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転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 12

 ――と、ディルミックを安心させようと頑張ったのはいいけれど、わたし自身、不安がないわけじゃない。結婚前の挨拶なんてイベント、前世でもこなしていないのだ。いや、もう結婚してるから正確には結婚前の挨拶じゃないんだけど。


 王子の婚約パーティーに出席できるくらいではあるから、多少は作法が平民時代よりマシになっているとは思うけれど、今回は隣にディルミックがいないのだ。婚約パーティーだって、出席したけど無事に終わってないし。ディルミックが助けてくれなければ終わってたよね、わたし。


「……というわけなんですが、どうしたらいいんでしょう?」


 そんなわけで、わたしは文字を教えに来てくれていた義叔母様に、洗いざらい全て話していた。事前にディルミックには義叔母様に今回のことを伝えるむねを許可してもらっている。王子からの手紙を『郵便事故』ということにしておこう、と言い出したのは義叔母様なので、知らせないと後々困るかな、と思ったのも事実。


 わたしの話を聞いた義叔母様は、呆れた様にこめかみと額の間を押さえていた。頭が痛いポーズだ。


「まさか王子の手を煩わせることになるとは……」


 それはもう、深い溜息が聞こえた。

 無理もない。明らかに頼られることを望んでいても、相手が相手なのだ。そう簡単に声をかけていいわけではなかっただろう。まあ、本当にまずければディルミックが止めているはずなので、そこまで深刻でもないのだろうが。


「……実際、義叔母様から見て、お義母様とディルミックの関係って、どう、なんでしょう……?」


 ディルミックが言いたがらないことを、周りからあれこれ聞きまわるのは少し抵抗があるものの、明らかに主観が混じったことしか話せないのでは、見方に偏りができてしまう。わたしはディルミックの味方のつもりだから、実際がどうあれ、彼についていくつもりだけれど、妄信し続けるのはちょっと違うと思う。


「――……最悪、と言ってもいいでしょうね。貴女にはあまり分からないことかもしれないけれど、貴女がここにこなければ、カノルーヴァ家は途絶え、新しい家がそっくりそのままカノルーヴァ領を治めるか、領地を分けて近隣の領主の土地にしてしまうかのどちらかになったでしょうから、あの子しか男児を産めなかったお姉さまがどれだけ大変だったことか」


 カノルーヴァ家の始まりが、王族であることはディルミックから聞いている。その血筋が途絶える、というのは、なかなかに縁起が悪い、ということなのだろう。ディルミックが必死になって、平民からでも嫁を取ろうとしたのがいい証拠だ。

 分かってはいたけれど、いざ、義叔母様の口から聞かされると、事の重大さがよくわかる。


「……でも」


 少し、義叔母様の目線が動く。泳いでいる、というよりは、辺りを警戒している、というところだろうか。この別館は使用人が限られているので、わたしたちの会話を盗み聞くような暇人はいないと思うが。


 それでも、義叔母様は、周囲を警戒しながら――。


「希望がないわけではないと、思うのよ」


 ――そんなことを、言った。

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