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転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 04.5

 あの子がこんなところにいるわけがない。

 あの子がこんなに若く成長していないわけがない。

 あの子が――わたくしの前に姿を現すわけがない。


 頭では分かっている。分かっているのに、わたくしが、かつてのわたくしが殺そうとしたあの子と、全く同じ見た目をした男児が、そこにいた。

 子供が生まれたのは知っていた。わたくしの部屋から見える場所で遊ぶきょうだいがいたし、彼女からの手紙にも、時折、子供の話が上がっていたから。

 でも、ここまで醜い子だとは、思いもしなかった。

 醜いと思うのに、どうしても、あの子の血を強く感じる子から、目が離せない。


「あ――……」


 だからだろうか。わたくしは――気が付いてしまった。

 この子は、わたくしの様子をうかがっているようではあるけれど、おびえる様子はない。他人の目を気にしている素振りはなく、顔を隠すように髪をいじる姿を見せない。


 顔は生き写しのように同じなのに、雰囲気が、ささやかな行動が、何もかも、根本的にまるで違う。

 それはつまり、あの子のように、顔をけなされ、存在をさげすまされずに育ってきたということ。


 それに気が付いた瞬間、わたくしは思ってしまった。

 ずっと――ずっと。あの子を産んでから、わたくしの人生は何もかも、間違いだったと思っていたけれど。唯一、あの日、あの子を殺さずに済んだことだけは、正しかったのだと。

 殺したら殺したで、おそらく、正しいことではあったのだと思う。あんな子を産んでしまって、家を途絶えさせるような真似をしたわたくしが取れる、唯一の責任。あの子を殺し、婿を取れる家にすることが。


 でも、あの子を殺さずに済んだことの方が、もっと正しかった。それだけ。


 それがよかったと、言うつもりはないし、言う資格がないということは分かっている。

 ただ、それでも、次に渡す花は、もう、ごまかすすような花言葉で選ばなくてもいいのではないかと、ようやく決心がついた。

 あの人――ロディナさんは、もう長いこと、わたくしに気をかけ、手紙を送り続けてくれていた。それこそ、子供のような拙い手紙が懐かしくなるくらい。明らかにフィオレンテの指導が入ったような、どことなくフィオレンテの癖を感じる手紙を経て、今ではすっかり貴族夫人らしい手紙を書けるようになっていた。


 いつまでも本当の考えを隠すような真似をするのではなく、しっかりと伝えることが、わたくしがあの子――ディルミックに対してできる、最後の、親らしいことだと思ったから。

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