転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 07
その日の夕食。無事にできあがった花束をジェリーナが運んで、父に手渡した。
「今日、父様たちの結婚記念日でしょう? 私たち皆で温室から花を選んで、ノルテに花束にしてもらったのよ!」
花束を受け取った父は、驚きの表情を見せ、すぐに涙目になっていた。意外と涙もろい父の横で、母が一瞬固まり、それでも笑顔を浮かべている。……多分、エリリアが選んだ花に、すぐ気が付いたのだろう。ちらっとジェリクの方を見れば、彼もまたこちらを見ている。気が付いちゃったよ、とでも言いたげな視線を送ってきたので、間違いない。
流石マルルセーヌ人、一瞬で複数の花がある花束の中から、茶に使う花を見つけるとは。
それでも喜んでいる顔に嘘はなさそうなので、一安心だ。
「これとこれ、リアが選んだんだよ! それでね、それでね」
父の腕をつかみ、寄りかかりながら背伸びをしているエリリアが、自分が選んだ花やリボンの説明を必死にしている。
エリリアの話を聞いている父には渡せないか、と母の方に声をかけた。
「母上、これも」
「こっちはアリウスから?」
俺から花束を受け取った母が、花束を見ながら俺に問う。しかし、俺は首を横に振った。
「いいえ。これは――……御祖母様から」
数本の白い花をまとめた花束。リボンは少し迷って、祖母の髪色に近いものにした。何色でもいいとは思ったが、俺たちが選んだ花ではないから、なるべく彼女を連想させるものがいいと思って。色はともかく、リボン自体は、俺たちの花束と同じようにエリリアが選んだが。
ぱちぱちとまばたきをし、驚きを隠せないでいる母に、俺は言葉を続けた。
「御祖母様は俺たちの花束と一緒にして欲しいようでしたが、こういうのはきちんと別にした方がいいかと思って」
「……会ったのか?」
エリリアと話をしていた父が、こちらの話を聞いたのか、俺に問うてくる。声は少し硬い。
やはり、祖母とは会わない方がよかったのだろうか。でも、故意ではないのだから、どうしようもない。
危害を加えられたわけではなかったこと、俺たち自身が祖母に悪い印象を覚えたわけではないことを、どうやって伝えようか、と少し考えて、「笑い方が、父上に似ている人でした」と俺は言った。
「そうよ! 私なんて、目が父様に似てるって、褒められちゃった!」
「それは褒めているわけでは……いや、何でもない」
無邪気に喜んでいたのが一転して、頬を膨らませたジェリーナに、父は最後まで言わず、口を紡ぐ。
でも、少しして、「……そうか、笑っていたか」と、震えた声でつぶやいた。
泣いているようだったけれど、でも、やっぱり、御祖母様と、笑い方が似ていた。




