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転生守銭奴女と卑屈貴族男の飲酒事情 02

「――もう酒は終わりだ。さっさと寝ろ」


 僕は腰に抱き着くロディナを引きはがそうと彼女の腕に手をかける。彼女が寝てしまえばそれまでだ。これ以上、何か言われたらたまらない。


「えー、やだ。もう少しお話したい」


「……ぐっ」


 甘えるように言われて、思わずうめき声が出る。

 いや、負けるな、僕。

 ここでロディナに寝てもらわなかったら、僕は酔っ払った女に手を出す駄目な男に成り下がってしまう。


「駄目だ、かなり酔っているだろう。明日にも響く、か、ら――、ッ」


 腰に回った彼女の腕が離れたから、油断してしまった。ぐ、と僕の肩に手を置き、そのまま起き上がった彼女が、僕にキスをしてきた。勢い余って、いつぞやのように歯が軽くぶつかりあうが、ロディナは気にする様子も見せない。

 一度、二度、と吸い付くようにキスをしてきたかと思うと――ぬるり、と何かが口の中に入ってきた。


「!?!?」


 熱くて、酒の匂いがするそれ。ロディナの舌だ、と気が付いたときには、彼女の舌は、ざらりと僕の上あごをくすぐった。


「――ふ、……ぅっ!」


 自分でも情けなくなるような、甘い声が思わずこぼれる。ごくり、と思わず飲み込んでしまった唾液は、もはやどちらのものか分からない。


 ――なんだこれ。

 こんなキス、僕は知らない。


 そもそも、僕とキスをしたがるような奴なんて、誰もいなくて、彼女にキスをするのだって、許可を取ってばかり。キスって、唇を合わせる愛情表現じゃなかったのか? たまたま読んだ本には、こんなもの、書いていなかった……!

 彼女の舌の動きはぎこちないのに、酒の匂いと彼女の吐息が混じって、ぐらぐらと腹の底が熱くなる。


 少しして、彼女が離れていくと、口の中がやけに寂しく感じた。


「――ふ、はっ。初めてやったけど、上手くいった?」


 ぺろり、と自分の唇をなめ、ささやくような声音で僕に問うてくるロディナ。これは何がどうしたら『上手くいった』なのだろう。

 ――僕を、彼女で一杯にする、というのが成功なら、とっくに上手くいっていると思うのだが。


「好き――ディルミック、好きです」


 ロディナは、甘えるように僕の肩口に数度、額を擦り付けたかと思うと、ぴたりと動きを止めた。


「……ろ、ロディナ?」


 軽く声をかけたが、生返事をするだけで、まともな反応はない。

 そして、すぐに寝息が聞こえてきた。


「……ね、寝たのか?」


 軽く彼女の体を引き離すと、それはもう、幸せそうな顔で眠っていた。

 僕はゆっくりと、彼女をベッドに寝かせ――深く溜息を吐き、頭を抱えた。


 助かった、には、助かった。ようやく寝てくれて、彼女に手を出さないで済みそうだ。

 済みそう、なんだが……。


「眠れないな、これは……」


 こんな状況で、平然と寝られるわけがない。一度、冷静さを取り戻すため、僕はコップと酒を持って、寝室を出て、自室へと向かった。

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