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転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 14

 わたし自信はあまり準備することがなかったが、王子がくるということで、なんとなく屋敷の中が慌ただしいまま、あっというまに二か月が経った。


 というわけで、いよいよお義母様に会う当日になってしまった。今は、支度を終えて、ディルミックと一緒にいる。本当は王子が来る前に本館にいた方がいいのだが、到着の予定時刻のギリギリまでディルミックの私室にいさせてもらうことになった。

 ディルミックが心配そうにしているし、わたし自身、本館の方は慣れないので、できる限り別館にいたかったのでこうなった。流石に、王子が到着してから本館に向かう、ということはないけれど。

 ディルミックは仕事に手がつかないのか、わたしと一緒にソファへ座っていた。


 お義母様と会うと決まってから、最初のうちは、かなり緊張していたものの、時間が経つにつれて気にならなくなってきていた。

 というよりも、結構お腹が出てきて、そちらのほうに気を取られているので、緊張している暇がない、というべきだろうか。自分のお腹が、時折見かけた妊婦のようになっている、とはなんだか不思議な気分だ。

 お腹が重いのは結構生活していて大変だが、コルセットをぎちぎちに締め上げられない分、そこはプラスマイナスゼロだと思う。


 妊婦用のドレスなのか、腹回りは全然きつくないのに、そこまでお腹が目立って見えるわけではない。コルセットドレスの文化がさっさと廃れて、こういうゆったりしたドレスが流行ればいいのに。そうすれば、あれだけ苦しい思いをしなくても、気軽にドレスを着ることができる。コルセットドレスが嫌なの、絶対わたしだけじゃないって。


「こういうドレスの方が、絶対いいと思いません? デザイン重視もいいですけど、着やすさ重視の方がよくないですか」


「……君の普段着はいつもそんな感じじゃないか?」


 ディルミックに同意を得ようと話しかけたら、そんな風に言い返されてしまった。実際はそう。

 わたし自身、服にこだわりはないし、貴族のマナーは分からないので、基本的にディルミックとミルリに見繕ってもらっているワンピースを着ている。布地の質が全然違うのが一目で分かるが、デザイン自体は華美ではない。


 本当は、自分で選べるようになったほうがいいのは分かるけれど、細かいルールとか暗黙のマナーとか、分からないし……。貴族として公的な場所に出席するときは、義叔母様に丸投げだから、あんまり気にしなくていいのかもしれないけど。

 でも、ほら、やっぱり、服を一度買ったら限界まで着るわたしと、ある程度余裕を持たせて何十着と用意する貴族では全然感覚が違うというか。


 なんて、下らない話を考えていたら、部屋の扉がノックされた。


「奥様、そろそろお時間です」


 わたしがここにいることを知っているノルテが、部屋の外から呼んでくれた。

 ――もう、そんな時間なんだ。


「はぁい、今――」


 行きます、と立ち上がろうとしたとき、くっ、と服の袖を軽く引かれる。

 振り返ると、隣に座っていたディルミックが、わたしの袖を引っ張っていた。

 とても、不安そうな表情で。


「――……大丈夫、ちゃんと無事に帰ってきますよ」


 わたしは、座ったままのディルミックを軽く抱きしめ、あやすように優しく肩を叩いた。

 本当なら、わたしを一人にしたくないのかもしれない。ただ、積極的にお義母様に会いたいわけでもないだろうから、かなり複雑なのだろうとは思う。

 でも、わたしよりも緊張して、不安に思っているであろうことは、一目瞭然だ。


「それじゃあ、いってきます!」


 そんなディルミックを安心させたくて、わたしは精一杯の笑顔を浮かべた。

 作り笑顔は苦手だけど――ディルミックを安心させたいのは本心だから、きっと、上手に笑えたと思う。

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