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転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 08

 夜になり、わたしはメルセンペール夫人から、直接仮面を受け取った。目元だけを隠すタイプのものである。

 仮面舞踏会、ということで、ダンスの一つも踊れないのにいいのか、とは夫人に伝えたのだが、楽しんでくれればそれでいい、とメルセンペール夫人から言われている。社交辞令か、本心かは分からないけれど。


 でもまあ、仮面を付けている、ということは、仮に相手が分かったとしても、追及しないという暗黙のルールの元開催される舞踏会のはず。多少失敗しても何とかなる……のかなあ。

 ……うーん、帰ったらダンスのレッスン、お願いしようかなあ。今はまだ、義叔母様に礼儀作法の方と文字の方を教えて貰っているので一杯いっぱいだが、一曲くらい踊ることができた方がいいんじゃないか、とちょっと思う。

 ディルミック自身が社交界に出ることはほとんどなくて、付きそうことになるわたしも、自然と社交界に出ないことにはなるのだが、一曲くらい踊れるようになっても損はないんじゃないだろうか。


 そんなことを考えながら、控室にいるディルミックと合流する。


「……珍しい色を着ているな」


 ディルミックはじっとわたしを見ながら言ってきた。

 ドレスは大体紫だし、普段着のワンピースも寒色のものが多いので、確かにディルミックに見せる服としては、珍しい色だと思う。


「その……上手く言えないが、そういう色も、いいんじゃないか」


 仮面で視界が狭くなっているのが惜しい。ディルミックの耳がほんのり赤くなっているような気がしたが、よく見えない。


「ありがとうございます」


 言いながら、わたしはディルミックを見上げた。

 ディルミックはよくこんな視界で生活出来るものだ。わたしだったら絶対に階段を踏み外したり、足を変なところにぶつけたり、はたまた、人に気が付かない未来が簡単に想像出来る。慣れればまた話は別なんだろうか。……慣れる気がしないな。


 慣れと言えば――。


「ディルミックが顔を出しているのもいいですけど、やっぱりそっちの方が見慣れてる感じありますねえ」


 仮面舞踏会、というだけあって、ディルミックは普段の格好に逆戻りである。目元を隠す、デザインの凝った仮面をつけた公務スタイルではあるが。


「まあ、自前だしな」


 どうもしっくりくる、と思っていたが、自前だったか。

 ディルミックの顔面はいつまで見ても飽きない美形だと思うが、仮面で隠されているとちょっと安心感がある。どきどきが多少収まるというか。美人は三日で飽きる、というがあれは絶対嘘だな。

 美人でなおかつそれが好きな相手であれば、見慣れることすら難しい。


 ……というか、今気が付いたが、わたし、かなり人生の勝ち組なのでは……?

 金と地位を持ち、(わたし視点ではあるが)美形の男と結婚し、相思相愛……えっ、勝ち組すぎないか?

 前世の死因や、前世から引継ぎ今世にいたるまで親とのごたごたで恋愛観がこじれた自覚はあるが、それを差し引いても大勝利な気がする。


「そろそろ会場に――ロディナ、どうかしたか?」


 ちょっと考え込み過ぎたらしい。わたしが緊張しきっていると勘違いしたのだろうディルミックが、心配そうにわたしを見てくる。


「ディルミックと結婚出来てわたしは幸せ者だな、と改めて噛みしめていました」


「きゅ、急にどうした?」


 ディルミックが混乱している雰囲気が、伝わってくる。まあ、確かに話の流れからしても突飛すぎるか。

 一から説明するのもちょっと照れくさくて、そんなことよりさっさと会場行っちゃいましょう、と言おうとしたわたしの耳元で、ディルミックが小さく「ロディナと結婚できた僕の方が幸せ者だと思う」とささやいてきた。


 めちゃくちゃなカウンターを食らってしまった。

 今のわたしは、仮面を付けていても分かるくらい、顔が真っ赤になっていることだろう。


 そういうところ、ずるいと思います!

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