可愛げが無いと昔から言われ、とうとう旦那様に冤罪を受け、何度も殺されたけど、今世では聖女が助けに来てくれた…。
この作品を目に留めてくださってありがとうございます。
彼の事は、出会った瞬間から好きになっていた。
少女の前に本の中と同じ王子様みたいな少年が現れたのだから、誰だって恋に落ちるだろう…。
好きになって、運命のように婚約して、妻になって、子供を産んで、そして……
殺された。
旦那様と実の妹に…。
何度も何度も苦しみの中にずっといた…。
「おはよう!グレイス!」
金髪で緑色の瞳の美少女が私の左腕に自身の腕を絡んできた。
「おはよう、ソレイユ。
今日も元気いっぱいね」
私はグレイス・フォレスト。
フォレスト侯爵家の長女。
銀髪に近い白金の髪に緑色の瞳を持つ、結構地味めな人間。
「だって今日もグレイスに会えたんだもの!幸せに決まってるわ!大好きよ!」
私の事を唯一好きだと言ってくれる友達。
祖父と伯母様以外、両親も婚約者さえ与えてくれなかった愛情。
ソレイユに会うとポカポカと心があったかくなる。
生きていて良いのだと思えてくる。
ソレイユは神殿が認めた聖女だった。
聖女は王族に次ぐ立場にある
そんな彼女が今世では私の親友。
奇跡だった。
私は8回同じ人生を生きている…
何故だかは分からない。
同じ婚約者と結婚して子供を産んで育てているけど、旦那様は妹のマリアを愛していて2人が結ばれる為に私は冤罪で殺された…。
2度目の人生では殺される直前に記憶が戻った。
3度目からは婚約後に記憶が戻った。
記憶が戻ったから人生を修正しようとしても私が殺される運命は変わる事がなかった。
今回は婚約前に記憶が戻ったがもうどうでも良かった………。
唯一の救いはいままで出会わなかった彼女。
ソレイユと出会った事。
死ぬ事は変えれないのなら今を楽しみたい。
温かい親友と楽しい時間を。
そんな親友と学園を歩いていると目の前には見知った男女がこちらを見ていた。
「グレイス、お前なんで此処に?俺を追いかけて来たのか?」
いかにも俺様なこの男は私の婚約者のミカエル。
ミカエル・オール、オール公爵家の次男。
そして何度も私を殺す男…。
「お姉様、勘違いしないでください…。怒らないで…」
弱々しく見せ、男性の庇護欲を奮い立たせる魔女。
私の実の妹マリア。
何度も私を陥れ、罵り、殺す女。
「あんた達何言ってるの?グレイスは私と教室に移動中なのに、追いかけて来たって言ったり、怒るなって言ったり…。自意識過剰もいい加減にしたら?
大体ミカエルはグレイスの婚約者でマリアは妹だよね?
婚約者同士でもない男女が2人で居るっておかしいでしょう?」
ソレイユはあんた達バカァ?と言わん限りに言い放った。
その様子を見ていた生徒達はソレイユの言う通りだと納得し、ある者からは失笑が漏れた。
婚約者同士でもない男女が学園の中とはいえ2人で居るのはマナー違反だったからだ。
周囲の様子を2人とも赤い顔をしてぷるぷる震えている。
2人ともグレイスには嫌味を言えるが、聖女認定されているソレイユの方が立場は上なので言い返すことも出来なかった。
「グレイス、遅れちゃうから行こう」
ソレイユは2人を気にせずグレイスの腕を引き教室に向かった。
「ありがとうね」
グレイスは笑顔でソレイユに一言だけ言った。
ソレイユは私が俯いた時、いつも上を向かしてくれる。
初めて満ち足りていると言える人生。
「くそぉ!俺は好きで婚約者になったんじゃない!
親父が言うからなってやったんだ!
本当ならマリアが良かったんだ!
俺を馬鹿にしやがって!」
ソレイユや生徒達に馬鹿にされ怒り狂っていた。
「私だって、ミカエル様の婚約者になりたかったのに…。
どうして先に生まれたからって地味なお姉様がミカエル様の婚約者になるの?
どうして馬鹿にされないといけないの…
私の体が弱かったのは小さい時の話で、今なら子供だって生まれる可能性はあるのに…」
マリアは幼い頃体が病弱だった為、孫が見たかったミカエルの両親はマリアを婚約者にする事は反対していた。
特に公爵自身がグレイスを気に入り、ミカエルに相応しいと思っていた。
その為ミカエルとマリアはいくら思い合っても世間的には結ばれる事は難しかった。
「全てグレイスのせいだ!
グレイスさえいなければ、全てうまくいくのに! くそ!」
「そうよ!お姉様なんて死ねば良いのよ!そしたら侯爵家を継ぐのは私になるし、私達を反対する人なんて、いなくなれば良いのよ!」
2人の強い呪念なのか、ミカエルとグレイスが結婚の一年後公爵夫妻は事故で亡くなる。
公爵夫妻には存在を認められてたグレイスだったが、夫妻が亡くなった後は死への扉が開いていた。
♢♢♢♢♢
ベッドに横になっているのは随分と衰弱したグレイスだった。頬はコケ、髪にも艶はなく手足などは骨に皮が付いているだけの状態だった。
「まだ生きてるの?早く死んでくれたら良いのに。
そしたらミカエル様も公爵夫人の座も全て私のものなのに!
いい加減死になさいよ!」
ベッドの前では、小さな手を精一杯伸ばし、グレイスを守ろうとしている少女が仁王立ちしていた。
『ママは殺させない!
ママは悪いことなんてしてないのに!
ママばっかり悪者にして!
悪役はあんたじゃない!』
小さな少女はは指を差した。指の先にはグレイスの妹のマリアだった。
指を差したマリアには少女の声も聞こえず、姿も見えていなかった。
ママ?『ママ!ママ大好き』
頭の隅から声が聞こえる。
小さな少女の声…これは?…
「ソレイユ?…私の愛しい娘…?」
「お姉様、とうとう頭がおかしくなったんですね。
どこに娘が居るのかしら? あははっ!」
『私はもう大丈夫だから!何度死んでも貴方に会う為に生まれて生きていくから!だから元の世界に戻って貴方も生きて!
ソレイユ、大好きよ!』
弱り切っていたグレイスの声は出ていなかったが力強くソレイユに伝えた!
キラキラと光の粒が纏わり、小さなソレイユの姿が消えていった。
消えるソレイユを見ながら、グレイスは息を引き取った。
亡き顔は微笑んでいた。
♢♢♢♢♢
グレイスはミカエル達に学園で責められた後、いつも行く教会に寄っていた。
教会の帰り道、馬車の窓から街並みを眺めていた。
家では自由は無いが、教会に行って祈りを捧げている時だけは自由でいられた。
帰り道、馬車から外を眺めていると、路地にうずくまった小さな黒い塊を見つけた。
黒い塊を薄っすらと虹色の光が守っているように見えた。
「止めて!」
黒い塊が気になり御者に声を上げた。
馬車を降りて恐る恐る近づくと、黒い塊は汚れた小さな子供だった。
「…!大丈夫!?」
顔を覗き込んだ。
「マ、マ ママ!」
小さな手を伸ばし、私が伸ばした手を握ってきた。
持てる力の限り。
何故だか胸が熱くなり汚れるのも気にせず抱きしめて馬車に走った。
屋敷に着き、侍女達にお風呂の用意をさせて、何度もお湯を変えグレイス自ら隅々まで洗っていった。
黒い汚れは取れ綺麗な白金の髪と緑の瞳を持つ2歳くらいの少女だった。
身体は汚れていただけでは無く、栄養が足りて無くガリガリだった。
入浴前に料理長に頼んでいたスープが届いたのでパンを小さくして浸しながら少しずつ食べさせた。
三口食べた所で疲れたのか、ホッとしたのか眠ってしまった。
眠っても私の手を握ったまま…。
離すことも出来ず、私のベッドに運んでもらい一緒に寝た。
私自身小さな温もりのおかげで、久しぶりに深い眠りについた。
「ママ」
少女は目が覚めるとグレイスをママと呼び抱きしめてきた。
「おはよう。名前は言えるかしら?」
「ママ」
言える言葉はママの一言だけだった。
昨夜、執事に迷子の届けが無かったか確認してもらったけど、無かったとの事。
捨て子なのだと判断された。
離さない小さな手を、私も離せなくなっていた。
祖父と伯母以外の家族から、貰ったことの無い温もりをくれた小さな存在を守りたいと願った。
でも世の中の捨て子は、孤児院で育てられている。
父も母もすぐに孤児院に連れて行くべきだと譲らなかった。
それならば私が連れて行くと。
この小さな命を守りたかった。
大切な友達に良く似たこの子を。
「ママ?」
不安そうに私を見つめた。
「大丈夫よ。 一緒に行きましょう」
グレイスが少女を連れて行ったのは孤児院ではなく、いつも祈りに行っていた教会だった。
教会に行き司祭長に面会していた。
「グレイスどうしたの?教会に来ても私を呼び出す事は滅多にしない貴方が…」
「お願いがあって来ましたキャロル伯母様に」
この教会の司祭長はグレイスの父の姉、グレイスの伯母のキャロルが務めていた。
「まずはお座りなさい」
「ありがとうございます。
実はこの子を私の養女にしたいのです」
「え? どういう事?」
伯母さまは驚いていた。
「先日教会からの帰りにこの子を見つけ、連れ帰りました。
この子には他の者が持たないオーラがあります。
虹色の…。
聖女だけが持つと言われるオーラが。
それだけでは無く、この子は私に温もりをくれました。
だから私が守りたいんです」
「確かに虹色のオーラが…。
でも年若い未婚の貴方が母になるなんて」
「ママ?」
大丈夫かと言わんばかりに少女はグレイスの頬を撫でた。
「大丈夫よ」
グレイスも少女を安心させる為に少女の頭を撫でた。
「母の顔をしていますね…」
「未婚の者が親になる事は難しいのは分かっていますが、それでも後見人が居れば可能だと聞きました。
だから伯母様に私の後見人になって頂き、この場でこの子と親子の申請を認めて頂きたいんです」
「将来この子が足枷になるかも知れませんよ?」
この先恋をして結婚したい相手が出来た時の事を心配してくれていた。
「違います。
この子は私の灯なんです。」
前世までは、お祖父様と伯母さま以外、両親さえ私を愛してはくれなかった。
お祖父様が亡くなられてからは、私を必要とはしてくれる人はいなかった。
でもこの子は私を必要としてくれている。
今世で私に愛情をくれたソレイユと同じ髪と瞳とオーラを持つ子。
この子が居てくれたら、私は生きていける。
「決心しているのね…。
分かりました。
後見人になります。
養子縁組も今から教会でしてしまいましょう。」
「ありがとうございます!!」
「ただ、聖女候補のこの子は教会に居るべきです。
保護の観点からも。
今日からグレイスには教会で暮らしてもらいます。
学園にはここから通えば良いですから」
国では聖女は国王、教皇に次ぐ地位のある立場だ。
次いつ聖女が現れるのか分からないので、聖女は見つかり次第直ぐに教会で保護する決まりになっている。
「分かりました。」
グレイス自身分かっていた。
一緒に居られるなら何処でも良かった。
「ところで、この子の名は、どうしますか?
名前が無いなら、親として貴方が付けてあげなさい。」
伯母さまに言われると、少し考えて。
「では、ソレイユと」
「素敵な名前ですね」
「私が大好きな友達の名前です。
太陽の様な子から頂きました。」
伯母さまは優しく微笑んでくれた
ソレイユはグレイスの膝枕で眠っていた。
安心した顔で。
両親には伯母さまが手紙を送ってくれていた。私があの子と養子縁組をした事、伯母様が私の後見人になった事、これからは教会で暮らす事を知らせてくれていた。
家には大事な物など、何一つなかったから、何も問題はなかった。
伯母様の手紙を読んで慌てたのは両親だった。
理由は前侯爵だったお祖父様の遺言で侯爵家をグレイスが継がなければ、侯爵家の全ての財産は愛娘の居る教会に寄付すると遺言を残していたからだった。
現侯爵は実はグレイスが爵位を継ぐまでの仮の侯爵だった。
親から愛されない孫のグレイスが困らない様に、家から追い出されない様に祖父の愛情からの遺言。
「おはようグレイス!」
「おはようソレイユ」
いつもの朝。ソレイユの笑顔が心地よい。
ミカエルとマリアが走って近づいてきた。
「グレイス、家を出たなんて、どう言う事なんだ!」
「お姉様、お父様が帰ってきなさいって仰ってたわ。」
「ミカエル様、近々婚約を白紙にする旨が教会の方から行くと思います。
至らない婚約者でしたが、今後はお幸せに。」
「なっ!」
ミカエルの顔は青くなっていた。
それもそのはず、グレイスと結婚しなければ、フォレスト侯爵家の主人になる事は出来ないのだから。
以前は妹のマリアと結婚してもグレイスが爵位を継がなければ地位は転がり込むと思っていたが、祖父の遺言でグレイスが爵位を継ぐ以外自分が主人になる事は無いとわかったから。
「マリア、私は家には帰りません。私の家は今後は教会になります。貴方もお幸せに」
マリアも真っ青な顔だ。グレイスが爵位を継がなければ、財産は教会に寄付される。
そうなれば、今の贅沢な生活は出来なくなるのだから。
グレイスは初めて2人に微笑んで、教室に向かった。
「グレイス、教会に住むの?」
「昨日からもう住んでるの。それから私、母親になったから…」
「え!?誰の?お腹に居るの?相手は誰?」
ソレイユはグレイスのお腹に目がいった。
「違うわよ…。
可愛い子と出会って、昨日養子縁組したの。
ソレイユに良く似た女の子よ。」
「びっくりしたぁ! 養子縁組かぁ。
私に似てるんだ!会えるの楽しみにしてるね!」
「そのうちね」
「ねぇねぇ、可愛い娘さんは、なんて名前なの?」
「……。」
呟く様に小さな声
「どうしたの?聞こえないわ」
「……イユ。貴方と同じソレイユって言うの…。」
「…!? リトルソレイユだね」
「グレイスはソレイユの事可愛い?」
「可愛わよ!
私が産んだわけでは無いけど、あの子の母になる為に辛くても、生きてきたのだと思ったわ。」
♢♢♢♢♢
頭がズキんと痛んだ。
起き上がると冷たい何もない床の前には鉄格子があった。
学園からの帰り馬車に乗るまでに私は拉致されたのだ。
「気がつきました?お姉様。」
マリアが鉄格子越しに声を掛けてきた。
「ここは…?」
「ここですか?此処は自宅の地下牢ですよ。
私はお姉様が大嫌いですわ。
でも、ミカエル様と署名だけの婚姻は許してあげます。
一生地下牢からは出しませんけど。」
「グレイス、俺と婚姻したら何も考えず此処で暮らしたら良いから」
ミカエルが、笑いながら言う。
「グレイス、必要な物があれば、看守に言えば良いからね」
「3食昼寝付きよ。良かったわね。」
父も母も私の鉄格子越しの姿を見て嬉しそうだ。
ミカエルもマリアも両親も、いままでの生活が変わるのも、地位を手放すのも許せなかった。
その答えはグレイスを拉致し、逃げる事ができない様に閉じ込め、弱らせようとしている。
「グレイス、これからこちらの司祭様が結婚儀式をしてくださる。
すぐ婚姻だ。
教会の息のかかっていない司祭を探すのに苦労したが、やっとだ。
婚姻が終われば、楽にしてやるからな。」
皆自分が良ければ、娘がどうなろうが、どうでも良かった。
「楽にしてやる…。つまり死をって事?
実の父親が言うことか!!」
マントを深く被った司祭が声をあげた。
その直後、屋敷の外と中を騎士達が取り囲んでいた。
「誰も一歩も動くな!!
我等は聖騎士団である!
聖女様の母上を誘拐及び投獄及び殺害未遂で捕縛する!!」
グレイスは騎士団が牢獄から出してくれていた。
先程声を上げたマントの司祭が、グレイスに抱きついた。
「大丈夫?怪我ない?痛いところない?」
「ソレイユ?」
「遅くなってごめん。無事を確認しなきゃいけなかったから…。」
「来てくれてありがとう。
…!?」
ソレイユの周りが、キラキラと光の粒が纏わりだした。
夢で見たあの子の様に…。
もう、戻らなきゃいけないみたい。やっと、やっと救う事が出来た。
これかは幸せになって○○…。
ソレイユが消える寸前、グレイスはソレイユを抱きしめた。
「来てくれてありがとう。
愛しい私の娘。
リトルソレイユと幸せになるわ。
だから貴方も幸せになってね。」
「…!ありがとう。ママ!」
ソレイユの瞳には涙が溢れていたが、1番の笑顔だった。光の粒子とともに消えていった。
聖騎士団と共に来ていた伯母さまが声を掛けて来た。
「ソレイユ様は此処より未来から聖女の力を使い、貴方を守るために来られたそうです。
リトルソレイユの未来の姿がソレイユ様でした。
ソレイユ様は教皇様に聖女として会い、今の時代の幼い自分と貴方が教会に来たら保護して欲しいと話したそうです。
ご自分は役目を終えたら消えてしまう事も、話しておられました。」
「私を守る為に来てくれたのね…。」
「ママ…、ママ!!」
リトルソレイユが私を見つけ走ってくる
私は膝をついて手を広げた。
すっぽりと私の腕の中に収まり小さな手で抱きしめてくれる。
私も抱きしめる。
「ソレイユ、これからは私が守るわ。
一緒に幸せになりましょう。」
「ママ大好き!」
「私もソレイユが大好きよ!」
グレイスはソレイユと教会で保護されながら暮らし、笑顔の絶えない幸せな日々を過ごしました。
後にグレイスは、教会に訪れた一人の男性と出会い、恋に落ち、3人で暮らし、ソレイユに弟と妹が生まれて、ソレイユがお嫁に行くまで、愛の溢れる家族になったのはその後のお話です。
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