転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 04
一応、俺たちの祖母が存命なのは知っていた。ただ、会ったことも、見たことも、生まれてから一度もない。
祖父母という存在を、僕は小説の中で初めて知った。人間が自然発生するわけがないから、当然と言えば当然なのだかが、父も母も、彼ら自身の親について全く触れなかったので、その存在について考えたこともなかったのだ。
小説で祖父母のことを知った俺は、母に尋ねて、一応、父方の祖母だけがいることを聞いていた。
でも、母の表情からして、そこまで仲がいいわけではないのだろうな、というのは、なんとなく察していた。だから、あまり気にしてこなかったが……同じ敷地内に住んで生活していれば、会うこともあるか。
……これは、下手に出ない方がいいだろうか。
ノルテが兄をかばうように立っているし、朗らかに雑談している、という雰囲気はない。それに、両親と仲が悪いのであれば、俺が出ていくのはなおさら良くない気がした。
俺は、兄弟の中でも、群を抜いて父に似ている。兄は両親のパーツをそれぞれ引き継いでいて、ジェリクとジェリーナは大叔母様に近い。というか、この感じだと、大叔母様似というよりは祖母似だったという感じか。エリリアもどちらかと言えば父に似ているけれど、俺ほどじゃない。
子供の俺らが呆れるくらいに愛情を注いでくれている母の元で育ったので、この顔が嫌いなわけではない。
ただ、知識として、一般的に好かれる顔でないことは、知っている。……これを言葉どころか態度に出そうものなら、ジェリーナが烈火のごとく怒り散らして大変なことになるのだが。
父と母との関係が悪いというのなら、父似の俺が出て行ってよくなることはないだろう。それに、仮に祖母が父と母のどちらか、あるいはその両方を嫌悪していたら、ジェリーナが怖い。
兄には悪いが、こっそりと元のところに戻り、ジェリクと情報を共有して一時避難をしようか、と思ったとき。
――ばちり。
兄と目が合った。しかも、思わず、と言ったように兄上が「あ」と声を上げるものだから、ノルテがこちらを振り替える。しまった、という表情の兄の顔がよく見えた。
陰に隠れていたとはいえ、温室。植物の陰に身を隠したところで、一度ばれてしまえば、もはや意味はないだろう。
「アリウス坊ちゃま……」
ノルテが思わず、と言った風に俺の名前をつぶやく。
俺に気が付いた祖母は、大きく目を見開き、「ディルミック……?」と父の名を呼んだ。
祖母からしても、俺は父に似ているらしい。




