転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 03
集合場所に、と決めたところへと近づくにつれ、何やら話し声がするのが分かった。
最初は、兄上と、メイドのノルテが話をしているのかと思った。ノルテは、今回のジェリーナの提案へと協力してくれることをこころよく引き受けてくれた。
だから、一足先に戻ってきていた兄上と、どういう花束にするか話し合っているのかと思ったが――違う。
男女の話し声ではない。女と、女が話している。
一瞬、母が温室に来て、花束を作ろうとしていることがバレてしまったのか、と思ったが、そうでないことはすぐに分かる。
話をしている人間の、片方がノルテであることは分かったが、もう一方が誰だか分からない。聞いたことがない声なのだ。別館にいるメイドの誰でもない。
となれば、本館のメイドだろうか。他に女性がここに来る心当たりがない。母上でもメイドでもなければ、残るのは大叔母様だけど……でも、あの人が今日来る話は聞いてない。
いよいよ持って、誰だか分からない。
ジェリクの方を見れば、彼もまた、俺の方を見ていた。少し不安そうな表情を見れば、ジェリクにも心当たりが全くないことが分かる。
「兄様、どうしたの?」
エリリアとはしゃぎながら後ろの方を歩いていたジェリーナが、ようやく俺たちに追いついたらしい。
「誰か……ノルテと話をしているようだ」
「えっ、やだ、父様か母様? ……誰?」
サプライズで準備したかったのに、と言わんばかりのジェリーナの声音が、困惑に変わる。彼女もまた、誰か分からないらしい。
「にーさま? ねーさま? ……う、うぅ」
ジェリーナと手をつないでいたエリリアが、俺たちの空気を悟ってか、ぐずり始める。先程の、我がままを言ったときの不満を表すようなものではない。不安になって、怖くなってしまったのだろう、本気で泣きそうになっている。
「……少し、見てくる」
少なくとも、この場にいるということは、不審者ではないだろう。相手が分からないのは不安でしかないが。
俺はジェリクたちを一旦その場に待機させ、話し声のする方へと向かった。
声が聞こえるくらいだから、そこまで遠い場所ではない。俺はこっそりと陰に隠れながら、様子をうかがった。
話し声のする方には、ノルテと、そのノルテの背後に隠れるようにしている兄、そして、ノルテの正面に一人の女性が立っている。
「……大叔母様……?」
少し雰囲気が違うけれど、大叔母様に似ている人だった。大叔母様には面と向かって絶対言えないが、大叔母様よりは柔らかい雰囲気の人。それに、髪の色が大叔母様とは違う。あの色は、どちらかと言うと、父の――。
そこまで考えて、俺はようやく気が付いた。
もしかしてこの人……俺たちの祖母に当たる人なのではないか、と。




