表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/126

転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 07

 その日の夕食。無事にできあがった花束をジェリーナが運んで、父に手渡した。


「今日、父様たちの結婚記念日でしょう? 私たち皆で温室から花を選んで、ノルテに花束にしてもらったのよ!」


 花束を受け取った父は、驚きの表情を見せ、すぐに涙目になっていた。意外と涙もろい父の横で、母が一瞬固まり、それでも笑顔を浮かべている。……多分、エリリアが選んだ花に、すぐ気が付いたのだろう。ちらっとジェリクの方を見れば、彼もまたこちらを見ている。気が付いちゃったよ、とでも言いたげな視線を送ってきたので、間違いない。

 流石マルルセーヌ人、一瞬で複数の花がある花束の中から、茶に使う花を見つけるとは。

 それでも喜んでいる顔に嘘はなさそうなので、一安心だ。


「これとこれ、リアが選んだんだよ! それでね、それでね」


 父の腕をつかみ、寄りかかりながら背伸びをしているエリリアが、自分が選んだ花やリボンの説明を必死にしている。

 エリリアの話を聞いている父には渡せないか、と母の方に声をかけた。


「母上、これも」


「こっちはアリウスから?」


 俺から花束を受け取った母が、花束を見ながら俺に問う。しかし、俺は首を横に振った。


「いいえ。これは――……御祖母様から」


 数本の白い花をまとめた花束。リボンは少し迷って、祖母の髪色に近いものにした。何色でもいいとは思ったが、俺たちが選んだ花ではないから、なるべく彼女を連想させるものがいいと思って。色はともかく、リボン自体は、俺たちの花束と同じようにエリリアが選んだが。

 ぱちぱちとまばたきをし、驚きを隠せないでいる母に、俺は言葉を続けた。


「御祖母様は俺たちの花束と一緒にして欲しいようでしたが、こういうのはきちんと別にした方がいいかと思って」


「……会ったのか?」


 エリリアと話をしていた父が、こちらの話を聞いたのか、俺に問うてくる。声は少し硬い。

 やはり、祖母とは会わない方がよかったのだろうか。でも、故意ではないのだから、どうしようもない。

 危害を加えられたわけではなかったこと、俺たち自身が祖母に悪い印象を覚えたわけではないことを、どうやって伝えようか、と少し考えて、「笑い方が、父上に似ている人でした」と俺は言った。


「そうよ! 私なんて、目が父様に似てるって、褒められちゃった!」


「それは褒めているわけでは……いや、何でもない」


 無邪気に喜んでいたのが一転して、頬を膨らませたジェリーナに、父は最後まで言わず、口を紡ぐ。

 でも、少しして、「……そうか、笑っていたか」と、震えた声でつぶやいた。

 泣いているようだったけれど、でも、やっぱり、御祖母様と、笑い方が似ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ