転生守銭奴女と卑屈貴族男の髪型事情 02
「というわけで、髪を少し切ろうと思うんですよね」
寝る、少し前。こうやって二人でベッドに入って、雑談する時間が、一番ディルミックと話をすることができる。子供ができて、そちらを気にするようになってからは以前みたいに、仕事を詰め込むようなことはしなくなったものの、やっぱり落ち着いて話すとしたら、この時間が一番だ。夕食のときも比較的時間が取れるけれど、子供たちもいるし。
髪を切ること自体は、こちらに来てからも何回かはしている。と言っても、毛先を切りそろえるだとか、そう言った手入れのようなものだけで、長さ自体を大きく変えたことはない。
だから、気軽に言ってみたのだが……。
「――……どのくらい短くするんだ?」
ディルミックはあんまりいい顔をしていない。嫌そうだけど、わたしがしたいならそこまで徹底的に反対するわけじゃない、という感じ。
「義叔母様が伸ばした方がいいって言ったので、そこまで短くはしないですけど……。少なくとも、こちらに来たときよりは長いと思いますよ」
女の美人の一つでもある美髪。とはいえ、わたしってそこまでスタイルがいいわけじゃないし、髪の長さに明確な決まりがあるわけではない。
少し切ったくらいで、美人の間隔に変動があるとは思えないんだけど……でも、やっぱり気になるものなのかな?
「ディルミックは反対ですか?」
どうしても切りたい! 髪がうっとうしい! というわけではないので、彼が嫌がるのなら見送りだ。
「いや、そこまで反対したいわけじゃない。ただ……」
ディルミックは少し、言うのを迷っている様子を見せてから、「……その髪は、君がこちらに来てから伸ばしただろう?」とつぶやいた。
「――……」
わたしがこちらに来てから伸ばした分を切ってなくしてしまうのは、もったいないというか――さみしい、のだろうか。
そう言われてしまうと、わたしまで、切るのがとてつもなくもったいない気がしてきた。なんだかもう、すっかり切る気がなくなってしまった。
「やっぱり、短くするのやめました。近いうちに、髪留めを買ってきますね」
どうしても短いのがいいわけではない。エリリアの行動に付き合って、髪を絡ませて痛いのが嫌なのだから、全部結い上げてしまえばいいだけだ。
前からちょくちょく髪を縛ってはいたけれど、それを普通にすればいいだけ。毎朝違う髪型を要求するエリリアに比べたら、一つの髪型に決めてしまえば、この長さの髪だって結い上げるのも大変じゃないはず。
……あれっ、エリリアって、もしかして、結構我がまま……? やっぱりちょっと、教育を見直した方がいいのかな……。
子供のときくらいは自由にさせたい、と、よっぽどのことをしない限りは好きにさせていたけれど、それは上の子も同じなはず。……ああ、ジェリーナがいるからかあ。あの子、家族に対しては際限なく甘やかすから……。
「いいのか?」
そんなことを考えていると、ディルミックが問うてくる。やっぱり嫌だったのか、少し、声が明るい。
「わたしも、この髪がここまでになるだけグラベインにいたのだな、と思うと、惜しくなってしまいました」
まあ、流石に髪が伸びる長さにも限度があるし、これからも毛先を整えることくらいはすると思うけど。
グラベインにいた長さが、目に見えて分かると知ったら、長い髪も悪くない――いや、こちらの方がいいな、と思ってしまうのだった。
本編コミックス(コミックス版タイトル:お金が大好きな平民の私は卑屈貴族と契約結婚して愛し愛されます)三巻本日発売です!
是非よろしくおねがいします。
そして、更新頻度が元に戻ります。次は一年待たせないようにしたいです。




