転生守銭奴女と卑屈貴族男の記念茶事情 04
祝福、感謝、良き出会い。
今までお義母様が送ってくるものに比べたら、随分と優しげな花言葉だった。いや、今までが嫌がらせのようなものだったわけじゃないけど……。どことなく、わたしを信じていないようなことが透けて見えるような雰囲気の花ばかり贈られてきていたから。そうだったらいいんでしょうけど、と暗に言われているようなものがほとんどだった。
「きっと――認めてくれたんですね」
わたしの存在と、ディルミックが幸せに暮らし、愛される人になっていることを。お義母様の中で、折り合いが付いたのだろう。
今回は手紙こそ添えられていなかったが、手紙が来るとしたら、きっと、わたしが期待しているような言葉が並んでいることだろう。
ディルミックが幸せだと、醜いと差別されているだけではないとお義母様が知ったところで、お義母様の味方に本当の意味でなれたのかは分からないけれど。
それでも、少なくともディルミックを愛し、幸せにしたいと思っている人間がここにいることを、彼女に認めてもらえたことだし。ディルミックを産んだことを後悔しているというのならば、その後悔が、わたしの分だけなくなってくれたらいいな、と思う。
今更過去に戻って、当時のお義母様の味方にはなれない。
でも、これから先のことは分からない。少しでも、良い方向に向かえばいいな、とは思う。
初めてお義母様と会ったとき、メイドとして話し相手を求めていたことだし、それこそ、彼女の部屋に遊びに行って雑談を交わす間柄になる未来だって、あると思う。
……まあ、ただでさえ嫁姑問題って難しいし、ついようやく手紙で和解できたかも、という段階でそう考えてしまうのは、少々気が早いというか欲張りな気もするけれど。
でも、先は長いので。
これからの将来、何があるか分からないのなら、希望を考えるのは自由だ。
いろんな可能性があるけれど――きっと、わたしはディルミックの隣に居続けるだろうから、明るい『いつか』を想像するのも、当然のことと言えば当然だろう。
「……ありがとう、ロディナ」
本を軽く閉じ、わたしの肩に頭をのせるように、身体を預けてきたディルミックの頭を、わたしは軽く撫でる。
かがんだ分、ディルミックの顔がよく見える。普段は下から見上げることが多いので、新鮮な気分だ。
ほんの少しだけ、しわが増えたディルミックの顔。それだけ、彼と共に年を重ねたのだな、と思うと、愛おしくて。
彼が涙をこぼす前に、その目元にわたしはキスをしたのだった。




