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転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 23.5

 ――母との思い出は、あまりない。


 顔立ちがハッキリとしてきて、僕の醜さに周りが離れて行っても、母は僕の傍にいた。結局、彼女もまた、僕を避けるようになったけれど。

 故に、僕の中では、その頃の母で止まっている。随分と長い間、直接会っていないから、今、どんな人になっているのか、僕には想像することしかできないのだ。


 細々と入ってくる情報では、記憶の中の母とは全然違うので、今はもう、僕が知っている母ではないのかもしれない。

 そんな母の元へ、ロディナを向かわせてしまった。一人ではないし、僕が行かないことこそが最善だと分かっていても、落ち着かない。

 気を紛らわせるために、仕事をしてみようと思っても、全然駄目だった。書類の一行目から、もう頭に入ってこない。


 結局、僕は部屋で大人しく待っていることができずに、気が付けば、本館へと続く渡り廊下への扉の前で、一人立ち尽くしていた。


 彼女は無事だろうか。

 話を円満に終わらせることができるだろうか。

 ――もし、ロディナに危害が加えられたと、本館の使用人が僕の元へ報告に来たらどうしよう。


 そんな不安ばかりが、僕の頭を支配する。

 落ち着かない中でも、ロディナを待ち続けて、どのくらい経っただろうか。


 話し声と共に――ロディナの姿が見えた。

 少しばかり、しかめつらで、テルセドリッド王子と会話をしている。……話し合いの結果は、あまりよいものではなかったのだろうか。

 でも、ロディナに怪我は見られない。茶をかけられただとか、そういう違和感もない。流石の母でも、そこまでしないと思うが――無傷で帰ってきただけでも、十分だ。


 テルセドリッド王子に指摘されたのか、ロディナがこちらに気が付く。パッと彼女の表情が明るくなった。国一番の美人だと称されている王子よりも、僕を見て目を輝かせるだなんて、やはり、彼女は少し変わっている。

 結婚式での、彼女の覚悟を甘く見ていたわけではないし、僕への感情を疑っているわけでもないが、改めて見ると、不思議に思わずにはいられないのだ。


 目を輝かせてくれるのはいいのだが、こちらに駆け寄ろうとしていて、ノルテに止められていた。転んだらどうするんだ……!

 代わりに僕が彼女に近寄ると、ロディナは僕の両手をとって、にっこりと笑う。


「ただいま戻りました、ディルミック。まだまだ和解には遠いかもしれませんが、なんとか話をつけられました」


 その言葉に、僕はロディナの手を握り、安堵の息を吐く。その息の深さに、ずっと息が詰まっていたのだと、ようやく気が付いた。


「おかえり、ロディナ」


 その言葉を、彼女に伝えられて、僕は情けなくも、少しだけ、泣きそうになった。

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