリンで応援だ。なぜか不思議と癒される。たぶん俺も魔法少女ナナリンが好きだからだろう。フィギアを持ち歩くほどではないが。


「はーはははは! 筋肉がここまで役にたつとは」

「無道くんってば~、あたしのスキルのおかげだよ~」

「ナナリンの応援も癒されるよね」

「そうね。でも三人とも、最強魔法使いの私をわすれてない?」

「「「さすが勉子様!」」」

 

 楽しそうに話す四人の後を、俺は申し訳なさそうについていく。なぜ俺だけスキルが発動しないのだろう。



 そうこうするうちに俺達は竜の目の前までやってきた。眠っていた竜は、俺達の存在にすぐ気が付き、警戒し唸っている。俺は今まで戦ったモンスターとはレベルが違う事を肌で感じ取っていた。


「いくわよ。言いたくないけど、スキル英単語『Muscle Max』」

「がんばって~無道くん。スキル竹刀~」

「任せろ」


 無道がきららさんの竹刀を振り回し、勉子から竜の気を逸らすかのように大声で竜の周りを走り回った。さすが運動神経の良い無道だ。竜が放つ炎を巧によけている。その隙に勉子が竜の傍まで駆けていった。さらに気が付かれないよう、スキル英単語で姿まで消している。慎重な勉子らしい。



「スキル英単語!『death』」

 

 だが勉子がデスを唱えても、竜はびくともしなかった。ギロリと足元の勉子を睨みつけている。どうしてだろう。姿を消す魔法を使っているのに。


「勉子、にげろ!!」

 

 無道が大声で叫ぶと同時に、竹刀で竜を思いっきり叩いた──が、竹刀はぐにゃりと曲がっただけ。赤い竜は蚊に噛まれたのか? と言った顔で無道を容赦なく蹴り飛ばした。


「無道君! スキル英単語!『Healing』」


 勉子が慌ててヒールを唱えた。無道はなんとか死を免れたが、それ以上ヒールができなかった。勉子に竜が炎を吐いたからだ。勉子は慌ててシールドを唱えたが、炎の風圧は強く吹っ飛んでしまった。


「勉子さん!」

「私なら大丈夫。でも単語帳が……」


 勉子の単語帳が真っ赤に燃えていた。


 無道は意識はあるが怪我で動けない。

 勉子の単語帳は燃えてしまった。

 きららさんの竹刀は曲がってしまった。そもそも竹刀では竜にダメージは与えられない。

 織田のスキルはナナリンの応援だけ。


 絶望した俺達を竜が冷たい目で見降ろしてくる。俺達はその先にある、確実な死を悟った。


──なんだよ。これ。宿題ってレベルじゃないぞ。


 俺は自分の無力に腹がたった。悔しい。悔しすぎる。とうとう俺は「役立たずでごめん」と大声で泣き出してしまった。


「半田君、諦めないで。スキルはあなただけ発動しなかった。もしかすると発動条件があるのかも」

「そうだぞ半田、お前はいざって時に何か思いつく奴だ」

「泣かないで半田君。僕だってナナリンを動かすだけだった」

「あたしだって見てるだけだったよ~」


 みんなの言葉に俺はじんときた。C班は個性が強すぎてまとまりがないが、仲が悪いわけじゃない。


「でもどうするの? 私の単語帳は燃えてしまったわ。あるのは手の中に残った『重い』という単語だけ」

 

 勉子が焼け焦げた単語帳の紙切れを見せる。その文字は俺の中でピカーンと光った。


「みんな俺を信じてくれないか?」


 俺の言葉に皆が注目した。


 そうだ俺のスキル。俺のスキルはきっと。


「スキル『心を一つに』」


 これは発動するものじゃない。元から俺が、俺達が持っていたものだ。俺の中でみんなの精神、心がつながる感覚がする。俺の能力はきっと精神世界の共有化。個性がないから発動条件が必要だったんだ。条件は『心が一つ』になること。


「織田、悪いがナナリンを使わせてくれ」

「やだよ」


 心を一つにって流れをさっそく折るな。


「人のように動くナナリンを見たくはないのか?」

「よしやろう!」


 さすが織田。欲望に忠実だな


「無道、お前のスキルヤクドーで、ナナリンを巨大化させてくれ。人形の硬い体を生きた人のように柔らかく柔軟に動く様を想像すればいい」

「巨大化はまかせろ。だが柔軟さは無理だ。俺にそんな想像力はない!」


 また折ってきた。


「無道君大丈夫だよ。僕が指示する。ナナリンの柔らかさなら熟知してる」

 

 織田が爽やかに微笑む。言ってる事はあれだが心強い言葉だ。そうこうしてる間にナナリンが巨大化した。織田が天才的感性で、無道に指示すると、ナナリンは生きた人間のような柔らかさになり、織田の力でなめらかに動きだした。


「半田く~ん。あたしは何をすればいいかな?」

「きららさんは竹刀をナナリンに持たせて」


 はいときららさんがナナリンに手渡した。その竹刀を無道がいい具合に巨大化させる。魔法少女ならぬ魔法剣道部、ナナリンだ。案の定、織田が文句を言いはじめた。


「織田、忘れたのか、この曲がり具合。ナナリンの師匠の杖とそっくりだろ?」

「そうか!僕としたことが、巨乳師匠を忘れるなんて」


 なんか知らんが織田のテンションが爆上がりした。


「私はどうすればいいかしら?」


 勉子が自信なさげに言う。


「勉子さんは俺が合図したら唱えてくれ」

「わかったわ」


 この間、僅かコンマ0.0001秒。心を一つにした皆が、俺のスキルで精神世界が繋がったからこそできる技だ。普通にしゃべってたら今頃、死んでいる。


「いくぞ! みんな!」

「「「「おお!」」」」


 ナナリンが俺の合図で走り出した。織田がバックミュージックとばかりに、ナナリンの主題歌を歌い踊りだす。ナナリンが織田の動きに合わせるかのように踊り、竜を牽制し始めた。竜は負けまいと炎を吐いたが、ナナリンが軽やかによけていく。巨大化したフィギアだが、重量は小さい時のままで軽いからだ。素早さにおいては圧倒的にナナリンが上だろう。


「よし攻撃を始めるぞ。きららさん!」

「まかせて~ スキル竹刀!」

「いいぞ。無道! 竹刀をムチのように伸ばしてくれ!」

「まかせろ。lスキルヤクドー」


 曲がった竹刀が、ぐにゅぐにゅ~と勢いよく伸びだした。


「織田! ムチを竜に巻き付けるように動くんだ」

「OK。スキル! いくよナナリン。師匠最高奥義、女王様の鞭でムチムチムチーン」

 

 いや、そんな技はなかっただろう? まぁいいけど。


 だが織田のアレな技名に「なにそれ?」とばかりに竜が一瞬怯んだ。その隙を縫うかのように、ナナリンがぐるぐると竜の周りをまわり、縛り上げていく。とうとう竜はステンと転倒した。


「やったぞ!」


 無道がよろけながらガッツポーズをとる。


「まだだ」

「なに!」

「やだ~。竹刀がちぎれてく~」

 

 竜の力は圧倒的だった。あと10秒もしないうちに竜は自由を取り戻すだろう。


「だがな竜よ、俺達のヒロインをもう一人忘れてないか? ナナリン高くジャンプしろ!」

「え!! わ、わかった。ナナリン、絶対領域でスーパージャンプだ!」


 シュウウーンとナナリンが高く飛翔する。織田の呪いか、ナナリンのスカートの中は見えなかった。くそう。期待してたのに。


「勉子さん 今だ!」

「スキル英単語『Very heavy』」


 ドスーーーーン。


 地面が割れる音がした。ナナリンの重量で竜はぺっしゃんこになり───。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「三年四組の諸君、明日から夏休みだ」

 


 どこかで聞いた声がする。俺ははっとなって周囲を見渡した。どうやら教室で寝ていたらしい。


──まさか夢だったのか? 夢にしてはリアルだったが、リアルにしては夢のようだった。


 そう思ったのは俺だけではなかったらしい。勉子、無道、織田、きららさんも俺と同じようにきょろきょろと周囲を見ている。



「C班、君たちに


「まって、もう竜退治は勘弁して」


 俺の絶叫に先生はきょとんとした顔をすると「もう竜はいないぞ」と笑いだした。


 やっぱり夢か。

 

 安心した俺は、ぐてんと机の上に突っ伏した。だから先生の赤い尻尾がご機嫌そうに揺れたことに、気が付く事はなかった。

 




☆☆☆☆


幕外


勉子「私、思ったんだけど、私のスキルで『帰還』って唱えればよかったんじゃ」


一同「!!!!!!」



FIN

最後まで読んでいただきありがとうございました。作者モチベーションの為にも、楽しんでいただけましたら評価、感想など頂けると嬉しいです。

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