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憲兵の犬  作者: 豆太
9/26

9門兵は歩く壁な件

隊長は背負っていたリュックを降ろし、

ぐるぐると肩を回しながら隊長がちらりと僕の方を見た。

「まず、てめぇの今までの行動について聞こう。確かにてめーは小便くせーが、

それ以外の汚れも怪我も無え。まさか本当に落ちちまったわけじゃねえんだろ?」


「っ、わざわざ言わなくていいじゃないですか!そんなこと!

そうですよ!落ちてないです!

停車した時に声をかけようとしたら、お話中だったんで気を使ってその間に用を足しに行って戻ったら、、、、」


「置いて行かれたのか!はははっ!モリスらしいなぁ!やっぱ持ってるよお前! ぐえっ」

笑い転げるビッツを蹴り飛ばす。



「誰と話してたってんだ?あの商人は一人だったろうが。」

隊長は真面目な顔をしていた。


「そうです。一人です。通信機ですよ。」


「それっておかしくねえか?あの荷馬車と一人で移動の規模の商人だぜ?」


言われて気づいた。

確かにそれは普通に考えておかしいのだ。

「確かに、一般普及の白色無線機ではこの森は圏外ですよね。かといって、他の色の無線機をあの商人が持っているのはおかしい。」


「な?きなくせーだろ。

積荷はどんな様子だったよ?

いかつい門兵の奴ら相手でもなし、お前らには割とさらっと中を見せただろ?」


確かに昨日の当番だった門兵のメルトリオさんは、筋肉自慢が多い門兵の中でもかなり厳つい部類だ。我らが憲兵隊の隊長もガタイはいい方だが、彼とは比べ物にならない。

歩く長方形である。遠目からでもすぐ見つけられる。


メルトリオさんが手続きをしたのだったら、荷台の中までは上がらなかったかもしれない。


今の手続きは、以前に比べて随分と省略されている。と、昔メルトリオさんが言っていた。

大きな武器が積まれていない事を荷台の外からさらっと目視で確認し、名前と住所と時間を記録する程度だそうだ。


だが当日隊長に呼び出された僕達は、よくわからんから従来の順序でしとけ。という隊長の指示のもと、通常省略されている荷台への乗り込んだ上でのチェックまでさせられたのである。過剰サービスである。


見たところで、荷台の箱の中身は空だったわけだが。


「でも隊長、荷台には何個か箱がありましたが全て空で不審なものなんかありませんでしたよ。」


それを聞いたビッツがなぜか僕に食ってかかる。

「え?それっておかしいだろ!次の顧客がいるから朝まで待てないって、なんだったんだよっ!

夜中に俺たちを働かせたっていうのに手ぶらでいくとか嘘じゃねーか! ぐぇっ」


僕に文句言うな。

煩いので蹴りを入れておいた。


「そうさなぁ、商人が空の荷馬車で町を出るこたぁ、普通ねえよなぁ」

隊長がビッツのおかしいという言葉に同意する。

「うちの町で売り切って、うちにはてんでめぼしいもんが無かったのかもなぁ。でもよ。」

そこで一旦隊長は言葉を区切った隊長は

自分のリュックから水筒を取り出し勢いよく煽った。

「早く逃げるためってぇのが、俺は一番しっくりくるんだがなぁ。」


カラカラっ


その時隊長の胸ポケットから音が鳴った。

憲兵隊で使っている緑色通信機の着信音である。

そのまま隊長が胸ポケットをタタンッと二回叩くと、通話を開始した。


ーすまん、隊長。目標死亡の為、捕獲失敗だ。モリスはまだ見つかっていない。モリスを探す人員と、周辺探索の人員にわけるか?ー


通信機からは、副隊長の声が聞こえてくる。別で僕を探してくれていたようだ。


でも死亡って?別件で何か物騒な事件があったんだろうか。捕獲、なんて言っているから、迷い犬だか牛だかを追いかけていたんだろうか。


以前興奮した迷い暴れ牛が、捕まえようとした拍子に怒り狂い、木に激突して死んでしまった痛ましい事件は記憶に新しい。



少し焦った副隊長の声を聞いて、

おっ、いけね!と、隊長は頭をさすりながら返答をする。


「悪ぃサシャ!モリスはさっき回収した。小便まみれだが無事だ。」


は?!

何を言ってくれてるんだ!この馬鹿隊長!

憧れのサシャナ副隊長に引かれたらどうしてくれるんだ!


彼女の切れ長な碧眼から発せられる冷たい視線を想像して僕は震えた。


ーそうなのか。無事で何よりだ。まぁ、そういった言い方をしてやるな。

よっぽど怖い思いでもしたんだろうさ。

そもそもモリス達を当て馬にした隊長のせいだからな。ー


サシャナ副隊長が僕を庇ってくれる。

さすが隊長よりも隊長らしいと評判の副隊長様である。


誰かが僕の悲惨なこの状況を気遣ってくれる初めての言葉に、

僕のささくれだった心はポッとあたたかくなった。


って、

いやいやいや。


流されるな!

僕が漏らしたみたいに思われてる!


訂正しろ!と必死のメッセージを込めた僕の視線に隊長は少したじろいだ。


「ま、まぁ色々あったようでだな、、、。」


濁すなぁぁぁ!!リアルっぽい反応をするなぁぁぁ!!


あ、そうか。

隊長は経緯を知らないんだった。


僕は頭からさーっと血の気が引くのを感じた


このままじゃあ本当に僕の不名誉な噂が広まってしまう。

この年で夜の森が怖くて漏らした男になってしまう。

早いところ誤解を解かなければ。

何か聞き捨てならない内容をさらっと聞き流してしまった気がするが、

兎にも角にもこの異臭を放つ濡れ衣を剥がす事で僕は頭がいっぱいだった。


読んでいただきありがとうございます。

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