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転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 06.5

 母に、僕を産んで良かったと、思ってほしいわけじゃない。母が、僕のことを嫌いで憎いままでも構わない。

 それでも、母の隣に、僕にとってのロディナのような人間がいてくれたら、と思わずにはいられないのだ。

 母も、そして、僕も悪くないと、言ってくれるような人間がいたら。母のことを想うと、そういう人間を、どうしても欲してしまった。


 母が、一番許されたかったであろう父は、もうこの世にいない。だから、今更母に味方ができたところで、母が慰められるかは疑問だ。

 でも、僕は、ただ味方になってくれるだけで、どれだけ心が救われるか、知ってしまったから。


「……それは、別に難しいことじゃありませんね。わたしは、ディルミックを産んでくれたことに感謝しているくらいですから」


 こうやって、僕の隣で笑ってくれる、彼女によって。


「問題は、そうやって感謝していることをどう伝えるかと、どう信じてもらえるか、ですねえ」


 あごに手をやりながら、考え込んでいる様子のロディナ。一番難しいのは、血を絶やす当主だと後ろ指をさされてばかりだった僕と、そんな僕を産んで散々非難された母を認めることだというのに。


「メイドの恰好をして、ついでに花の勉強もして、お義母様の味方アピールするのはやぶさかではないんですけれど、ノルテの反応的に、一対一で会わない方がいいんですよね?」


「それはそうだな」


 彼女が、母の味方にもなってくれたら、と考えなかったわけじゃない。だが、彼女を危険にさらし、傷ついてしまうというのなら話は別。

 僕が一番に守るべきなのは、ロディナと、僕たちの子供なのだから。


 ロディナもそれを分かってくれているのか、無理に、使用人に扮して母に会うという案を推し進めてはこなかった。

 こなかった、が。


「うーん、ちょっと大げさにしてもいいなら、心当たりがないわけでもないんですけど……」


 何故か、彼女はきょろきょろと辺りを見回し、僕ら以外がいないことを確認している。僕が別館にいる間は仮面を取るようになってから、僕の私室に近付く者は減った。元より、気負わずに僕の部屋にくる人なんてロディナくらいのものだ。

 ロディナは周囲を見てから、僕の耳元に顔を近付ける。


 こんな明るいうちから彼女の顔が近くにあることにどきどきしたが――ぼそぼそと耳打ちされる内容に、心臓が止まるかと思った。


「――っていうのは、どうです?」


「――……は?」


 母に会った、という報告を受けたときよりも、ずっと間抜けな声が、僕の口から零れ落ちた。

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