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転生守銭奴女と卑屈貴族男の花束事情 02.5

 あの人以外に花を贈るために温室へと通うことになって、もうどのくらいの年月が経つだろうか。当たり障りのない花ばかり選んで来て、もう、随分と長い気がする。

 それでも、今回、彼女へと贈る花を、わたくしは選びかねていた。朝、起きてから、ずっと。


 ――久しぶりに、夢を見た。

 唯一の、わたくしの男児であるあの子を産んだ日のことを。あの子の誕生日でも、何でもない日だったが、不思議と、鮮明に記憶をたどるように、はっきりとした夢だった。

 あの人の笑顔と、男を産めたという安心感と、当時の感情が、全て蘇ったかのようだった。

 だからだろうか、ざわざわと、心が落ち着かない。


 本当はもう、何度か前から、彼女へと手紙と共に贈る花を、ずっと、誤魔化し続けていた。彼女のことを、ディルミックを愛せる人間がこの世界にいたことを、認めてしまってもいいのではないかと、思っているから。

 わたくしの部屋から、外で遊んでいるのが時折見える、あの子の子供であろうきょうだい。年子なのか、酷く年が近く見える男女の二人は、どちらが上なのかわたくしは知らなかったけれど、随分とわたくしやフィオレンテに似ていて、血筋を感じる。そのくせ、髪色だけはしっかりと彼女のものを引き継いでいた。

 無邪気にはしゃぐ二人の顔は幸せしか知らないような笑みしかなくて、あの二人がどれだけ愛されて育っているかが分かる。


 初めて彼女に会ってから、随分と時が経った。

 わたくしが、彼女のことを認める必要なんて、今更ないのかもしれない。彼女たちは彼女たちで幸せにやっているのだから。それでも、彼女が手紙を送ってくるものだから。それに返信しなければ、よく思っていないと勘違いしてしまうかもしれない。


「――あら?」


 ぼうっと温室内の道を歩きながら、なんとなく、今回の手紙に添えるにはふさわしくないような花ばかりを眺めていると、人影があることに気が付く。


「あなた……」


「お、大奥様……!」


 一人のメイドに声をかけると、メイドは振り返り、少し焦ったような表情を見せた。このメイドは……彼女のメイドだったはず。もしかしているのかしら、と思ったのもつかの間。


「ノルテ? どうかし――、あっ。こ、こんにちは」


 メイドの陰に隠れていた少年が、わたくしの顔を見て、固まり、慌てて表情を取り繕って、笑みを浮かべ、挨拶をする。

 どことなく、ディルミックに似ている気がするが、あの子ほど醜くはない。


「初めまして――……お、おばあ様? ボク、じゃない、私はギリクトと申します」


 かしこまった言い方は、慣れていないのか、随分とぎこちない。歳はそう子供というわけでもないでしょうけれど――わたくしは、こんな子、知らない。

 わたくしの部屋の窓から見た、あのきょうだいとは違う。


 ……あの子たちの子供、二人だけじゃなかったというの?

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