転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 15
ノルテに案内され、わたしは本館の方へと移動する。こっちに足を踏み入れるのは、地味に一年ぶりだ。文字通り、結婚をするための契約書を書くために訪れたとき以来、一歩も足を踏み入れていない。そもそも用事がないし。
義叔母様は別館側に来てくれるし、どこか、屋敷の敷地外へ出るときも、本館を経由しなくても出入りできるので、わざわざ通る必要もない。
そんなだからか、同じ敷地内で、所有者も同じなはずなのに、本館は、なんだか他人の家のようで落ち着かない。必要最低限の質と装飾の別館と違って、華美で広い、いかにも貴族、という屋敷だからか、余計に違和感があるのかも。
王子を出迎えるための室に向かうと、あっという間に王子が到着し、迎え入れないといけなくなった。……どうやら、ノルテは本当に時間のギリギリまで、一緒にいることを許してくれたらしい。
王子に挨拶を済ませる。義叔母様にみっちりしごいて貰って、多少自信がついたとはいえ、よく、文字通りの王子様に挨拶ができるようになったな、と我ながら関心してしまう。
「――ところで、今日はディルミックは別館のほうにいるのかな」
本館のメイドがお義母様を呼びに行っている間に、わたしは王子の雑談に応じる。そんな中、ふと、王子がそんなことを言った。
「ええ、念のため。後で会われていきますか?」
ディルミックは最初、わたしと二人で王子を出迎え、途中で退席してからお義母様を呼びに行く、ということも考えていたが、万が一鉢合わせてしまったときのことを考えて、とその案は却下された。下手にお義母様を刺激して、今回の計画が駄目になっても大変だし、再度呼び出すにしても、今度はわたしの都合がいいとも限らない。
ディルミックや王子、お義母様の中では、わたしが一番予定があってないようなもので、いつでも対応できるにはできるのだが、一応妊婦なので、早く話が済ませられるには越したことがない。
「――……そうだね、時間があれば、合わせてもらうとしよう」
一応、ディルミックも王子と会うことを考えて準備しているから、無理ではないだろう。
……話がどのくらいかかるのか、分からないが。
――コンコンコン。
扉がノックされる。お義母様が来たのだ。
「――失礼します」
本館のメイドに連れられ、お義母様が入室する。
さて――ここからが、本番だ。
無事にわたしが新人メイドではなく、ディルミックの嫁であると説明し、納得してもらうのが第一目標。
そして、可能であれば、お義母様の味方であると、思ってもらうのも忘れてはいけない。
わたしは緊張を唾と一緒に、ごくりと飲み込んだ。




