6荷物を運びながら森を進む件
荷物を抱えながら森を進む。
僕は麦袋を抱えて走らされた二日前を思い出していた。
町中で、過積載の荷馬車がバランスを崩して横転。
幸いけが人は無かったものの、道には大量の麦袋がぶちまけられていた。
そんな中、僕たちは公道を塞ぐ障害物の撤去という名目で出動させられた。
ご機嫌な隊長によると、今確保できる空きの倉庫よりも納入先の店舗の方が近いだとかで
そちらへ運ぶように指示された。
体力づくりに丁度いいだろう と嘯く隊長に殺意を覚えながら僕たちは走ったのだった。
今の荷物はその時の麦袋と同じぐらいの重さだ。
しかし足元は整備された石畳ではなく、でこぼこの地面である。
あの頃のように早くしてくれと突き刺さる後続車の視線を感じない分はましだ。
そう思う事にした。
それにビッツが迎えにきてくれるかもしれない。
夢ということにして寝なおしていなければ。
・・・・・。
ビッツの寝ぼけ顔を思い出し、ふと浮かんだ希望はすぐさまたち消えた。
今日の仕事は休もう。
隊長には何個も貸しがある。事情を説明すれば楽勝だろう。
そしてビッツには夕飯を奢らせよう。
隊長とビッツの顔を思い浮かべながら、本日の予定について考えた。
さて、腕の中の荷物はまだ意識がないようだ。
いきなり壮絶な形相のまま、動かなくなったものだからびっくりしたけれど
よく見ると息はしていて、ほっとした。
そしてかなり悩んだ。
野犬なら置いていくべきだ。
両手が塞がったまま森を進むだなんて嫌すぎる。
でも、この犬は様子からして飼い犬の可能性が高い。
迷い犬の依頼が消化される。そんな業務上の判断でも連れ帰ることが正しいはずだ。
飼い犬が森の中で一匹取り残されるのは可哀想だ。
そしてなにより、僕を見つけた時の喜ぶ様を見て置いていくのは無いだろう。
見知らぬまあまあ大きな犬を抱えて森を進む。
そんな間抜けな自分の行動に理由をつけながら歩いていた。
犬の表情なんて、はじめてちゃんと見たな。
そう思い出しながらモリスは腕の中の犬に意識を向け、気づいた。
犬の体の揺れが減っている。
意識が無いため、ふにゃふにゃと歩みに合わせて揺れていたのだ。
それが、かなり安定している。
しがみついているような気さえする。
意識が戻ったのか?
モリスの肩より上にある顔を確認する為、よっこらせと抱えなおす。
その拍子に犬の体がぶるりと震えた。
じわっと広がる温い感触と遅れて周囲へふわっと広がった異臭。
鳶色の瞳と目があった。
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