4僕は新しい才能に目覚めたかもしれない件
ー野犬なんかに襲われたらどうしてくれるー
僕には予言の才能があったようだ。
予言ができるとなると、司祭の座も夢じゃない。
肉体労働も無く、明日の天気の話やそれっぽい事をたまに呟けばお布施ガッポガッポである。
雑務と使い走りの日々、
僕は職業選択を間違ったのかもしれない。
何が言いたいかというと、目の前に犬がいる。
尻尾をブンブンと全力で振り回す犬が座っている。
前方の少し先、木から覗く影があることに気が付いた。
僕から気づかれている事に気づいていないんだろう。
ピンと立てた耳を時折ぴくつかせつつ、こちらを伺っている。
野生動物は目を合わせた時が戦闘の合図という。
目を合わせないよう、気づいていない振りをしながら
徐々にできるだけ自然に進路を変える。
襲い掛かってくるような気配は感じない。
臆病なんだろう、そっと通り過ぎたら何も問題はなさそうだ。
と、思ったのに。
目の前に犬が現れた。
ちぎれんばかりに全力で尻尾を振りながら。
動物に表情があると思ったことはないけど、わかる。
うるさいほどに伝わってくる。
キラキラとしたこの瞳は大喜びをしている。
何を喜んでいるかはわからない。
飼い主とはぐれて寂しかったのだろうか。
撫でてみようか。
一応まだ目を合わせないように気を付けながら手を伸ばしてみる。
少し固めで艶のある体毛に触れた。
この毛並みといい、人懐っこさといい、どこかの飼い犬なんだろう。
鳶色の毛並み、僕の髪の色と似ていて親近感が沸いた。
思わず話しかけてしまう。
「おー、よしよし迷子かぁ、怖かったなぁ」
しばらく撫でていると犬が僕の顔を覗き込んできて目が合った。
お、君は目の色も鳶色なのか。
そのまましばらく見つめあっていると、
「ウァン!?」
犬が変な声を発した。
様子がおかしい。
キョロキョロと辺りを見まわし、後ろを振り返り
バタンッ
そのままひっくり返って倒れてしまった。
え?なんで?
慌てて揺すってみるが、反応はない。
白目を向いて、舌はだらりと口からはみ出したまま。
意識不明である。
僕の触り方がいけなかったのか。
気付かなかったが、どこかに怪我でもしていたのだろうか。
それとも森で変なものでも食べていたのか。
金持ちの犬だったらどうしよう。
詰所に届いている迷い犬捜索依頼、手前の方に記載される金持ちからの依頼枠に
この犬が含まれていない事を僕は願った。
読んでいただきありがとうございます。