転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 17
村につくなり、入口付近にある飲み屋のおばちゃんに気が付かれた。村唯一の飲み屋で、元わたしの職場でもある。この飲み屋でウエイトレスとして働いていたのだ。
飲み屋、と言っても、この店以外に外食出来るところなんてこの村にはないので、朝も昼も営業している。ただ、酒を出す夜に一番賑わうから、皆、飲み屋、と称しているだけなのである。
笑い皺が可愛らしい、ちょっと恰幅のいいおばちゃんだ。
「あらぁ! ロディナちゃん、久しぶりねえ!」
「はい、お久しぶりです。お元気そうでなにより」
隣国に嫁ぐから、と店を辞めたのが一年と少し前。おばちゃんと会うのも一年ぶり、ということになるのだが、少しも変わっていなかった。
隣に立つディルミックに、こっそり、「以前働いていたお店の方です」と教える。
この小さな田舎の村では、全員が顔見知りだ。前世の田舎の話として聞く、「よそ者を受け入れない」という陰湿な結束みたいなものはないものの、噂の広まりは一瞬だし、顔を見ただけで、どの家の誰、ということが分かる。
だから、わたしが村に来た、と知れ渡ったら、それこそ村人全員に声をかけられるつもりでいた方がいい、とは事前に言っておいたが、それでもやっぱり緊張するらしい。
村人は貴族に対して、「お偉いさん」とひとくくりにしていて、現当主の名前すら怪しい人がざらにいる。だからこそ、馴れ馴れしくしてくるとは思う、とも言っておいたのだが、それもやっぱり慣れないようだ。
確かに、言われていて、心の準備をしていても緊張するときはするものだし……ディルミックの生活からして、そもそも人と接すること自体が少ないようだしね。
「お、この人がロディナちゃんの旦那かい?」
「そうです。かっこいいでしょ?」
「……あんたは昔から男の趣味が変わってるねえ」
やんわりと否定された。まあ、美醜の価値観自体は世界共通だからね。そこは仕方ない。面と向かって否定はしないし、何を言うのも思うのも自由だが、同調してくれるかはまた別問題なのである。
でもいいのだ。わたしがディルミックを美しいと、好きだと思っていればそれでいいのだ。
というか、前世と美醜観が一緒だったらディルミックと結婚なんて出来なかったので。今の方が都合がいいまである。
「でも、ま、ロディナちゃんが幸せならいいんじゃないかい」
「そう――」
「はい、僕を選んでくれた彼女ですから、幸せにします」
そうでしょ、幸せなの、と言おうと思ったのに。ディルミックに先を越されてしまった。
ずるい!
顔に熱が集まるのが分かる。否定するのも嫌で、でも同意して、わたしも幸せにします、と言うのも、知り合いの前では流石に照れくさくて。
どうしようかと迷っていると、「お熱いねえ」とおばちゃんに言われてしまった。