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転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 06

 祖母がいなくなって少しの間は、妙な空気が流れていたものの、それに気が付かないジェリーナが場を仕切って花束を作り始めたものだから、だんだんと空気が元に戻っていく。まだ気まずい雰囲気は少し残っているが、エリリアがジェリーナのスカートの陰から出てきて花束づくりに参加しているあたり、もうそこまで嫌な空気は残っていない。


「これはこっちで……それは外側! 花だけじゃなく、葉も少し入れた方が、豪華に見えるかしら?」


 ジェリーナの言葉に従って、ノルテが着々と花束を作り上げていく。皆で手分けて採ってきた花は、結構な量になっていて、かなり大きな花束になりそうだ。まあ、結婚記念日を祝うものだから、下手に貧相なものよりは、派手な方がいいだろう。


「うーん、そこはリボンの色と合わせたいわね……。エリィ、どっちのリボンがいいと思う?」


「こっち!」


 俺や兄上、ジェリクが口をはさむ間もなく、どんどんと花束ができあがっていく。まあ、俺は花束の良し悪しなんか分からないし、兄上やジェリクも似たようなものだろう。分かる人間が楽しく作れればいいのだ。


 花束が半分以上できあがったところで、再び、祖母が現れた。

 その祖母の手には、数本の、白い花があった。真っ白、というよりは、少しだけ黄色みがある花だ。あんな花、この温室にあったのか……。

 顔を見られるのが少しだけ気まずくて、俺は若干顔を逸らす。幸い、祖母は俺が顔をそむけたことに気が付いていないようで、ちらっと目線だけで彼女の顔を見たが、顔をしかめている、というようなことはなかった。


「よろしければ、こちらも入れてくださらない」


 先ほどの、ひどく動揺していた様子は見られない。


「祝いの花なら、これも入れてもおかしくないでしょう」


「あら、素敵!」


 ジェリーナがその花を受け取る。見ているだけでひやひやするのだが、ジェリーナにそれが伝わっている様子は一切ない。


「……貴女の目。ディルミックに似ているのね」


 じっとジェリーナの顔を見ていた祖母が言うと、ジェリーナがパッと顔を明るくして笑った。


「ありがとう! 皆、私やジェリクは大叔母様に似てるって言うのよ。大叔母様は嫌いじゃないけど……でも、大好きな父様に似ているって言われる方が、ずっと嬉しいの!」


 ジェリーナの言葉に、一瞬、目を見開いた祖母だったが、すぐにその目が、柔らかく細まる。その表情は穏やかで、なんとなく、笑い方が父に似ている気がした。

 先ほどまでは、祖母と、どう接していいのか分からず、顔を見られるのですら妙に緊張していたが――今はもう、そんなこと、気にしなくていいのでは、と思えた。

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