21 女々しい断末魔で少し恥ずかしい件
「いやぁあああー!!」
彼女はなんでもない事のように、掴んでいた薄布、今の僕の命綱となってる布から手を離した。
僕って切羽詰まったら、うぉぉ!とか、ぐぁあ!じゃなくて、いやー!って叫ぶタイプだったんだな。
ミネルダさんと一回でいいからデートしたかったな。
昔の色々な思い出が頭をよぎる。
地味な僕らしい、ぱっとしない人生だったな。
少し悲しい気持ちになって気づいた。
一向に体を襲ってくると思った衝撃が来ない。
むしろ宙ぶらりんの気持ち悪い浮遊感を継続中だ。
「あれ?」
ギュッとつむっていた目を恐る恐る開けると、
少し前と変わらない風景があった。離されたはずの布の先を見ると、彼女の背後にある木の幹に張り付いていた。
び、びっくりした、、、!
ほっとしたけど、同年代くらいの女の子に情け無い叫び声を聞かれてしまったと思うと少し恥ずかしい。
恥ずかしくて、無意識に体がもぞっと動く。
それに合わせて宙ぶらりんな僕の体が揺れた。
「動かないで。」
先ほどと同じ言葉を繰り返した彼女の方を見ると、両手に何かを構えていた。
光がほとんど刺さない鬱蒼とした薄暗い森に、暗い金属の輝きが鈍く反射する。
彼女はそれを今にも僕の方に投げつけようと、大きく振りかぶっていた。
え?何?刃物?
僕、殺されるの!?
交換条件って、言ってたでしょ!?
依然頭の中はパニックのまま。
なんとか命中させないように、僕は全力でジタバタと暴れて体を揺らす。
「わっ、馬鹿!動くなってば!当たる!」
彼女が焦った様子で何か言っている。
まさに刃物的な何かを投げつけようとしているポーズで何を言ってるんだ!
もう騙されないぞ!
彼女の言葉は無視して僕はジタバタを続けた。
その時。
ズルッ
宙ぶらりんの僕の体の位置が一段下がった。
見ると肩を包んでいた布が少しほぐれていた。
ジタバタした事で念着粉がとれたのか、単に効果が切れはじめているのか。
どちらにせよ、僕の危機的状況に拍車がかかった事には変わりない。
かわさないと彼女が投げようとしてる刃物にきっと当たる。
でも、動いたら念着粉が取れて落ちる。
もう、どうしたらいいんだよっ!
考えすぎたせいか、暴れたせいか。
目が回ってきた僕のすぐ右で、ガッと木に何かを叩きつけたような音がした。
続けて左からも同じような音がした。
正面からグイッと何かに押されて体が後ろ向きに揺れる。
しばらく後ろに移動するとトンと背中に当たる感触があった、
左手を後ろに回して確認すると、僕が背中を預けているのは太い木の幹のようだ。
助かった!
なんかよくわからないけど、助かった!
慌てて体の向きを変えて木にしがみつき、丈夫そうな枝の上へ移動した。
その時、何かが引っかかる感触がしてお腹の辺りを確認する。
すると僕の腰の辺りで二本の紐が交差していた。
その紐の先は木の幹にささっている。
反対側は彼女の両サイドにある幹の枝を経由させて、彼女がぐいと引っ張っていた。
なるほど、幹に突き刺した二本の紐で僕をはさんだ後に、
クロスさせて引っ張ることで宙づりの僕を幹の方へに揺らさせたのか。
「布外すからちゃんとつかまってて。」
クンッと布の絡んだ腕を少し引っ張られた感触の後、布はスルスルとほどけていった。
「あんなに簡単に外れる状態だったなんで。」
僕は木の幹にしっかりしがみつきながら、
念着粉つきの布が軽く引っ張られただけで簡単に外れた事に背筋をゾワっとさせていた。
読んでいただきありがとうございます。
20220209読み返してわかりにくい箇所と誤字を修正しました。
ストーリーに変更はありません。




