転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 09
わたしは窓のすぐ横から、下を覗き見る。この角度なら、下からは多分、見えないはず……。
窓の下を見ると、一人の女性が立っていて、変わらず、きょろきょろと辺りを見回していた。こっちを見る、と思ったけれど、気のせいだったのかもしれない。もしくは、一瞬見て、わたしが隠れた後だったから気にせず元に戻った、とか。
バレないように気を使いながら彼女のことを観察する。
髪は金髪で、目の色は流石に分からない。着ている服は、かなりフリルがついている、贅沢な部屋着、というところだろうか。ワンピースタイプだからか、スカートの裾だけみれば、ドレスと勘違いしてしまうのも納得できる。幼い顔立ちの女性は美人なこの世界。幼い顔立ちである女性は、大抵、その素材をいかそうと、服装周りも幼めになる傾向がある。義叔母様がまさにそんな感じ。
おそらく、十中八九、あの服は、先日、温室で出会った大奥様のもの。
ちらっと顔を見た限りでは、義叔母様に似ている。髪を下ろしている分、義叔母様よりは大人びて見えるけれど、それでもようやくわたしより少し上に見える程度。
顔を正面から見たわけじゃないから、あくまで見えた部分と感じる雰囲気からの判断になってしまうけれど、ディルミックの年齢の子供がいる女性には見えない。というか、そもそも経産婦であること自体が信じられない。
……これは、相当美人な部類になるのでは……。
わたしとしては、髪が綺麗で豊満な体の女性が美人と言われたら納得できるけれど、幼いスレンダー体形が美人と言われたら、微妙に納得できないところではある。どっちかっていうと可愛い、になると思うのだ。
でも、この世界の女性の美観で言えば、かなりの美人になる、はず。
じっと彼女を観察してしまっていたわたしだが、ふと気が付く。
……あの人、何を探しにここへいるんだろう。
ただ、ふらっと立ち寄った、という感じではない。あちこち立ち止まっては、周囲を確認していて、明らかに何かを探している。
「まさか……」
――新人メイド(嘘)のわたしを探している、なんてことは……。
あの人がいる場所は、普段ならばメイドが通る場所。だから、新人メイドがあそこに居てもなんらおかしくないのだ。わたしは新人メイドじゃないから、あそこには行かないけど。
しばらくうろうろとしていた彼女だったが、ようやく諦めたように肩を落としながら、本館の方向へと向かっていった。
その姿は、到底、気を病んで部屋にこもっている人には見えなくて――話し相手を探しているだけの、女性にしか見えなかった。




