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憲兵の犬  作者: 豆太
8/26

8元凶が全く悪びれていない件

「うわっ、何する、、、」


ほとばしる飛沫を避けようにも、犬を放り投げるわけにはいかない。

結局僕のズボンはずぶ濡れである。


呆然とする犬を叱る気にはなれなかった。

逆切れされても怖いし。


僕は犬をそっと地面へおろした。


それからしばらく一人と一匹は無言で森を進んでいた。

といっても最初から無言であるが。


どのくらい歩いただろう。

そろそろ喉の渇きをどうにかしたくなってきた頃合いの時だった。


「いた!隊長! モリスがいましたよ!」


数メートル先に現れた青年が駆け寄ってきた。

上を向いた鼻と、少し釣り気味のくりっとした瞳がやんちゃな印象である。


その後に青年と揃いの服をきた人間が続く。

「ほぉ、随分とはえー帰りじゃねぇか。モリス」

隊長と呼ばれた大柄な男は、感心したようにモリスを見つめる。


「ねっ、オレの勘も捨てたもんじゃないでしょ?えっ、くさっ!?」

駆け寄った青年は自慢気に言いつつ、会話の途中で顔をしかめた。

「くさっ!モリス!お前、くさいぞ!」


「会って第一声が、それかよ!」

モリスは激怒した。


寝なおさずにちゃんと迎えにきてくれた事に感謝しかけたが、

一瞬で吹き飛んだ。

そもそも全部こいつのせいなのである。


夜中から森を歩くはめになったのも、尿まみれのこの状態も

ぜ・ん・ぶ こいつのせいなのである。


「お前が!あの時ちゃんと確認もせずに、通過許可を出したせいだろうが!」

ビッツの胸倉を掴んでグラグラと揺さぶる。


「わ、悪かったって!ごめんって!ひとまず、、、」

両手を掲げ降参のポーズをしたビッツが胸倉を掴む手に視線をやる。


ひとまず手を離してくれとでも言いたいんだろう。

腹は立つが、この状態のままても僕が疲れるので離してやった。


「ひとまず、少し離れてくれないか。」


容赦のない蹴りがビッツの腹にめりこんだ。

汚れていない手での殴りではなく蹴りを選択したのはもちろんわざとである。

少しでも僕の気持ちがわかればいいのだ。


「そんだけ動けりゃ怪我はねーようだな。」

しばらく僕らの様子を眺めていた隊長がビッツのリュックにぶら下がっていた水筒を

投げてよこした。

「怒るのも最もだけどよぉ、

 今ここでてめぇを見つけられたのはこいつのおかげなんだぜ?」


「そうだそうだっ!」

ここぞとばかりにビッツが主張する。

「他の捜索隊は、こんな獣道じゃなくて荷馬車が通る正道から探してるんだ。

でも俺は、モリスの事だし途中で落ちて徒歩で帰ってくるかもしれないって思ったから、徒歩での最短ルートからも探そうって言ったんだ。見事に的中だろ? ぐぇっ」


腹の立つ顔をしているビッツに再度蹴りを入れる。


「いや、経緯については色々聞きてぇんだがな、このワンコロはどうしたよ?」


そういえばすっかり犬の事を忘れていた。


「歩いてる途中で見つけました。迷い犬かもしれないので、一旦詰所で確認しようと思って。」


「確かに毛艶もいいし、賢そうな顔してるなぁ。金持ちの依頼分消化できるかもな!報酬でたらメリィちゃんのお店に行こうぜぇ。」

敏感に金の匂いを感じとったビッツが早々に復活した。

だらしない顔で手をワキワキと動かしている。

最近給料日の度に通っている飲み屋の女の子の事でも妄想しているんだろう。幸せそうである。


一方隊長は、犬を撫でようとしてそっぽを向かれていた。

先ほどはあんなに嬉しそうだったのに。今は虫の居所が悪いんだろう。

懲りずに隊長は犬に話しかけている。


「賢そうなてめぇに頼みがあるんだけどよ。ちょっとの間ほかの人間がこねーか気にしといてくれねーか?」


犬がちらりと隊長を見上げ、またそっぽを向いた。

相変らず機嫌は良くないようだが、請け負ってくれている気がする。

そもそも犬が言葉なんてわかるわけないのだけど。


「頼んだぜ」


と、犬に一言かけた隊長はこちらに向き直り地面にどっかと腰を降ろした。


読んでいただきありがとうございます。

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