転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 08
「――あれ」
旦那様たちの夕食の後片付けを終え、ベルトーニからわたくしの分の夕食を受け取ると、なんだか今日は妙に普段より量が多いことに気が付く。
わたくしたち使用人の食事は、パンと旦那様の余りもので済ませることが多い。旦那様のメニューによっては、別で用意されることもあるけれど。
貴族の旦那様が口にするようなものだから、たとえ残ったものでも味は確かで美味しいのだが、旦那様に出せないような形の悪い部分や切れ端なんかを皿に載せるため、見た目はだいぶ悪い。そのはずなのに、今日は妙に形がいいようなものばかりだ。
スープはいつもよりも具がしっかり入っているし、ステーキは端の方とはいえ、結構形がしっかり残っている。当然、それでも旦那様に出すものよりは崩れているが。唯一、パンだけがいつもと変わらない。
わたくしが不思議に思っていると、ベルトーニが「ハンベルからよ」と教えてくれた。
「それ、本当はハンベルの分なの。でも、貴女に渡してくれって。貴女たち、喧嘩でもしたの?」
ハンベルは旦那様の護衛で、体が何よりも資本。カノルーヴァ家に仕える人間の中では、護衛の人たちが一番いいものを食べることができる。いざと言うとき、本領を発揮できない、では困るから。だから、メイドであるわたくしよりも、いい食事をしているのだ。
……これは、彼なりの謝罪なのだろうか。
ちょっとした言い合いで、先手を取られて謝られると、なんだか少し、居心地が悪い。きっかけは向こうなのに。
「……許してあげたら?」
ベルトーニが言う。
わたくしが公私混同をしないことを、彼は知っている。
だから、仕事に支障が出るわけじゃないけれど……でも、別館の使用人は人数が少ない分、どこかでちょっとした喧嘩が起きれば、それはすぐに全体の空気に関わる。本館の使用人たちのように派閥争いが存在しない代わりに、何か使用人の間で起きたことが一瞬で広まるのが別館だ。
わたくしがいつもと変わらない仕事をするとしても、なんとなく空気が悪い、というのがベルトーニは嫌なんだろう。本館と違って、こっちは逃げ場も何もない。
「……別に、喧嘩じゃありません」
自分でも、思ったより拗ねたような声音が口から出た。あまりの子供っぽさに少し恥ずかしくなる。
実際、ハンベルからしたら、十歳近く年下のわたくしなんて、子供以外の何者でもないだろう。
だから、多分、『あの約束』を彼は忘れているだろうし、そもそも、あのときだって、本気になんてしていないだろう。
これは、喧嘩じゃない。わたくしが一方的に拗ねているだけだ。
それでも、これをハンベルに突き返したら、余計に子供っぽい行動かもしれない、と思って、今日ばかりは大人しくこれを食べることにした。
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