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転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 10

 案の定、なんだか妙な空気になってしまった。わたくしはなんと愚かなのか。

 ここまで来てしまったら、腹をくくって素直に謝ろう。変にもたついているから、気まずくなるだけなのだ。声を荒げたことを謝って、それから夕食のお礼を言う。それで終わり。わたくしならできる。わたくしはやれる子。大丈夫、大丈夫。


 ごくり、と唾を飲み込み、口を開いた。


「あ、の――」


「――はぁ、疲れた」


 わたくしがハンベルに声をかけるのと同時に、ベルトーニが扉を開けて、使用人室に入ってきた。タ、タイミング……ッ!

 思わずベルトーニの方を見ると、彼もこちらに気が付いたらしい。わたくしとハンベルの方を交互に何度か見ると、「アタシが先にお風呂使わせてもらうわ」と言い出した。


「アタシがお風呂に入っている間に仲直りしちゃいなさい」


 そう言ってベルトーニはサクッとわたくしの順番を奪って、お風呂場に入ってしまった。……謝罪とお礼を言って、すぐお風呂に行こうと思っていたのに。

 でも、もう彼はお風呂に行ってしまったから、今、文句を言うことはできないし、わざわざ追いかけて言うのも、なんだかハンベルに対して嫌味っぽくて言うことはできない。


「……声を荒げて、すみませんでした」


 ここで黙ったら、もっと謝りにくくなる、と思ったわたくしは、ハンベルが何か言う前に謝罪の言葉を口にした。


「いや、こっちこそ。ちょっと大人げないこと言って悪かった」


 ――……大人げない。別に、ハンベルはわざとその言葉を選んだわけじゃないだろう。だからこそ、その一言はわたくしに突き刺さった。

 でも、ここで何か言い返したら、折角謝った意味がない。後は適当に夕食の礼をして、話を切り上げてしまおう。

 そう思ったとき――。


「……え」


 ハンベルが随分と間の抜けた声を上げた。


「……? なにか」


 思わずわたくしは聞き返してしまった。彼を見れば、分かりやすいくらい露骨に動揺していた。どうかしたのだろうか。

 ハンベルはおろおろとした後、ふいに、彼が首にかけていたタオルを見る。何かに迷ったような視線でそれを見た後、端っこの方をわたくしの目じりに押し付けてきた。

 タオルの端の、濡れていないところを選んだようで、湿った感触はしないものの、ふわ、とハンベルの匂いがほんのりとするのが分かる。


 急に何を、と思うより先に、「ごめん」とハンベルが謝った。


「まさか、泣くほどあの店が大事だなんて、思ってなくて」


「――え?」


 今度はわたくしが間抜けな声を上げる番だった。

 ハンベルの言葉が簡単には信じられなくて、わたくしは目をこする。……確かに、ちょっと濡れていた。


 ……まさか、こんなことで泣くなんて。

 急激に失態を見られた気になったわたくしは、逃げるようにベッドのある部屋へと駆けた。

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