20 お爺さんの言う事は正しかった件
急ぐ時は、回り道をするんじゃよ。
そんな事を言っていた村のお爺さんの顔が思い浮かびかけた時、より一層大きく枝がしなる音が聞こえた。
先ほど空をきった右手に何かがあたった。
ふわりとそれは僕の手を包んで、そのままクンッと少し上に引かれる感触があった後落下はピタリととまった。
腕と肩だけが上に引っ張られているような状態で痛い。
おそるおそる目を開ける。
薄暗い視界の中、僕の腕には柔らかい布が巻き付いているのが見えた。
上に伸びるその布を辿ると、枝にかかり下に下がる。
その下がった先には、枝の上に平然と立つ見覚えのあるロープ姿があった。
「ふぅ。」
ほっとしたような呆れたようなため息をつきながらその人物はこちらを見ていた。
フードを深く下げているせいで表情は伺えない。
「あなた、馬鹿?」
少し高めのその声は、耳に少しくすぐったい。
鈴のような声だった。
「馬鹿って、いきなりあなた何なんです?!」
腕が痛いから助けて、とかこんなとこで何をしてるのとか、事件の関係者かとか冷静になって言わなきゃいけない事は沢山あったのに、予想外の言葉につい反応してしまった。
「こんな山の中の藪でがむしゃらに走るなんて馬鹿じゃなくてなんなの?」
「うぅっ」
返す言葉もない。
「無鉄砲だけど、ちゃんとした道で追いかけてきたあの子の方がまだマシ。」
ビッツの事を言われて我に返った。
「そうだ、ビッツ!彼はどうなったんですか!」
「そんな事より,そのままじゃ、また落ちるけど。念着粉の効果が切れる。」
念着粉と聞いて、さっと血の気が引いた。
僕は腕から肩にかけて絡みついた薄布一枚で宙ぶらりんの状態だ。
粘着粉は時間経過で効果がどんどん薄れてしまう。
この布が念着粉の力で僕に貼り付いているんだったら、五分くらいでまた僕は落下してしまうだろう。
今度は下の地面までばっちり確認済みだ。
死ぬほどの高さじゃないかもしれない。
でも、打ち所が悪かったらわからないし、死ななくても大怪我はしそうだ。
「えっ、わっ、た、、!助けて!」
ぶらぶらとする足元が不安になり、ジタバタしてしまう。
「いいから落ち着いて。交換条件。」
落ち着けるか!
こんな状態で交換条件を持ち出すなんて!
なんて非情な奴なんだ。
「ひ、ひどい、、、!」
きっと無理難題を押し付けられて僕は死ぬんだ。目に涙が滲んできた。
「大丈夫。難しい事じゃない。商人のおじさんの持ち物にあるピンクの箱を、サポニのリーニャという女の子に渡して。」
「えっ、でも事件に関係あるものだったら、、、。」
「気になるなら中を確認すればいい。
町の噴水の隣の露天で買った、ただのリボン。」
淡々とした彼女の口調に、少しの苛立ちが混じった。
「それとも、 また落ちる?」
「わ、わかった!わかったから!」
「渡す?」
「渡す! 渡します!だから早く!」
怒られるだろうな。
でも、僕は助かりたい!
中身確認していいって言ってるし、
寧ろ手ががりが増えるって事で隊長達を説得してみよう。
まずい、焦りで手から手汗が、、、、!
手で掴んでた箇所の布がするりと抜けた。
体が一段ガクっと下る。
「早くっ!手が滑ってきた!」
「わかったから動かないで。」
そう言い、彼女は布から手を離した。
え?
離した!?
「いやぁあああー!!」
モリスの悲鳴が、静かな森に響き渡った。
読んでいただきありがとうございます。
20220209読み返してわかりにくい箇所と誤字を修正しました。
ストーリーに変更はありません。




