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転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 05

 カノルヴァーレに到着した奥様は、楽しそうに街中をきょろきょろと見て歩いていたが、すぐに息を切らし、カノルヴァーレの階段の多さに嘆いていた。わたくしは意識をしたことがなかったが、外の人からしたら、この階段たちは、多い、という分類になるらしい。


 わたくしと同じくカノルヴァーレ出身のハンベルも全然疲れを見せていない。この街を出るようなことがあまりないわたくしたちにとっては、これが当たり前の光景なのだ。……ハンベルは、職業柄体力がある、というのもあるかもしれないが。


 この階段たちで階段遊びをしたのが懐かしい。どちらが早く階段を駆け上がれるか、とか、制限時間内にどちらがより多く階段を登れるか、とか。この辺りの平地は、荷馬車が多く通るので、階段の方がよっぽど安全で、大抵、子供たちは平地の大通りよりも階段で遊ぶ。それもあって、この階段の多さに慣れているのかもしれない。


 ……まあ、わたしと遊んでくれるような変わり者は、ハンベルくらいしかいなかったけれど。ただ、それはハンベルが優しいから、とかではなく、彼もまた、容姿によって仲間外れにされがちだったから、というのもあると、わたくしは思っている。

 結局のところ、周りから浮いている容姿の外れ者同士が組み合わさっただけだ。

 それでも、まあ、全く楽しくなかったかと言うと、嘘になる。けれど、全力で楽しんでいたか、というと、それも違う。

 いつだって、わたくしやハンベルの見た目が、もう少し周りと同じだったら、と思わない日はなかった。


「――よろしければ、奥様が行きたい店を教えていただいても? ご案内します」


 わたくしは、ぜぇぜぇと分かりやすく息が上がっている奥様を見かねて、そんな提案をする。行きたい店があるのに、なんとなく店を眺めている間に疲れ切っては可哀想だ。


「雑貨屋に行きたいな。何でもいいから、暇つぶしになるものが欲しい。ボードゲームとか、カードゲームとか」


 ……確かに、奥様は暇そうにしていた気がする。そういうものが欲しくなるのも無理はない。一緒にやる相手がいるとは思えないけど……まさか旦那様と? 流石にそれはないか。

 ここから近い、それなりに品ぞろえのある雑貨屋は――と、考えたところで、わたくしは一つの店を思い出していた。わたくしの思い出の店、と言っても過言ではないのだが……奥様を連れて行くのは少し気恥ずかしい。しかも、ハンベルがいるのなら、なおのこと。


 ――いや、今は勤務中。そんなこと、気にしては駄目。他の雑貨屋、となると、薄暗くて品ぞろえがあまり良くない、店主が気まぐれにしか開かないくらいしか近くにない。案内しても問題ない他の店は、少し遠い場所にしかない。


「――かしこまりました。ご案内いたします」


 わたくしは動揺を悟られないように、頭を軽く下げた。

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